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共同研究開発契約のチェックポイント3【リスクが激減する】

今日はリスクヘッジについて。たまたま今回は「共同研究開発契約」を想定していますが、リスクヘッジのための条項例は、リスクを減らす契約テクニックであり、他のビジネス契約全般に応用できる知識です。

これらの条項の意義は、その取引をすることから、将来起きうる事態、つまりなにかしら不利な出来事が起きる「かもしれない」ために、それが起きてしまった場合の対処や責任関係についてあらかじめ定めておくことにより、不確定な要素を少しでも減らせることです。

たとえば買い手がいったん支払ってくれたライセンス料を返してくれと言われる「かもしれない」ことや、成果物にたいして第三者の権利を侵害しているのではないかと疑われる「かもしれない」という内容が想定にあたります。こうした想定に対応して、あらかじめライセンス料の不返還を定めたり、権利侵害の不保証を明記したりします。具体例を挙げます。


いったん支払われたライセンス料は返さないことを定める例


乙は、本契約に基づき甲に対して支払ったライセンス料に関し、計算の過
誤による過払いを除き、本特許権等の無効審決が確定した場合(出願中のものについては拒絶査定または拒絶審決が確定した場合)を含むいかなる事由による場合でも、返還その他一切の請求を行わないものとする。なお、錯誤による過払いを理由とする返還の請求は、支払後 30 日以内に書面により行うものとし、その後は理由の如何を問わず請求できない。


権利侵害のないことを保証しないことを定める例


甲は、乙に対し、本契約に基づく本製品の製造、使用もしくは販売が第三
者の特許権、実用新案権、意匠権等の権利を侵害しないことを保証しない。
2 本契約に基づく本製品の製造、使用もしくは販売に関し、乙が第三者から前項に定める権利侵害を理由としてクレームがなされた場合(訴訟を提起された場合を含むが、これに限らない。)には、乙は、甲に対し、当該事実を通知するものとし、甲は、乙の要求に応じて当該訴訟の防禦活動に必要な情報を提供するよう努めるものとする。
3 乙は、本特許権等が第三者に侵害されていることを発見した場合、当該侵害の事実を甲に対して通知するものとする。


基本は心配していることを書く

このようにリスクヘッジの条項は、そもそもなにが起こり得るのか、自社にとってそれは脅威であるのかどうかなど、いってみれば「心配」するところからはじまる条項です。

もちろん「そんなことはありえないから心配しないでよい」ということもあれば「意外とあり得るから準備しておくほうがよい」ということもあって、リスク分析や評価の問題になります。決まった正解はなく、常に意見がわかれるところですが、ようするに取引の性質、取引から得られそうな金額(契約金)の大きさによるところが大きいです。


将来戦略の差によるリスク

事業譲渡などを想定しているスタートアップにとって、考えておきたいリスクもあります。たとえば解除事由(こういうことがあったときは、契約を解除してもよい、という理由部分)には普通、「本契約の条項について重大な違反を犯した場合」とか「支払いの停止があった場合、または競売、破産手続開始、民事再生手続開始、会社更生手続開始、特別清算開始の申立てがあった場合」みたいな、契約違反とか経済的な困窮といったものが挙げられることがパターンとなっています。

これも一種の「起こり得ること」への想定ですが、いわゆるチェンジオブコントロールと言って、たとえばライセンスを提供していた相手(ライセンシー)が、M&Aによって他の会社に吸収された場合に、ライセンサーはこれを契約履行上のリスクととらえて、できれば「契約を解除できる」ように、経営権に変動があれば契約を解除できると規定されることがあります。

乙が、他の法人と合併、企業提携あるいは持ち株の大幅な変動により、経営権が実質的に第三者に移動したと認められた場合、甲は、何らの催告なしに直ちに本契約の全部または一部を解除することができる。

ライセンシーとしてもし将来的な会社の売却などを視野に入れていた場合には、こうした条項がデューデリジェンス上のリスクになるなどするため、注意が必要になります。


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