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契約不適合責任条項を有利に変更する方法 【売主のための契約書ブラッシュアップ】

契約書を作る際に、契約不適合責任の条項をどう修正すれば適切になるか、あるいは自社に有利になるのか? を解説します。

契約不適合責任とはそもそもなにか?

あなたが買い物をしたときに、もしも買った品物に不具合があったらどう思いますか? きっと怒ると思います。あるいは業者になにかしらの仕事を委託したとして、その仕事の成果物に不良がみつかったら、やはり怒りますよね。そして結論として「売主はどう対処してくれるのか?」が一番気になると思います。

売買や請負の取引において、こうしたトラブルはおそらく昔からあったでしょう。そこで民法でも、このような場合に「売主や業務の受託者がどのような責任を負うのか?」について規定しています。かつては瑕疵担保責任という名前の規定でしたが、民法改正により「契約不適合責任」と名前が変わりました。

具体的にどういうルールなのか、図表にしました。

契約不適合責任ってなあに

このように細かい内容ですが、かんたんにいえば購入者や委託者が商品や成果物に不具合など(契約したものと違うもの)を見つけた場合に売主や受託者にたいしてなにを請求できるのか、いいかえれば「その場合売主や受託者はどういう責任を負うか」を定めたルールなのです。

民法はこのようなルールを定めていますが、実際に当事者間でどう対応するかは、民法のルールどおりとしても良いし、契約書で別のルールを決めても、どちらでも良いわけです。

民法ルールのままでは不利になりやすい

どちらでも良いと言いましたが、もちろん僕としては、契約書で別途ルールを取り決めることをおすすめします。なぜなら、民法に従うと決めても、実際にトラブルが起きたときは、その民法の規定を「どう解釈するか」について、当事者の意見が分かれるかもしれません。あるいは民法の規定のままでは売主に不利なところがあり、都合が悪いかもしれません。ゆえに結果としてトラブルの解決やリスクの制限に役立たない可能性があります。

たとえば、先ほどの図にも書きましたが民法には「契約不適合(種類や品質や数量が契約したのと違っていること)があれば、買主は追完請求、代金減額請求、損害賠償請求、解除ができる」という意味のことが書いてあります。

つまり「契約不適合(約束違反)があったら買主は、やりなおし等の追完をしてもらうか、安くしてもらうか、賠償してもらうか、契約を解除してしまうか、いずれかを選びなさい」といっているわけです。これを仮に「買主の救済方法セット」と呼びましょう。

くり返しになりますが、民法がこうやってルールを決めているのだから「いざというときはそれで構わない」と、民法通りの規定で契約を締結するのもありです。

ただ、民法の「買主の救済方法セット」は、売主や受託者側にとっては使い勝手の悪いルールでもあります。なぜなら、これは「買主をどのように助けるか」というルールであって、売主や受託者の都合ではないからです。

そこで売主としては、民法に言われるがままではなく、もう少し違うルール、ぶっちゃけて言えば売主にとって都合がいいルールを、契約書で新たに取り決めたいわけです。もちろん相手方の同意が得られたらの話ですが、契約書で決めれば、その決めたルールの方が当事者間の取引に適用されます。

では具体的には、「売主」はどんな条項にするのが良いのでしょうか?

売主は救済方法を修正すべきか

まずはオーソドックスなポイントとして、よく専門書などで紹介されている契約不適合責任条項の修正のポイントを解説します。

一般的なセオリーは、民法が規定している救済方法(追完、代金減額、損害賠償、解除=つまり「買主の救済方法セット」)を修正する方法です。

つまり追完の方法を限定する、代金減額の具体的な割合を決めておく、損害賠償の金額を予定する、解除ができる場合について定める、などの修正をしていくわけです。

具体的にどの部分をどうなおすかについては、以下の図表で整理しますが、かなり細かいので、ひとまず一般的には「買主の救済方法セット」を見直すんだな、というイメージを持って読み進めてみてください。

契約不適合責任をさらに深掘りする

ひとことでいうと売主は、買主ができることを狭めていくような修正を加えることが、有利にはたらきます。売主が負担すべき責任(契約不適合責任)を、ある程度絞れるからです。

