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共同研究開発契約のチェックポイント2【役割と知財/最重要項目】

今回も、共同研究開発契約に典型的なチェックポイントを説明します。今回のところがこの契約で「最も重要」な確認ポイントになります。つまり役割を決めることと、知的財産権の帰属を決めることです。


役割分担を確認する

役割分担の条項は、次のように定めます。

「甲および乙は、本契約に規定の諸条件に従い、本研究のテーマについて、次に掲げる分担に基づき本研究を誠実に実施しなければならない。」
① 乙の担当:○○○の設計 ・・・
② 甲の担当:○○○の検討 ・・・

ソフトウェアの請負契約などにもみられますが、お互いに担う業務がある取引の場合に、それぞれの役割分担を定めることは、認識のずれを防ぐ良い方法です。

チェックポイントとしては、もちろん自社と相手方の各担当分野に過不足や間違いがないかどうかですが、往々にして契約書作成時点ではまだ詳細な分担までは決まっていないことがあり、悩むところです。

しかし、妥協できない部分でもあります。

なぜなら、共同研究開発契約は請負契約と違い、原則として「完成義務」がありません。何らかの成果物の「完成」を目的としているのではなく、それぞれの役割(担当業務)を善管注意義務の範囲内で行い、その成果を報告し合うという一種の「準委任契約」と考えられます。

ある業務について、自社は相手がやってくれると思っていた、相手はこちらがやるものと思っていた、というように、期待のすれ違いが起こりやすいと考えられます。「完成」というゴールによって定義できない以上、「役割分担」や「スケジュール」などによって、事務の内容を明確化し、義務付ける必要があります。


スケジュールの定め方の条項例

甲及び乙は、本契約締結後速やかに、本契約に定める役割分担に従い、本件研究テーマに関する自らのスケジュールをそれぞれ作成し、協議の上これを決定するものとする。
2 甲及び乙は、前項のスケジュールに従い開発を進めるものとし、進捗状況を相互に報告する。また担当する業務について遅延するおそれが生じた場合は、速やかに他の当事者に報告し対応策を協議し、必要なときは計画の変更を行うものとする。

ここでのポイントは、「スケジュールはあとで変わる可能性が高い」ということです。というか、契約締結のときに決めたスケジュールが完全にそのとおりに履行されることはまずないと考えて、必ず変更を協議できるような弾力的な内容にすべきです。

ほかにも役割分担や、各自の責任についての認識の齟齬を減らすという意味で考えられる条項として、「経費負担」に関する条項(研究にかかる経費は当事者の一方が負担するのか、それとも各自が相応に負担するのかを定める)があります。

たとえば共同研究開発契約といっても、費用は一方の当事者が全額支払うかわりに、他方は研究開発のみに専念する、という契約もあり得るわけです。この点で認識の食い違いが起きては大変ですので、慎重に確認して規定しておく必要があります。


知的財産権はどちらのものになるのか?

請負ではないので成果物はないと言ったばかりですが、共同研究開発にも当然、当事者が意図する成果(知的財産権)はあるわけで、ビジネス上その活用が最重要ポイントであることは変わりません。

ようするに手柄はどちらのものになるのか? どうやって配分するのかです。投資的な判断としてこの契約の成否はここで決まるといっても過言ではありません。よって、この条項が最重要項目となります。

費用を負担したからといって、必ずしも知的財産権の帰属も得られるというのは誤解であり、よく認識のずれが起きやすい部分でもあります。

そもそも研究成果としての知的財産権の帰属は、どうあることを目指すべきでしょうか。

純粋に、パターンとして考えられるのは、

①あなたの会社に単独で帰属させる
②お互いの共有とする
③知的財産等を発明した当事者に帰属させる
④当事者間でその都度話し合って決める

などがあります。ただ、4番目の「その都度話し合う」というオプションは、非現実的だと思います。知的財産権の帰属という非常に重要なことに関して、共同研究開発契約の締結時に決められなかったことが、あとから話し合いで決められるとは思えないからです。

また、3番目の「発明当事者に帰属させる」とか、2番目の「共有」とかいった選択肢も理屈では可能ですが、実際に研究成果を効果的に活用するには邪魔になるやりかたで、こちらも極力避けたい道です。

結局のところ、第一選択は「単独帰属」であり、あなたの会社なり組織が、研究成果である「知的財産権」をいわば「独り占め」できることを優先的に検討すべきではないでしょうか。

たとえば

本発明にかかる知的財産権は、甲に帰属する。

としてしまうということです。

もちろんこの場合、甲に帰属することとなる知的財産権を、乙に許諾することになると思われます。

別途ライセンス契約を締結することもできますし、共同研究開発契約のなかで、許諾に関する条項を設けることもできます。複雑になる場合は別途契約した方が良いでしょう。

共同研究開発契約の中に許諾の条項を設ける場合は、例文としては以下のような条項になります。


甲は、乙に対し、下記の条件で乙が本発明を実施することを許諾する。

                記
ライセンスの対象:本製品の設計・製造・販売行為
ライセンスの種類:本契約締結後●年間は独占的通常実施権を設定し、その後は非独占的通常実施権を設定する。ただし、本契約締結後●年間を経過する前であっても、正当な理由なく乙が本発明を 1 年間実施しない場合には当該期間の満了時より、または、乙が本発明を乙の事業に実施しないことを決定した場合には当該決定時より、非独占的通常実施権を設定する。
ライセンス期間 :本契約締結日~●年●月●日は独占的ライセンス
サブライセンス :不可
ライセンス料 :無償
地理的範囲 :日本国内
以上


次回は、リスクを激減させる、リスクヘッジのための条項の検討に入りたいと思います。



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