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共同研究開発契約のチェックポイント

共同研究開発契約については、業務委託契約のような一般的な解説が少ない気がします。そこで、「共同研究開発契約をつくることになった方」のために、考え方やチェックポイントをまとめます。


契約書チェック全般のポイント

共同研究開発契約に限らず、そもそも契約書のチェックとはなにをするのかですが、いくつかの視点があります。下記のように、事前に「なぜチェックするのか」を把握してから契約書に取り組むほうが効率的です。例を挙げますのであなたの視点を明確化するための参考になさってください。

チェック全般のポイント
①そもそも契約類型の選択はあっているのか(この場合この種の契約でいいのか、なにか他の契約類型ではないのか)のチェック

②想定されるリスクのうち、絶対に避けたいリスクと、把握できていればよいリスク、あるいは把握しながらあえて受け入れるリスク、というようにリスクの仕分けをするためのチェック

③相手方とトラブルになった場合を想定して、対策をたてる(たとえば相手が倒産したとか、訴えられたらとか、逆に訴えることになったら、など)ためのチェック

④法的な問題がないかどうかチェック(高すぎる違約金、業法違反、公序良俗違反など)


契約書チェックの前に準備すること

また、事実関係(相手方は本当にその会社なのか、値段や計算は本当にただしいのか、そもそも交渉のなかででてきた条件と契約内容とがあっているのか、など)についての確認は、契約書だけを読んでいてもわかりません。

必ず、担当者に質問できる環境をととのえ、十分に資料収集(パワポ資料、打ち合わせで使われた説明資料など)を入手してからチェックするほうが、あとで作業が楽です。


共同研究開発に特有のリスクの理解

共同研究開発自体には、相手方に誰を選ぶかという問題と、秘密情報が漏洩したり自分に不利に用いられないかというリスク、そして研究開発自体の失敗のリスクがともないます。

よって、いかに仲良くできる相手方を選ぶか、情報管理をどう徹底すべきか、研究開発の成否の基準を事前に明確にできるか、などの視点をもっておくことが、契約書のチェックにおいても大事だと思います。

もちろん、契約書をチェックする段階になってから相手方を選んだりはできないでしょうし、情報管理も契約書だけの問題ではないので、限界はあります。ただ、典型的な問題についてあらかじめ理解しておくことが、契約書のチェックにも役立つことはあります。


前文と目的のチェックで「範囲」を明確にする

いよいよチェックポイントですが、まず前文及び目的条項にて、研究開発の範囲を確定しましょう。

前文とは

「X 社(以下「甲」という。)と Y 社(以下「乙」という。)は、本製品(第 1 条で定義する。)の研究開発および製品化を共同で実施することについて、次のとおり合意したので共同研究開発契約(以下「本契約」という。)を締結する。」

のような条項であり、
目的とは

「 1 条(目的)第 1 条 甲および乙は、共同して下記の研究開発(以下「本研究」という。)を行う。」

のような条項です。ここで研究開発の内容を具体的に箇条書きしておきます。どのような箇条書きになるかは、個々の事情によって任意になりますので、ひな型等で示すことは難しいですが、それでいて重要なポイントでもあります。

どういうことかというと、契約の前文や目的の条項は、その契約が何についての契約なのかを明らかにする役割があります。共同研究開発契約でいえば、研究テーマや、どういった趣旨の研究開発なのかを表します。

つまり「契約の範囲」がここで決まるのですが、注意すべきことは、「範囲」はできるだけ明確(具体的)な方が良いということです。たとえばテーマが抽象的すぎると、結局どの取り組みについての契約だったのかがあいまいとなり、互いの「範囲」に対する認識がズレるというリスクがあります。

これは地味ですが結構こわいことです。

なぜなら、日々たくさんの業務や研究開発を行う中で、どの成果がどの研究によるものかは、重要であり、かつ、不明確になりやすいことだからです。自社内のことならそれでよいのですが、「共同」研究開発の場合は、致命的です。

下手をすると自社の研究の手柄を相手にとられるかもしれませんし、あるいは自社の成果が相手から見た場合に本契約の範囲外とされて、活用できなくなるかもしれません。

そこで、目的条項により具体的な研究開発の内容が特定できる程度に、詳しく書くべきでしょう。


定義条項により、特にコンタミネーションリスクを回避する

定義とは、

「 本契約において使用される用語の定義は次のとおりとする。」

のような条項です。用語の定義をすることで契約書でつかわれる用語の意味を明確化します。

通常のビジネス契約書でも契約書の前半部分で定義条項がおかれますが、共同研究開発契約に特有の問題として、バックグラウンド情報(共同研究
開発契約締結時にすでに保有していた技術情報)の問題があります。

契約書だけでどうこうできる問題でもないのですが、バックグラウンド情報を契約書でも定義しておくことは重要です。

定義例は、


本契約において「バックグラウンド情報」とは、本契約締結日に各当事者が所有しており、本契約締結後 ○○ 日以内に、当該当事者が他の当事者に対して書面で、その概要が特定された、本研究に関連して当該当事者が必要とみなす知見、データおよびノウハウ等の技術情報を意味する。

となります。

ようするに契約前からすでに自社が保有していた情報なのに、契約締結後にうまれた情報がまざってしまうと、前からあった情報だということが証明しにくくなり、それらの情報に関する知的財産権の帰属の問題を引き起こします。いわゆるコンタミネーションリスクであり、もめる原因です。

リストアップするなりして、証拠化しておく必要があります。


少し長くなりそうなので、続きはまた次回書かせていただきます。


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