これはこれで問題ないのですが、注意点もあります。修正した方が契約書上は有利になるのですが、あまりそれにこだわりすぎると現場の実情とズレた内容になりがちです。条文として正しくてもビジネス的には正解ではないというか、使いにくい契約書になることがあるのです。

上記のセオリーはどんな専門書でもたいていとりあげられていて、決して間違いではないので、僕も必要に応じて取り入れますし、否定するわけではありません。ただ、こうした修正の効き目に期待しすぎるのはよくないと考えています。

ポイントをまとめると、以下の通りです。

気を付けたい理由
①「買主の救済方法セット」を修正すること自体は正しいセオリーです。
②ただし、かなり細かくわかりにくい(チェックに時間がかかる)。
③その労力に見合うだけのリスクマネジメント効果があるのかは疑問をもつべき。
④さらに付け加えれば、あくまで文言上有利な契約書をつくることにこだわりすぎると、ビジネス上のメリットを犠牲にするおそれがある。

たとえば、追完方法を契約書でいくら細かく定めても、実際にどういう追完がされるのかは、商品やサービスの性質上、現実的な方法や業界慣習などである程度すでに既定路線があったりします。現実に行われる方法(実態)を無視して、いくら契約書で有利だからと詳細に規定しようとがんばっても、意味や効果は薄いと思われます。

請求可能な期間を修正すべきか

次に挙げておきたい修正のコツは、「請求可能な期間の短縮」です。

民法は、売主の担保責任の期間制限として「買主がその契約不適合を知った時から1年」と定めています(民法566条)。かんたんにいえば、不具合を見つけたのに放置していたら、売主に請求する権利がタイムリミットとなって、請求できなくなるのです。その時間的猶予が「知った時から1年」だということです。

売主は「(買主が)知った時から1年」よりも「納入の日から1年」としたり、さらに期間を短縮して(6か月や3か月といったように)規定することで有利になります。民法のように「知った時」だと、実際にはいつになるかわかりませんから、担保される期間を客観的に明確にするために始期を決めるのは合理的な修正です。「1年」という期間も、より短くしたほうが担保責任を負うべき期間を短縮できるため、売主に有利といえます。

もっとも、商品やサービスによっては納入されてから1年間を待たずに消費される性質のものもあるはずです。ゆえに期間制限は、商品やサービスの特性によって期待される期間が異なることを念頭に規定されるべきでしょう。

絶対におすすめの修正ポイント

以上が一般的によく挙げられる、契約不適合責任の修正ポイントです。最後に僕のおすすめとして、ここだけはこだわった方が良い修正ポイントを説明します。

それは、「契約不適合の定義」です。つまり、「なにをもって契約不適合とするのか」を判断するための規定が重要なのです。

民法では契約不適合を「目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるとき」と定義しています。ところが、実際のビジネスにおいて、具体的に何がどうなったら契約不適合といえるのかは、千差万別です。

もしかすると買主が「契約不適合」だと思っても、売主にとってはそうではないかもしれません。見解の相違ということもありますが、当然、買主は広く不具合全般を契約不適合にあてはまると主張するものだし、売主や受託者は逆に、狭く解釈したいはずです。つまり、ある不具合が契約不適合とされるのかどうかで、立場上意見が分かれるし、利害が対立してトラブルになりやすいのです。

これを防ぐために、売主や受託者は「契約不適合にあたる場合」を限定的に定め、契約書に定義や例示を追加することでリスクを減らしていくべきです。

まとめ

①契約不適合責任は、成果物の不具合などが見つかったときどうするかのルール。
②買主の救済方法セットを修正するのがセオリーだが、ここはこまかい(こまかすぎる場合もある)ので注意するべき。
③期間制限も、短縮するのがセオリーだが、具体的なビジネスの特性をよく考慮すべき。
④契約不適合の定義だけは重要。商品やサービスの特徴をふまえて定義をよく検討するべき。

蛇足ですが、有利に条文を修正することにこだわりすぎると、現場の常識からかけ離れた規定となりやすく、時間をかけたわりに使いづらいだけの契約書ができあがるおそれがあります。契約書は取引を円滑にするツールですから、手を抜かずに、かつ、シンプルに意味のある修正を心がけたいものです。

以上、少しでも参考になれば幸いです。

追伸

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