見出し画像

クラウド電子契約に推定効! どこがすごいのか【2020新解釈】

クラウド電子契約にも推定がほぼ認められることになります。非常に画期的なことなのですが、いまいち「なにがすごいのかわからない」という方もいるかもしれないので説明します。

実は数日前に、僕も「電子契約にも推定効を」という内容でnote記事を書いたばかりだったのですが、新たな行政解釈の発表により、早くも概ね実現してしまったことになります。


あたらしいQ&Aの公表

新しい発表資料は以下の法務省のリンクから読めます。

概略をいうと、2020年9月4日付、総務省・法務省・経済産業省の連名で「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」が公表されました。

法務省ウエブサイトリンク


そもそもどういう話?

これまでの契約の締結の際は、みなさん契約書にハンコを押していましたよね。これにはいろんな理由がありますが、法的な意味で重要なのは、もし裁判になったときに、その契約書が間違いなく本人の意思で作成されているのかどうかという、その証明のしやすさです。これを、本人のハンコが押してあったら、真正に成立した、つまりたしかに本人によるものらしいぞと「推定する」というルールがあります。

「真正性の推定」とか「推定効」といっているのは、これのことです。

つまり、ハンコが押してあることで(雑な表現ですが)証拠として採用されやすい、というわけです。

もちろん「推定」はあくまで「推定」なので、覆される可能性だってあるわけですが、それでも前提として「推定する」ことが法律で決まっているのは、提出するほうとしては非常に心強いというか、有利です。


脱ハンコ

このように「ハンコには推定効がある」と、業界では常識として定着していたのですが、そこへやってきたのがおなじみの「電子契約」です。特に今年は「脱ハンコ」ということがさかんに言われ始めました。「ハンコのためだけの出社」なんておかしいと。

電子契約にすれば、「電子」ですから、当然ハンコは要りません。そもそも紙の書類もないわけで、となると、ハンコが無いのに、もし裁判になったらどうするの? という心配がでてきます。例の「推定」はどうなるんだろう、電子契約でも紙の書類のハンコと同じように、有利に判断してくれるのだろうか? と。


電子署名法3条による推定とは

そこで、電子署名法という法律を読むと、
例の「推定」については2条と3条に書いてあります。

(定義)
第二条 この法律において「電子署名」とは、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。
(中略)
第三条 電磁的記録であって情報を表すために作成されたもの(公務員が職務上作成したものを除く。)は、当該電磁的記録に記録された情報について本人による電子署名(これを行うために必要な符号及び物件を適正に管理することにより、本人だけが行うことができることとなるものに限る。)が行われているときは、真正に成立したものと推定する。

まず目に飛び込んでくるのが「推定する」という文字です。

流れをごく簡単にいうと、まず2条に「電子署名とはこういうものだ」という定義が書いてあって、3条では、それに該当するなら「真正と推定する」ということが書いてあります。

2条の定義は、つまりワードとかでつくったファイルを、たしかに本人がつくったものだと示すことができて、しかも、改ざんされてないことを確認できるようにしたものが、電子署名だとしています。

そもそもこの2条の定義からはずれてしまえば、電子署名にすら該当しないわけですから、その先の「推定」などは論外になります。だからもしもクラウド型電子契約が、2条の電子署名に該当しなかったら元も子もないわけです。

ただ、この点については以前すでに出された以下のような見解によって、電子署名に該当するという解釈が発表されて、クリアしています。

同サービスの提供について、技術的・機能的に見て、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されているものであり、かつサービス提供事業者が電子文書に行った措置について付随情報を含めて全体を1つの措置と捉え直すことによって、当該措置が利用者の意思に基づいていることが明らかになる場合には、同法第2条第1項に規定する電子署名に該当すると考えられる。

つまりクラウド型電子契約でも、全体的にみれば電子署名に該当するということですね。この解釈によって、そもそもクラウド型電子契約サービスは電子署名法のいう電子署名にあたるのかどうかという議論は、一応決着しました。

クラウド型電子契約は推定されるのか

2条が定義する電子署名であることはわかった。けれど、じゃあ3条でいうところの推定ははたらくのかそうでないのか。ここがわからなかったんですね。

3条にも、電子署名が「本人だけが行える」ものなら「推定する」と書いてありますから、推定されるものと考えていいような気がしますが、でも「本人だけ」という部分が微妙に壁となって、クラウド型電子契約では推定効がはたらかないといわれていました。

クラウド型電子契約(事業者署名型)というのは、厳密には契約書を作成した利用者ではなく、サービスを提供する「事業者が」電子署名をするしくみだからです。

つまりサービス提供事業者が利用者の指示を受けてサービス提供事業者自身の署名鍵による暗号化等を行う電子契約サービスだからですね。だから、やはりこの場合の電子契約には3条の「推定」は、はたらかないのでしょうか? 

今回の資料(3条Q&A)は、
まさにこの点の解釈に関するものです。


結論と今後

ようやく結論にたどりつきますが、今回の「3条Q&A」では、とうとう、クラウド型電子契約であっても「十分な水準の固有性が満たされている場合には、電子署名法第3条の電子署名に該当する。よって、真正に成立したものと推定される。」という意味の解釈が公表されました。

つまり、条件付きで推定が認められたことになるのです。
一般には伝わりづらいかもしれませんが、悲願達成というかんじで、歴史が動いたなあと感慨深いほどの大きな出来事でした。

クラウド型電子契約に、裁判上の推定があるのかないのか、という問題にようやく一定の結論が出たことで、今後は、クラウド型電子契約サービスのさらなる普及につながると思います。

なぜならこれまで、クラウド型電子契約だと便利だけど「推定がないんじゃないか」ということが、導入の際の大きな懸念だったからです。

推定は、もちろん契約の有効性とは無関係だし、実際には普段の契約実務には深刻な影響は与えません。にもかかわらず「推定がない」という言葉のインパクトは大きく、一般の利用者にとっては気がかりで、導入を躊躇させかねないものでした。

この点が払しょくされることで、ハンコとの法的な意義の違いがさらに小さくなり、「脱ハンコ」への移行のハードルはさらに下がると考えられます。


合わせてお読みください

契約書のひな型をまとめています。あなたのビジネスにお役立てください。


もしこの記事が少しでも「役に立ったな」「有益だな」と思っていただけましたら、サポートをご検討いただけますと大変嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。