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『王様戦隊キングオージャー』第8話感想

第8話 王と王子の決闘裁判


前回のあらすじ

 地帝国バグナラクによってシュゴッダムに仕掛けられた巨大なバグナラクの繭は、シュゴッダム国王ラクレス・ハスティーが召還したキングオージャーにより破壊された。

 しかし、三大守護神のうちの一つであるゴッドスコーピオンは、何故かこのキングオージャーを攻撃してしまう。

 ギラは、ゴッドスコーピオンに攻撃した理由を尋ねる。しかし、ゴッドスコーピオンは何も語らないまま姿を消してしまう。

 そしてギラは、バグナラクに付いた裏切り者として、ラクレスによって再びシュゴッダムの反逆者の烙印を押される。

 ゴッドスコーピオンによって強制的に合体を解除されたシュゴッドたちは、シュゴッダム各地で動けないままになっていた。

 この現状に、各国の王たちはある一つの懸念を抱いた。それは、ラクレスはギラがいなくても守護神キングオージャーを召還することができること。それ故に5王国同盟を破棄したこと。

 しかし、トウフの王殿カグラギ・ディボウスキは策があると言い、ゴッカン国王リタ・カニスカと共にコーカサスカブト城へと向かう。

 シュゴッドたちを生命体と認識しているイシャバーナ女王ヒメノ・ランは、毒に対する治療を行うという。

 シュゴッドたちを機械だと認識しているンコソパ総長ヤンマ・ガストは、システム障害の復旧を行うという。

 両者の意見は対立し、どちらが早くシュゴッドたちを復活させられるかの勝負をすることになる。

 地帝国バグナラクでは、結果としてゴッドカブトとゴッドスコーピオンを同時に手に入れる好機と捉え、グンダジームにその任務を命じる。

 ヒメノとヤンマ、それぞれのシュゴッドを治療・復旧している最中、ヒメノがゴッドスコーピオンに執着する理由が明かされる。それは15年前に起きた〈神の怒り〉に関わりがあった。

 15年前。ある日チキュー中を無数のシュゴッドが襲った。まるでこの世の終わりのような、地上で傷つかぬものなど何一つない凄まじさだった。

 イシャバーナでは、最高の医師であるヒメノの両親、つまり先代の国王夫妻自らフラピュタル城内で人々の治療に当たっていた。当時10歳のヒメノもまた、医療従事者として傷ついた人々の治療や父母の手伝いをしていた。

 そんな中で、正体不明の人物が国王夫妻に近づき、注射器で毒を注入する所をヒメノは目撃した。毒は強力で、二人はあっという間に命を落とした。

 毒殺犯は、怒りに燃えるヒメノの目の前で、シュゴッドの足につかまり、どこへともなく姿を消した。

 父母の命を奪った毒は、サソリの毒に似た成分だったことから、ヒメノはゴッドスコーピオンに憎しみに近い執着を抱いていた。しかしヤンマは、シュゴッドは機械であり、責任は命じた人間にあるのだとヒメノを諭す。

 ヒメノが大切なものを失う辛さをなおも訴えると、ヤンマは自分は親の顔も知らず、大切なものなど持ったことがないから分からない、それは贅沢者の特権だ、という。

 グンダジームとサナギムたちがシュゴッダム郊外に現れる。シュゴッダムに潜入し、カブタンを強奪する腹積もりである。琥珀色のものを一斉に食べるグンダジームたち。
 見る見るうちに巨大化したグンダジームたちは、シュゴッダムの中央部へと向かう。

 極悪人として新たに指名手配されたギラは、養護園に匿われていた。しかし、シュゴッダムにバグナラクが現れたと知り、飛び出そうとするも、子どもたちに止められる。

 他の王様たちがシュゴッダム各地でサナギムたちと戦っていた時。巨大化したグンダジームとサナギムたちは、大胆にも動けないカブタンを担いで逃走しようとする。しかしそこにサソリーヌが現れ、逃走を阻止する。
 さらにクワガタオージャーも現れ、サソリーヌに呼びかけるが、話を聞いてもらえずあっけなく弾き飛ばされる。

 郊外まで飛ばされたギラの元へ、ヤンマとヒメノがやってくる。ヒメノはギラにサソリーヌについて尋ねるが、サソリーヌは人間を信じていないらしい、ということしか分からなかった。

