「編集者は特定分野の知識がなくてもいい」という風説の誤解

編集者15年ほどの人生の中で、何度かこういうタイプの編集者に出会ったことがある。

・専門的な知識はライターが持っている。彼らの知識を引き出せればいい
・だから、優れた編集者はどんな分野でも隔てなく編集ができる

経歴を聞いてみると、ファッション、ライフスタイル、デジタルガジェット、住宅など、まったく畑違いに思えるジャンルを渡り歩いている人も少なくない。

また、最近ではSEOキーワードからまとめ記事をライターに作らせる手法も増えた。手っ取り早く、低コストで成果を上げる方法としては優れてもいる。この場合も編集者自身に求められるのはデータを分析する力と、適切に業務を回すマネジメント力だ。

考え方の基礎をはき違えてはいけない

自分も先輩編集者から「どんな分野でも編集できてこそ編集者」とよく諭された。そういうものかと思いながらも努力はした。

だが、40歳を過ぎた今だからわかる。それは鵜呑みにしてはいけない。

編集者一人ひとり、その経歴は異なる。科学、福祉、スポーツ、芸術など、学んできたこと、興味があることはバラバラだ。

そこから、自分が関わるようになった領域でどう振る舞うかといえば、まずは知ることから始まる。知識を備え、ライターやクライアントと内容を精査する。

さらに、他分野から来たからこその新しい変化や企画も生まれる。そこまで行ければ「分野を問わず」になれる。

しかし最近、この基礎の部分をおろそかにしたまま、なんでも屋になりたがる編集者が目につく。これは単なる怠慢。取材相手に対しては失礼でさえある。

あたかもターゲットのキーワードを自分が発明したもののように思っている人もいる。ただ検索ボリューム=ニーズが大きいことが判明しているだけだ。君は偉くない。

SEOは確度の高いキーワードを分析し、当たり外れの確率を高めるだけのもので、手法さえ知っていれば特別な技能でも才能でもない。

だからこそSEOがもてはやされ、知識ゼロからでもできる画期的な手法なのだが、それは「編集」の手前の段階。いわば企画案を出すところまででしかない。

その先に続く面白さ、読みごたえ、有益さといったものにこそ、編集者の手腕が問われる。キーワードから想像を膨らませ、ペルソナに向けた記事の内容を考えていく。

で、ここで活躍するのが、その人が経験してきたもの。ここが、「知識がなくてもいい」のだ。

すべての基礎は、関わる仕事に対する勉強と日々の情報収集。定時の間だけ作業しているだけでは、編集の力量は磨かれないと個人的に思う。

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