死因贈与契約とはなにか

「自分が死んだら、自分の財産を誰かに贈与したい。」

死因贈与は、生前に当事者間で約束しておき、本人の死亡によって効力が生じる贈与契約です。自分が死んだら妻に一切の財産を渡したい、のように、死後における自分の意思を実現するための契約の一形態といえます。

折しも日本は高齢化社会、多死社会、2025年問題(=2025年には約800万人いる団塊の世代が75歳になります。これにより「国民の4人に1人が後期高齢者」となり、社会構造的な分岐点といわれています。)などが言われだしてから久しいこともあり、人生の終末についてなにか思うところがある人も多いのではないでしょうか。

そもそも「贈与契約」とはなにか(民法)

民法でいう「贈与契約」を確認しておくと、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える契約のことです。合意のみで成立する、いわゆる諾成契約です。つまり贈与契約を成立させるのに、何ら形式は問われません。成立の要件としては、そもそも契約書すら不要であるといえます。

第549条
贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

民法第549条

ただし、書面によらない贈与は「解除」できるとされており、

(書面によらない贈与の解除)
第550条書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。

民法第550条

証明の困難性などからいっても、事実上、贈与契約書の作成はほぼ「必須」だといえるでしょう。

遺贈とはちがうのか?

死因贈与契約に話をもどすと、贈与契約の一種であり、贈与者の死亡により効力を生ずる贈与です。いわゆる「遺贈」との違いは、遺言書のような一定の法的な形式(たとえば「自筆証書遺言」によるのであれば、原則として全文を自分で手書きしなければいけないし、開封の際は家庭裁判所の検認手続きが必要になるなど、様々なルールがあります。)が問われないこと、遺贈(遺言)のような「単独行為」(=自分の意思表示でできる、相手方の承諾がいらない法律行為のこと)ではなく、あくまで当事者間の「契約」であることなどがあります。

ただ、本人(贈与者)の死亡により効力が生じることや、財産が移転するという意味では同じなので、死因贈与にはその性質に反しない限りにおいては、遺贈に関する規定が準用されることになっています。

第554条
贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。

民法第554条

ともあれ成立要件だけを考えると、死因贈与契約のほうが面倒な手続きがいらない分、一見「簡単」に見えてきます。

死因贈与契約書の書き方

具体的にはどのような契約書になるのでしょうか。前述のとおり、贈与契約は形式が決まっていませんから、特にこう書かなくてはならないということはなく、自由に作成できます。

例文を挙げるならば、おおむね以下のような文言で作成されます。

  1. 贈与者〇〇(甲)は、甲の有する一切の財産を、受贈者〇〇(乙)に対し贈与することを約するものとし、乙は、本日これを承諾した。

  2. 前条の贈与は、甲の死亡によって効力を生ずるものとし、これにより甲の財産の一切の権利が、乙に当然に移転するものとする。


上記例のように対象財産を「一切の財産」とすることも可能です、実際には財産の一部だけを贈与したり、不動産など対象となる具体的な財産を特定するニーズがあるでしょうから、たとえば「下記の不動産を乙に贈与する」「甲の一切の財産のうちの、〇分の1を、乙に贈与する」といったバリエーションが考えられます。

死因贈与契約の履行を確実にするためには?

ところで現実に贈与者が亡くなったとき(この契約の効力が生じたとき)、どのようにしてこの契約が履行されるのでしょう? 当事者の一方が亡くなったのに、ちゃんと契約は守られるのでしょうか?

財産を持っている人が亡くなると、通常は法定相続人に対して相続が発生します。つまりもし法定相続人のいらっしゃる方が死因贈与契約をした場合、法定相続人と受贈者との間で、トラブルになったりしないのでしょうか?

結論をいうと、これらの懸念に関しては、執行者を指定する、死因贈与契約を公正証書にしておく、対象不動産は仮登記をしておく、などの対策が考えられます。トラブルが消えてなくなるわけではありませんが、より確実に履行するために、撤回や疑義を防ぐための手を打っておくわけです。このように考えると、死因贈与もさほど手軽な手段とはいえないかもしれませんね。

まとめ

僕の専門であるビジネス契約にはほとんど登場しない「贈与契約」の復習を兼ねて、死因贈与を確認してみましたが、死亡が効力発生条件とは、なかなか面白い契約ですよね。

実際には相続全般がかかわるので、そう単純な話ではなく、遺言や信託(家族信託)による方法などとも併せて検討し、本当に贈与契約がベストなのか? をよく確認して目的に合ったスキームを選択しなければなりません。

そこを考えると当初のイメージほどには「使いやすい」ものではないのだな、というのが僕の率直な感想です。特に税務上の観点も重要な考慮要素になるので、相当多面的にプランニングしたうえでないと、この契約の位置づけや良しあしは判断できません。

とはいいつつも、日本の社会がここまで高齢化しているなかで、誰もが関心をもつであろう相続関連手法のひとつとして、知っていたい、覚えておきたい契約類型でした。

もしこの記事が少しでも「役に立ったな」「有益だな」と思っていただけましたら、サポートをご検討いただけますと大変嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。