 ヤンマは、一人で何でもできると思うな、とギラを叱り飛ばす。熱く仲間というものについて語るヤンマに、ギラは仲間になってくれるのかとうれしそうな笑顔を見せる。

 ヒメノはサソリーヌと向き合い、その心の痛みを知り、人類の悪行について謝罪する。サソリーヌはヒメノの真摯な思いを受け入れる。

 他のシュゴッドも無事に復活し、ギラたちはキングオージャーを降臨させる。さらにはギラとサソリーヌも和解したことにより、キングオージャーとサソリーヌが合体し、スコーピオンキングオージャーとなる。

 スコーピオンキングオージャーのパワーは凄まじく、グンダジームたちをあっという間にやっつけてしまう。

 ヒメノに「すこピ」というニックネームをもらい、サソリーヌことゴッドスコーピオンはギラたちの味方になり、カブタンと共に夕日に向かって姿を消した。

 一件落着したものの、ギラは表に出られぬ身の上である。しかし、ヤンマとヒメノはクサい芝居でギラを見逃す。

 ンコソパとイシャバーナの勝負について、自分たちのチームに尋ねるヒメノとヤンマ。
 同着引き分けだったと、側近のシオカラやセバスチャンがしれっと答える。芝居もいい所だが、ヒメノもヤンマも何も言わなかった。

 その日の夜、養護園に戻ってきたギラは、待ち伏せに遭う。子どもたちをボシマールによって人質に取られたのだ。さらにリタが姿を現し、ギラに告げる。「ラクレスが決闘裁判を望んでいる」
 助けを求める子どもたちの声や姿に、ギラの怒りが燃え上がった……とさ。

 以上、第7話の創作あらすじでした。

 子供を人質に取って脅迫とか、確かにドゥーガさんにはできない汚れ仕事です。

決闘裁判の通告

 シュゴッダム。コーカサス城前の広場。
 いくつもの放送中継用の小型デミシュゴッドが宙を飛んでいる。その中心にはリタ様。
 リタ様は一枚の紙を掲げている。
「今から七日後、シュゴッダム国王ラクレス・ハスティーと、王子でありながら国家反逆の罪に問われる、決闘裁判を行う」

 リタ様の持っている紙には、ラクレス様とギラの顔写真が載せられている。二人の写真の間には、交差する剣の絵が描かれている。二人の写真の下には、細々とチキュー語で何やら記されている。

 シュゴッダム。街の広場。
 モニターの前には多くの人々が集まり、リタ様の決闘裁判の通告にざわめいている。

 コーカサスカブト城前の広場。
「立会人はゴッカン国王兼最高裁判長、リタ・カニスカ」
 中立公正の裁判長らしい、威厳のある口調でリタ様が決闘裁判について説明していく。

 コーカサスカブト城内・王の間。
「この決闘裁判の勝者は、敗者に対しどんな要求も強いることができる」
 スピーカー越しに流れるリタ様の声。
 玉座に座り、モニターを見つめるラクレス様。台座に差し込まれたオージャカリバーZERO。圧倒的な王者の風格。強く鋭い眼差しは、何を捉えているのか。

 ゴッカン。ザイバーン城。
 相も変わらず、分厚い雲と横殴りの吹雪と溶けることを知らない氷に覆われている。
「なお勝敗は、”参った”と降伏するか、どちらかの死でもって決することとする」

 チキュー中に中継されているリタ様の声。ザイバーン城の牢獄の中には背を丸めて座るギラ。
 ギラが彼方を見るように顔を上げる。その瞳は静かな強さをたたえている。

 冒頭のリタ様のチキュー全土へのライブ配信決闘裁判の通告、それを玉座で見ているラクレス様、ゴッカンで身柄拘束中のギラ、という重々しい場面が立て続けに流れ、否が応にも緊迫感が高まります。

 特に、【画面右側、玉座前でのオージャカリバーZERO越しのラクレス様→前側から回り込み→お顔の左側だけのアップ】というカメラの動きやカットの切り替えが素敵すぎて、身悶えしました。玉座の装飾、すごく細かく作り込まれてて美しいです。

 第7話で、ギラがサソリーヌにシュゴッダム郊外まで飛ばされた時にできた頬の腫れがあまり治っていないようなので、第7話終わりからすぐにゴッカンに連行されたと仮定すると、釈放から3日と経たないうちに再収監されたことになります。

