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2020年 民法改正と新たな契約書のポイント【損害賠償条項編】

民法改正をふまえた契約書のポイントについて網羅的な情報を知りたいですか? 本記事では民法改正の概要説明と、契約書のポイントを解説します。
これから契約書を作る方や、ミスが無いようにチェックしたい方は必見です。

2020年 民法改正と新たな契約書のポイント【損害賠償条項編】
 

平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士、竹永大です。


突然ですが質問です。

あなたは、ある美術品の買主だったとします。

購入時の契約書に、

「当事者は、故意又は過失により本契約に違反し、相手方に損害を与えた場合は、その賠償の責めを負う。」

 

 とあったら、あなたならサインしますか?


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答えは、あなたにとってはそのままではサインしにくい条文、となります。なぜそう言えるのか? 購入時の契約書にサインしてもよいか判断ができるために、新しい民法との関係も含めて、損害賠償条項のリスクについて考えてみましょう。


損害賠償とは? 

契約書には書いていなくても、契約の当事者が相手方に損害を負わせた場合には、原則として法律上の損害賠償責任が(債務不履行責任、不法行為責任、製造物責任などによって)生じます。

つまり損害を負わせた当事者は、それを賠償する法律上の責任があるといえます。ところで、すでに法律でそのように決まっているのに、なぜわざわざ契約書に規定するのでしょうか?

 

契約書の損害賠償条項には、

①法律上の責任の「確認」に近いものと、

②法律上の責任を任意に「変更」するもの

があります。

 

①は、法律でそうなっているということの単なる確認です。お互いに権利を確認し合うという意味であり、多くの契約書で採用されています。損害賠償について「何も書かないのも心配だが、かといってそれほど特別なことを規定したいわけでもない」といったシチュエーションで、好んでもちいられる条文です。

冒頭の一文をあらためてみてみますと、

「当事者は、故意又は過失により本契約に違反し、相手方に損害を与えた場合は、その賠償の責めを負う。」 


契約違反によって損害が生じたら、それを賠償する責任があるよという意味です。損害が生じたのだから賠償するのは当然のような気がしますよね。法律的にいえば、契約で定めなくても民法が「不法行為責任」と「債務不履行責任」という2種類の損害賠償責任を認めているから賠償責任はあると考えられます。

ちなみに不法行為責任とは「故意又は過失によって、他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」というルールです。たとえば交通事故など、契約関係にない当事者間であっても不法行為は成立し、賠償責任が生じます。

もうひとつの、債務不履行責任とは、契約などによって義務を負っているのに、その契約に違反するなどして、債務者がその義務を履行しなかったために相手方に損害が生じたら、債務者はその損害を賠償する義務を負うとされています。たとえばレストランの予約を無断キャンセルした場合に、キャンセル料という名目で損害を賠償しなければならないと考えられます。

さてようするに事故にせよ契約への違反にせよ、それによって損害を与えた以上は民法上の賠償責任は負うわけです。冒頭の条文はそのことを大きく変更するものではありません。

 では、契約書で損害賠償に関するこれらの規定を修正して、損害賠償責任を免除したり、あるいは制限することはできるでしょうか? これは強行法規(当事者が任意に変更できない法規のこと)や公序良俗に反しない限りは有効と考えられます。

つまり②の、法律上の責任を任意に「変更」する条文も原則的に有効です。契約の条文によって損害賠償責任を制限するものを「責任制限条項」などと呼びます。

  

なぜ責任制限条項を書くのか
 

なぜ損害賠償「責任」を「制限」するかというと、もちろん自社の賠償リスクを減らしたいからです。巨額な賠償によって経営が致命的なダメージを受けることがあるからですね。

 

責任制限条項にはたとえば次のような条文があります。 

「本契約及び個別契約の履行に関する損害賠償の累計総額は、債務不履行(契約不適合責任を含む、)不当利得、不法行為その他請求原因の如何にかかわらず、帰責事由の原因となった個別契約に定める●●●の金額を限度とする。」

 

これを読みますと、「・・・限度とする」とあるように、損害賠償したとしてもその金額には上限があるとしているわけです。こうして賠償額が高くなりすぎないよう、リミットをつけているのです。


 仮に100万円なら100万円までしか、損害賠償となったとしても補償しないこととなります。限度は金額で定めることもありますし、売上等として「受け取った代金の総額」のように間接的に表現することもあります。

 

どうやって制限するか
 

制限条項では例文のように、上限金額を決めるのがシンプルですが、上限が決められてしまうと、それ以上の賠償が望めないわけですから、買主などの「賠償を受ける側」は、強く反発することがよくあります。

別のやりかたとして、損害賠償の金額(数字)で上限を決めるのではなく、損害の種類によって範囲を制限する表現もあります。

たとえば損害賠償を、

①通常損害に限定する

②直接損害に限定する

③現実損害に限定する

④上記をミックスする(通常かつ現実の損害に限定する、など)

方法です。

 

たとえば「損害を与えた場合は通常損害の範囲まで賠償します」とか「直接損害だけを補償」します、という規定をします。理論的には損害にもいろいろあり、たとえば相手の違反行為との因果関係がわかりやすい損害もあれば、そこから派生した、二次的な損害もあるからです。

つまり、仮に商品が約束通りに納品されなかったとしてと、それにより具体的にどのような損害がでるのかはケースバイケースです。買主がその商品をどのように利用する予定だったかや、実際にどのようなトラブルが起きたかによって異なるはずだし、それらのトラブルのうちどこまでが売主のせいなのかは、解釈にもよります。

