note_ノート_記事見出し画像_hosyou_アイキャッチ

2020年 民法改正と新たな契約書のポイント【保証条項編】

民法改正をふまえた契約書のポイントについて網羅的な情報を知りたいですか? 本記事では民法改正の概要説明と、契約書のポイントを解説します。
これから契約書を作る方や、ミスが無いようにチェックしたい方は必見です。

2020年 民法改正と新たな契約書のポイント【保証条項編】



平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士、竹永大です。

 あなたはある不動産の貸主(大家さん)だったとします。

もしも賃貸借契約書に、 

「丙(連帯保証人)は、甲(貸主)に対し、乙(借主)が本契約上負担する一切の債務を連帯して保証する。」


とあったら、あなたならサインしますか?

画像1

 答えは、・・・改正法施行後は、サインすると危険な契約書となるでしょう。

なぜそう言えるのか? 確認していきましょう。

そもそも「保証契約」とはなにかというと、代金の支払などの債務を負う主債務者(賃借人などのこと)が、その債務(家賃など)の支払をしない場合に、代わりに支払をする義務を負うことを約束する契約をいいます。

この「保証」に関しても、民法改正で新しいルールが導入されています。特に賃貸借契約をする方にとっては、非常に重要な部分です。

連帯保証とは?
 

「連帯保証人」の条項は賃貸借契約によくみられます。簡単にいえば、本来の債務者の代わりに払ってくれる人を決めておくものです。賃借人がたとえば家賃を滞納した場合に、それを賃借人の代わりに大家さんに払う人、ということです。

ちなみに「保証」との違いですが、保証人と連帯保証人は「代わりに返済する」人という意味では同じです。ただ責任の細かな性質に違いがあって、結論だけいえば連帯保証の方が責任が相当に重いです。

つまり「連帯」保証人には、「催告の抗弁権」がありませんから、債権者がいきなり連帯保証人に対して請求をしてきた場合には、これを断れません。(通常の保証人であれば「まず先に主債務者に請求せよ」と主張できます。)また、連帯保証人には「検索の抗弁権」もありませんから、債務者本人がたとえお金に余裕があったとしても「持ってるはずだから本人に請求してよ」という主張ができず、自らが返済の義務を負ってしまうことになっています。

さらに連帯保証人には「分別の利益」もないということで、連帯保証人が複数いても、その人数で割った金額のみではなく、それぞれが全額を保証することになります。債権者の立場からすれば、連帯保証のこうした性質は誠に都合がよく、担保性が高いといえますから、契約で保証といえば事実上、「連帯」保証人が設定されることになります。

また、継続的な取引から将来発生する不特定の債務をまとめて連帯保証することを「根保証」といい、個人がする連帯保証が根保証契約であることを「個人根保証契約」といいます。これもものすごく簡単にいえば、現実にどれだけの債務が発生するのかがはっきりしないけれど、この先に生じる債務も含めて代わりに払ってくれる人のことです。いわば完全なる肩代わりですから、個人根保証はかなりリスクが高いということがわかります。 

民法改正で変わったこと
 

さて新しい民法では保証のルールが変わり、個人保証に関しては極度額を定めなければならなくなりました。つまり個人(会社などの法人は含まれません)が保証人になる根保証契約については、保証人が支払の責任を負う金額の上限となる「極度額」を定めなければ保証契約は無効となります。この極度額は書面等により当事者間の合意で定める必要があります。

 

極度額の定めが必須になった

「極度額」とは保証人の責任限度額、つまり保証の上限額のことです。一体いくらまでの責任なのかを事前にはっきりさせておくわけです。

 よってたとえば不動産の貸主(大家さん)が、賃貸借契約の連帯保証人を定める際は、契約書に「極度額」の記載が必須になります。これまでの賃貸借契約書や保証契約書の書式には、極度額の記載はあまりみかけませんでした。

 たとえば

「連帯保証人は、甲に対し、乙と連帯して、本契約から生じる一切の債務を、極度額100万円の範囲内で保証する。」

 などと明確に書いておかないとならないのです。改正法施行後は、記載を忘れると無効になってしまい、つまり保証人に払ってもらえなくなってしまうため、気を付けなければなりません。