 でもおかしいな、腫れがちょっと大きくない?ということで、
 1、時間が経ってますます腫れた。
 2、身柄を拘束された時に(ボシマールさんの命令に従った)兵士に殴られた。
 3、ゴッカンが寒すぎてリンゴほっぺになった。

 さてはて、一体どれでしょうかね?などと行間を埋めてみるのもまた一興。

 OP。
 本編先見せカット。王様たちの色んな表情てんこ盛り。決闘の場に現れたラクレス様のカッコ良さよ……。

 提供様カット。
 コーカサスカブト城に、好きな形で好きな場所に止る五王国のシュゴッドたち。
 画面左側の城壁の上にゴッドカマキリ。城中央の3本の角の左側に下向きに止まるゴッドトンボ。同じく右側の角に上向きに止まるゴッドパピヨン。右側の城壁の上にゴッドハチ。城の真っ正面に止まるクワゴン。ヤダ、みんな可愛すぎ……(*´▽`*)

王の思惑、王殿の策謀

 シュゴッダム。コーカサスカブト城・王の間。
 玉座にはラクレス様。ボシマールさんとドゥーガさんが、玉座の左右から歩み寄る。ドゥーガさんがラクレス様に問いかける。
「何故、わざわざ決闘を?」
 ラクレス様が淡々と答える。
「愚かな国民の中には必ず、分からず屋がいる」

 シュゴッダム。街の広場。
 ブーン君がギラの写真入りのプラカードを掲げて、ギラ兄ちゃんは無罪だと叫んでいる。続けて無罪だ!と叫ぶ複数の声は、どれも子どものものである。

 ブーン君だけでなく、コガネちゃんや養護園の子どもたちがギラのためにデモを行っている。それぞれがギラのイメージカラーの赤い布を体のどこかに身に付け、手作りのプラカードを手に「ギラはいいヤツだ」と必死に訴えている。

 そこへ、ゴローゲさんがやって来て、子どもたちを叱りつける。
「いい加減、犯罪者の味方をするのはやめなさい!」
 そしてコガネちゃんが持っていたプラカードを見て、ゴローゲさんが取り上げようとする。コガネちゃんが奪われまいと抵抗しながら、「ギラが本当の王様だ!」と叫ぶ。

 子どもたちの誰か(ブーン君?)が、ゴローゲさんのお尻の間にプラカードの柄の先を突き刺す。
 ゴローゲさんが振り返る。その隙にコガネちゃんが遠ざかる。デモを止めさせるべく、ゴローゲさんが子どもたちを追いかける。広場中を使って逃げる子どもたち。

 その光景がまるで見えているかのように、ラクレス様の言葉が重なる。「ありもしない夢を見、現実を見失っている」

 コーカサスカブト城・王の間。
 少しリラックスしているのか、ラクレス様は玉座に左寄りに足を組んで腰かけている。左ひじをひじ掛けに乗せ、両手の先を絡ませるように組んでいる。
「私が力をもって分からせるんだよ」
 それまで恐らくドゥーガさんに向けていた眼差しをつと上げる。
「真の王は誰かを」
 目と声音に力を込めて言い放つ。そこにあるのは絶対の自信。

 しかしドゥーガさんの表情は晴れない。彼が気にしているのは、カグラギ殿だった。

 キングオージャー(仮)がサソリーヌに襲われた後、リタ様と共にラクレス様を訪ねて来たカグラギ殿は、例によって大仰な口調と大きな身振り手振りで「国民が不安な今こそ、ラクレス殿のご威光を示すべきです」と語る。
 かすかに眉を上げるラクレス様。カグラギ殿の言葉に興味を示された模様。
 そしてカグラギ殿は決闘裁判の提案をする。

 ドゥーガさんは、シュゴッダム王家の内紛にわざわざ首を突っ込んできたカグラギ殿の裏の意図は何なのかと疑っているのだ。

 考えながら意見を述べるドゥーガさんに、オージャカリバーZEROの切っ先が突きつけられる。ハッとするドゥーガさん。
 玉座から立ち上がったラクレス様が、オージャカリバーZEROを突き付けたままドゥーガさんを見下ろしている。
「王の前でグダグダと演説とは、偉くなったものだな」

 ドゥーガさんは怯まず、ラクレス様をひたと見つめて訴える。
「私はただ、万が一のことがあったらと……!」
 ドゥーガさんの言葉を、ラクレス様は鼻で嗤い、含み笑いで口元を染める。
「この私が負けるとでも?」
 ラクレス様のただでさえ大きな目がさらに見開かれる。それだけで放たれている圧が倍増する。強めるでも低くなるわけでもなく、普段と変わらぬ声音だからこそ、有無を言わさぬ強さと冷ややかさがあった。