「通常損害」と「特別損害」とに区別しているのは、損害全体のうち通常損害までを賠償の範囲に含め、それ以外の部分を含めないという意図があるのです。


過度の期待は禁物

ただ、現実に損害が起こってしまった場合に、なにをもってそれを「通常損害」あるいは「特別損害」とするのかは、非常に難しい問題です。ですので、このように書いたから賠償はまぬかれるだろう、などと油断しないようにしたいものです。ただ定着している表現ではあるので、自社に不利でない内容であれば変更する必要はありません。

逆に言うと買主の立場からは、具体的に「特別損害」になにを想定できるか? 「特別損害」を賠償の範囲から廃除された場合にどれくらいリスクがありそうか? をよく考えてチェックしなければなりません。

また、注意点として、責任制限の規定は、損害賠償義務者に故意や重過失がある場合には適用されない(たとえ責任制限の規定をしていたとしてもそれは無効となる)と一般的に考えられています。

あたりまえのようですが、わざと(故意)損害を発生させておきながら、免責されるのは道理に合わないですし、重過失も同様に考えられているからです(重過失免責は無効、が原則)。

 

改正のポイントは特別損害の範囲
 

制限条項の読み方がわかったところで、さらに、新しい民法では損害賠償請求がどのように規定されているかを確認しておきましょう。


旧民法 

(損害賠償の範囲)
第416条
1.債務の不履行に対する損害賠償の請求は、これによって通常生ずべき損害の賠償をさせることをその目的とする。
2.特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見し、又は予見することができたときは、債権者は、その賠償を請求することができる。

   ↓

新民法

(損害賠償の範囲)
第416条
(1項は旧民法と同じ)
2.特別の事情によって生じた損害であっても、当事者がその事情を予見すべきであったときは、債権者は、その賠償を請求することができる。


「通常生ずべき損害」「特別の事情によって生じた損害」とあるので、改正後も「通常損害」と「特別損害」の概念は、そのまま維持されているとわかります。ただし、「特別損害」のほうは新民法によってその判断基準が変わっています。

 

なぜ「予見すべきであった」なのか

「通常損害」とはその債務不履行があれば通常発生するものと社会一般の観念に従って考えられる範囲の損害であり、特別の立証を要せずに認められるものです。これは旧民法と変わりません。

 「特別損害」のほうは、旧民法では「予見し、又は予見することができた」ときという定義であったのに対し、新民法では「予見すべきであった」かどうかを基準とすることになります。つまり債務不履行により生じた損害のうち、債務者が「予見すべきであった」損害は、特別損害として賠償責任を負うということになります。

「予見し、又は予見することができた」という主観的な基準に対して「予見すべきであった」とは、より客観的な視点といえます。つまり債務者が主観として現実に予見していたかどうかではなく客観的にみて「予見すべきであった」かを問題にして評価しようというニュアンスに聞こえます。(実際は予見していたとしても、予見すべきとまでは言えない場合には特別損害に含まれないことがあり得ます。)

だとすれば「賠償を請求する側」の立場からは、想定される損害について、相手方が予見すべきであったことがわかる程度に、契約書の記載を具体的なものにしておくことが必要です。

 

転売利益は損害に含まれるか
具体的に想定される損害の例として、転売利益があります。

たとえば転売を目的とした商品を売買契約で手に入れようとした場合に、売主のミスで債務不履行が起き、その商品が買えなくなったとします。このとき、買主にとっての損害は、まずは商品を入手できなかったこと自体です。では、商品の転売によって得られたはずの利益(が得られなくなった損害)の方は損害になるでしょうか。買主は転売利益分も立派な損害であり賠償請求されるべきだと主張すると思います。

では売主からみるとどうでしょう。売った後で買主がどうしようが、その転売利益などまで「予見していないし、できない」と主張することも考えられます。どちらの主張にも一理あるような気がします。

はたして、転売利益分は「特別の損害」として賠償の範囲に含まれるのでしょうか? それとも含まれないのでしょうか?

旧民法の考えかたなら、特別損害といえるかどうかは売主が「予見し、又は予見することができた」かどうかであり、その立証の出来具合で判断されることになります。よって、予見できなかったとの主張が通れば、特別損害の賠償は免れます。

対して新民法の考え方では「予見すべきであった」かどうかが基準となるのですから、実際に(主観的に)どうであったかというよりは、その契約の性質によってある程度形式的に決まってくるのかもしれません。

たとえば売買といっても友人同士でのやり取りであれば、通常はそこまで考えて取引にしていないだろうから、予見「すべきとまではいえない」とか、業者間の売買契約であれば常識として転売を予見「すべき」だった、などとジャッジされるかもしれないわけです。


損害賠償条項は変更すべき?

このように民法が変わったといっても、損害賠償の条項自体はこれまでとほとんど変わらずに維持されると考えられます。

ただし、特別損害の定義が特別事情を「予見すべきであった」かどうかになったことを考えると、契約書の目的規定をより具体化することで、契約の主旨がわかりやすいように補強しておくことが有用になると思われます。予見すべきだったかどうかは、契約の目的によっても異なるだろうからです。


契約によるリスクヘッジ

もっと確実なのは、やはりより確実に特別損害の判断ができるよう、債務不履行による損害をどのように賠償すべきか、契約書でもっと具体化することです。つまり、やはり単なる確認規定ではなく、

賠償義務者(売主など)なら、損害賠償の範囲を明確にする(金額の上限を決めるか、または直接損害等に限る等の表現)ことで制限していくべきだし、

 ②買主は、不履行による損害が具体的に想定できるときは賠償額の計算方法を決めるか、はじめから違約金を設定すべきでしょう。


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