ここであらためて冒頭の一文を見てみましょう。

「丙(連帯保証人)は、甲(貸主)に対し、乙(借主)が本契約上負担する一切の債務を連帯して保証する。」


どうでしょう。極度額の定めがありませんよね! ということは新民法が施行される2020年4月1日以降に連帯保証契約を締結する場合は、この条文では保証は無効となってしまいます。賃貸借契約書の保証条項や「保証人承諾書」などの書式をもう一度チェックしたほうがよいでしょう。

極度額の書き方は? 金額はいくら?

では具体的に、極度額の記載はどのようにしたらよいでしょうか?

 文章としては「金100万円を極度額として乙と連帯して債務を履行する責を負う。」とか、「賃貸借契約締結時の賃料の〇か月分相当額を限度額として乙と連帯して債務を履行する責を負う。」などと書きましょう。

 「極度額をいくらに設定すべきなのか」については決まりが無いので、任意に決めてよいのですが、手掛かりがないとかえって決めづらいものです。国土交通省が極度額設定のためのデータを「極度額に関する参考資料」として公開していますのでこちらを参考にしてください。

 また、根拠となる新民法の条文は以下です。

  (個人根保証契約の保証人の責任等)第465条の2  一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は、主たる債務の元本、主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について、その全部に係る極度額を限度として、その履行をする責任を負う。
2  個人根保証契約は、前項に規定する極度額を定めなければ、その効力を生じない。
3  第446条第2項及び第3項の規定は、個人根保証契約における第1項に規定する極度額の定めについて準用する。

  

もうひとつ注意しておきたい改正点として、「情報提供義務」があります。

 

保証人になることを主債務者が依頼する際の情報提供義務 

まず、事業のために負担する債務について保証人になることを個人に依頼する場合には「保証人になるかどうかの判断」をしてもらうために、主債務者は保証人になってくれる人に対して次の情報を提供しなければならないとされました。


①主債務者の財産や収支の状況
②主債務以外の債務の金額や履行状況等に関する情報

 

このルールは事業用融資のほか、売買代金、テナント料など、主債務者が事業のために負担する債務を主たる債務とする保証、または主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証債務の保証をする場合にも適用されます。

たとえば事業用の賃貸借契約に個人の保証人をつけてもらうような際、ちゃんと主債務者の財産状況を伝えたうえで、保証人になってもらうということです。これらの情報を提供しなかったり、事実と異なる情報を提供したために依頼された人が誤認して保証を引き受けた場合は、保証人は保証契約を取り消すことができます。

(契約締結時の情報の提供義務)第465条の10 主たる債務者は、事業のために負担する債務を主たる債務とする保証又は主たる債務の範囲に事業のために負担する債務が含まれる根保証の委託をするときは、委託を受ける者に対し、次に掲げる事項に関する情報を提供しなければならない。
一 財産及び収支の状況
二 主たる債務以外に負担している債務の有無並びにその額及び履行状況
三 主たる債務の担保として他に提供し、又は提供しようとするものがあるときは、その旨及びその内容
2 主たる債務者が前項各号に掲げる事項に関して情報を提供せず、又は事実と異なる情報を提供したために委託を受けた者がその事項について誤認をし、それによって保証契約の申込み又はその承諾の意思表示をした場合において、主たる債務者がその事項に関して情報を提供せず又は事実と異なる情報を提供したことを債権者が知り又は知ることができたときは、保証人は、保証契約を取り消すことができる。
3 前二項の規定は、保証をする者が法人である場合には、適用しない。

 

 また、保証人も、債権者に対して情報の提供を求めることができるというルールがあります。不動産賃貸借の例でいうと債権者とは大家さんのことです。

 主債務の履行状況に関する情報提供義務
 

保証人(この場合個人、法人を問わない)から請求があれば、債権者は、債務の元本や利息、違約金、損害賠償などの情報を提供する義務を負います。これはつまり保証人が大家さんに対して、賃借人の債務の履行状況などについて聞きだすことができるわけです。