 シュゴッダム主従の場面について。
 公の場ではないので、ちょっとだけゆるい姿勢のラクレス様が麗しいです。
 ラクレス様を見上げる形で場面が始めるので、ラクレス様の威厳を視聴者も感じることができます。ボシマールさんとドゥーガさんは、日々この威厳のシャワーを浴びてるんですねえ……常人では泡を吹いて倒れそう(※ラクレス様は覇気は使えません)
 ……って、そんなことより!(Ⓒトウフ国王殿)

 ラクレス様の思惑とカグラギ殿の策謀が交錯した結果が、ハスティー兄弟の決闘裁判になりました。今回の反逆罪については、通常の裁判を行った場合、ギラには圧倒的に不利です。シュゴッダム国民の前で国を奪うと宣言し、サソリーヌを召還したのは事実ですし、目撃者も数多くいます。ギラの人格などもはや問題ではありません。

 ギラが九死に一生を得るためには、奇策が必要……と考えたかどうか、カグラギ殿はリタ様を立会人として、決闘裁判を提案します。その意図がどこにあるのか、ドゥーガさんでなくても気になるところです。

 ラクレス様が決闘裁判の提案を受け入れたその(オモテ向きの)思惑は、彼が言う「分からず屋」に現実を思い知らせること……ギラの支持者の心を徹底的に折ることにあります。

 ギラの支持者など、コガネちゃんやブーン君などの養護園の子どもたちくらいしかいないように思いますが、少人数だから、子どもだからと言って容赦をしないのがラクレス様のラクレス様たる所以です。

 子どもたちが健気に何かを訴えている姿は、それが事実であろうとなかろうと心を打つものがあります。「子どもは純粋だ」と夢見ている大人たちが、「子どもたちがそこまで言うなら本当かも知れない」などと夢を見て、共同幻想をもってラクレス様に楯突いたらそれもまた色々と面倒です。

 シュゴッダム国内ではギラの死刑は確定事項ですから、身柄を拘束したら速やかに処刑することになります。しかしギラを支持する人々がわずかでも存在した場合、死刑によってかえって祭り上げられる可能性があります。これはこれで国家転覆を図る動機になりえますし、そういった場合に鎮圧の仕方を間違えると、国中に内乱が広がり、〈神の怒り〉直後に引けを取らない破壊と混乱が起こることが予想されます。

 決闘裁判はラクレス様にとって、ギラという反逆者を自らの手で葬り去る絶好の機会であり、ギラに対して圧倒的な強さで勝つことで国内の反乱の機運を盛り下げるという、好悪を越えた極めて政治的な手段なのです(オモテ向きには)。

 おそらくその辺はドゥーガさんも分かっています。彼がそれでもラクレス様に訴えたかったことは、「血を分けた兄弟が命がけで闘う必要があるのか」でしょう。

 第5話でのギラの裁判まで、ドゥーガさんはラクレス様とギラが兄弟であることを知りませんでしたから、ギラに対する態度もそれなりのものでした。

 第6話でギラがラクレス様に襲いかかった時、本来なら各国の王が揃った公式の場で、そんな不敬な行いをすれば、問答無用で斬り捨てられてもおかしくないのですが、ドゥーガさんは剣を抜かずに素手で制圧しました。ギラがラクレス様の弟であることを意識していたからでしょう。

 初見では、ドゥーガさんが万が一の心配をしている場面は「ラクレス様が負ける可能性」だと受け取りました。そういう風にラクレス様も受け取り、ドゥーガさんを威圧している……そういう流れになっています。

 しかし最終回まで見届けた後で改めて見直してみると、この時ドゥーガさんが心配していたのはラクレス様ではなく、ギラの生命身体の無事だったのではないかと思えてきます。

 何しろ考え事をしていたとはいえ、王の側近であり現役の武官であるドゥーガさんに気取られることなく、剣の切っ先を向けることができるのですから、ラクレス様の武技のスキルは相当高いと言えます。

 あくまで公的な場であること、リタ様が立会人であること、ラクレス様のこれまでの言動などを考え合わせると、どう考えても手抜き・手加減などあり得ません。

 久々の再会を果たした兄弟が和解できぬまま相争い、まして自ら手にかけることになるかもしれないなど、ドゥーガさんにはいたたまれなかったのでしょう。

 ラクレス様はドゥーガさんの言葉を嘲笑い、その意を「ラクレス様の敗北の可能性」へとすり替えました。まるでどこかにいる誰かにドゥーガさんが本当に心配していたことを知られたくなかったように。

 そして、皆様お気付きでしょうか。何と、この場面において、ボシマールさんはひと言も話していません!

