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契約書を読んでみよう! 【一切責任を負いません】はNG?

利用規約などでよく「〇〇は一切責任を負いません」という表現を見かけませんか?

実は事業者と消費者との契約では、こうした表現は不当条項になることがあります。一般常識としてもおもしろいのでちょっと知っておくといいかもしれないです。

消費者との契約では注意が必要

たとえば事業者と消費者と(BtoC)のあいだの取引で、以下のような利用規約の表現があったとします。

「いかなる理由があっても一切損害賠償責任を負いません」
「当社に責に帰すべき事由があっても一切責任を負いません」
「当社に故意又は重過失があっても一切責任を負いません」

これらは「事業者の債務不履行による損害賠償責任をすべて免除する旨の条項」となるので、消費者契約法により無効となる典型例です。消費者契約法は、消費者との契約において事業者側が有利になりすぎないように規制をしている法律です。

「なにがあっても責任を負わない」という表現は、たとえ法律を知らなくてもさすが無理かな、という雰囲気がありますよね。

ちなみに消費者契約法の第8条にはこのように書かれています。

(事業者の損害賠償の責任を免除する条項等の無効)
第8条
次に掲げる消費者契約の条項は、無効とする。
一 事業者の債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除し、又は当該事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項

事業者の責任を全部免除するという書き方だと、無効になるということですね。

一定の補償をすればOK?

全部免除はだめとわかりました。では、ちょっとアレンジして、このように書いてあったらどうでしょうか?

当社は一切損害賠償の責を負いません。ただし、当社の調査により当社に過失があると認めた場合には、当社は一定の補償をするものとします。

ちょっと表現がやわらかくなっています。「一定の補償をする」と約束してくれているので、まあこれなら有効になりそうな気もしますね。

でも、ちょっと待ってください。その文の前には先ほどの「当社は一切損害賠償の責を負いません」も書いてありますよね。

ではこの条項は有効なのでしょうか? 無効でしょうか? 

ちょっと考えてみてください。

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こたえ:無効です。

もう一度読んでみましょう。

当社は一切損害賠償の責を負いません。ただし、当社の調査により当社に過失があると認めた場合には、当社は一定の補償をするものとします。

この条項の書き方だと、この会社が「過失の有無」を調査して、その結果自分が損害賠償するかどうか決められる、という意味になります。

消費者契約法は、このような「事業者にその責任の有無を決定する権限を付与する条項」を禁じているので、無効と判断すべきです。賠償するかどうかを事業者が決めることができてしまうと、消費者が不利になるからですね。

だいたい消費者契約法の世界観がつかめてきたでしょうか? 

では、もうひとつアレンジした例をみてみましょう。

当社が損害賠償責任を負う場合、その額の上限は 3 万円とします。ただし、当社に故意又は重過失があると当社が認めたときは、全額を賠償します。

今度は、賠償責任を負う場合の上限を決めていますね(上限3万円)。これならセーフでしょうか?


損害賠償額の上限設定ならOK?

損害賠償額の上限を決めることは、ビジネス契約ではよくあります。だから有効にみえます。ただし消費者との契約になると注意が必要です。事業者の故意又は重大な過失によるものに限っては、消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項でも無効とされているからです(消費者契約法第8条1項2号)。

つまり消費者との契約では「責任の一部免除(上限を決めるなど)」といえども、事業者に故意または重過失がある場合には無効としなければなりません。

そこで、あらためて例文を見てみましょう。

当社が損害賠償責任を負う場合、その額の上限は 3 万円とします。ただし、当社に故意又は重過失があると当社が認めたときは、全額を賠償します。

これは有効になるでしょうか? それとも無効でしょうか?

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こたえ:無効です。


一瞬、「故意又は重過失があるときは全額賠償します」と書いてあるのだからOKだと思いませんでしたか?

でも、まずいのはその判断方法の書き方(ただし、当社に故意又は重過失があると当社が認めたときは、全額を賠償します)です。

これだと、この事業者が「故意又は重過失によるものではない」と決定しさえすれば、上限3万円の限度においてのみ責任を負うこと(責任を制限すること)が可能になってしまうからです。いってしまえば故意・重過失があるときでも会社がそれを認めなければ、故意・重過失のあるときにおいても責任を限定できてしまうことになります。

よってこの条項は「事業者にその責任の限度を決定する権限を付与する条項」に該当することとなり、法第8条第1項第2号及び第4号に該当し無効となると考えます。

まとめ

消費者との契約では、事業者の債務不履行等の責任を全部免除する条項は認められません。また、責任の一部の免除であっても、故意・重過失があるときは認められません。例文に挙げたのは、いかにもよくありそうな規約表現ですから、気を付けたいですね。今度消費者向けの利用規約を読むときは、こんな条文がないか探してみて下さい。


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