通常、大家さんは賃借人の経済状況とか債務の履行状況などを、他人にぺらぺらとしゃべってしまうわけにはいきません。ですが、保証人から請求された賃借人の債務の履行状況などを提供することに関しては別ということになります。

大家さんは契約締結時などにこうした「情報提供」の可能性(保証人から履行状況についての情報提供の請求を受けたときは新民法の458条の2の情報を提供すること)を、あらかじめ賃借人に説明しておくべきでしょう。

(主たる債務の履行状況に関する情報の提供義務)
第458条の2  保証人が主たる債務者の委託を受けて保証をした場合において、保証人の請求があったときは、債権者は、保証人に対し、遅滞なく、主たる債務の元本及び主たる債務に関する利息、違約金、損害賠償その他その債務に従たる全てのものについての不履行の有無並びにこれらの残額及びそのうち弁済期が到来しているものの額に関する情報を提供しなければならない。

 

さらにもうひとつ、情報提供のルールがありますのでついでに確認しましょう。

主債務者が期限の利益を喪失した場合の情報提供義務

債権者にはさらに、主債務者が期限の利益を喪失した場合にも、それを保証人(保証人が個人の場合)に通知する義務があります。


債務者が分割での支払を遅滞するなどしたときに、一括払いの義務を負うことを「期限の利益の喪失」といいます。ようするに支払いが遅れたために、待ってもらえるはずの支払も待たずに支払わなければならなくなるのです。

 主債務者が期限の利益を喪失すると、遅延損害金が発生するなどして債務の額が大きくなります。保証人にとってもそれは不利ですから、知らせてやる必要があります。そこで、保証人が個人である場合には、債権者は主債務者が期限の利益を喪失したことを債権者が知った時から2か月以内にその旨を保証人に通知しなければならないとされました。

 (主たる債務者が期限の利益を喪失した場合における情報の提供義務)
第458条の3  主たる債務者が期限の利益を有する場合において、その利益を喪失したときは、債権者は、保証人に対し、その利益の喪失を知った時から二箇月以内に、その旨を通知しなければならない。
2 前項の期間内に同項の通知をしなかったときは、債権者は、保証人に対し、主たる債務者が期限の利益を喪失した時から同項の通知を現にするまでに生じた遅延損害金(期限の利益を喪失しなかったとしても生ずべきものを除く。)に係る保証債務の履行を請求することができない。
3  前二項の規定は、保証人が法人である場合には、適用しない。

 (大家さんなどの)債権者にとって、この情報提供義務は地味ですが非常に重要です。なぜなら、もしこの通知を忘れると、保証人に対する保証債務の履行の請求が、その期限の利益を喪失することによって生じるはずだった遅延損害金部分についてはできなくなるからです。つまり遅延損害金の分だけ取り損なうわけです。

個人保証の場合にはこの通知を忘れないようにしなければなりません。 (債務者が期限の利益を喪失した際には、それを催告書などによって債務者に通知する際に、保証人にも同時に通知をするのがよいでしょう。)

  

最後に宣伝です

【忙しい事業者さまへ】

契約書作成には、手間と時間がかかるうえに、
自分だけで考えても、不足している部分がでてきたりします。

 

「自社でもつくれるけど、正直手が回らない!」
「第三者の客観的な視点で、ちゃんとしたものをつくりたい」

 

そのようなときは、平成15年から契約書だけをつくり続けてきた契約書専門の行政書士をご利用ください。ヒアリングの後、一般的な条文をつけ加えて下書きを作成し、ご確認いただいてから修正して完成します。

 

某公社さま、エージェンシー会社さま(複数)、IT関連企業さま(複数)からも、速さと丁寧さを絶賛いただいています。

 

企業でよく使われる業務委託契約、代理店契約、ライセンス契約、フランチャイズ契約が、およそ2週間で、できあがります。


メールでのご相談、お問い合わせは無料(メール相談のみ)です。

まずはホームページからご連絡ください。

もしこの記事が少しでも「役に立ったな」「有益だな」と思っていただけましたら、サポートをご検討いただけますと大変嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。