 カグラギ殿の提案の裏を疑う言葉は、武官のドゥーガさんではなく文官のボシマールさんから発せられてもおかしくない……というか、むしろそっちの方が役割や立場を考えても自然なことです。それなのに、彼は終始何も話しませんでした。
 セリフはあったけど諸事情でカットされた可能性もありますが……。
 諸々含めて、行間が深い!!!!!!

王様たちのリモート会議

 ンコソパ。夜のペタ城前。
 テクノ風にアレンジされているが、現代の地球で何らかの形でプロ野球観戦をしたことがある日本人であれば、耳に馴染んだリズムとメロディーが流れる。ヤンマ君の「ぶちのめせ~!」という大きな掛け声に合わせ、「ギラ!」と叫ぶンコソパの人々。続けてヤンマ君が「生き恥さらせ!」と叫べば「ラクレス!」と人々が応じる。
 まさか令和に、昭和のプロ野球チームの応援団みたいな掛け声を聞こうとはw

 上半身裸の男性の親衛隊員が、長い棒を支え持っている……と思いきや、それは透明な布状のモニターを使った電子応援旗の旗竿だった。
 旗の中央には鮮やかに青く光る大きなンコソパの紋章、下は端から端まで激しく燃え上がる炎の映像で縁取られている。余白は青い小さな四角形の幾何学模様で埋め尽くされていて、旗が揺れるたびに動きに合わせて明滅する。さすがンコソパ、旗一つとってもテックヤンキー感満載である。

 少し高い台の上にいるヤンマ君が掛け声の音頭を取り、台の左右に二人ずつ親衛隊員が並んでいる。ヤンマ君から見てすぐ左隣に旗持ち担当、右隣はオージャカリバー担当がいて、さらに右側にはペタ城前の円柱型のモノを土台にした即席の太鼓を叩く担当がいる。左の外側の親衛隊員は、声出し担当だろうか。

 ヤンマ君はいつもの青いジャケットではなく、丈長の青い特攻服を羽織っている。見る限り、特攻服の下、上半身は裸である……日曜の朝から生き生きとした笑顔の他に何を振りまいてるの、ヤンマ君……。

 何度かコール&レスポンスを繰り返すヤンマ君。
 いったん太鼓も音楽も止まると、ヤンマ君が目の前のンコソパの民たちに向けて声が小さいと発破をかける。元気よく応じる民たち。
 めっちゃ楽しそう。

 以前、某サンサーラなノンフィクション番組で、某高校の応援団の回を見て知ったのですが、通常の応援団用の旗でも、支え持つのに相当な体幹と筋力が必要らしいです。
 これだけ大きいと、どれだけ軽量化が図られていたとしても、かなり重たいのではないのかと思います。親衛隊員の彼、ヤンマ君のためによく頑張りました( ;∀;)。

 シオカラ君が抱え持つヤンマ君のマイデバイス=通称:ボロから、苛立たし気にヒメノ様が醜い声を聞かせるなと抗議する。ンコソパ独自のノリもヤンマ君のワードセンスも、ヒメノ様の美的感覚にはとことん合わなかったようだ。

 ボロのモニターの画面は二つのウィンドウが表示されている。一つにはイシャバーナの王の間にいるヒメノ様とカグラギ殿、もう一つにはゴッカンの紋章が映っている。

 え?てことは王様たちリモート会議中?それなのに応援の声出し練習をやってたんだヤンマ君……どこまでも自分を曲げない男だわー。

 ヒメノ様の言葉にカチンときたヤンマ君が、台から降りてすごみながら、シオカラ君の前……というか、ボロのモニターの中のヒメノ様までつかつかと歩み寄る。

 ヒメノ様はヤンマ君のご機嫌などお構いなしに、決闘裁判を放っておいていいのかと問いかける。

 ヤンマ君はついっと横を向いて腕組みをして「タイマンを邪魔するような野暮な真似はしたくねえ」とニヤリと笑う。すかさずシオカラ君がカッコいい、と合いの手を入れる。私もそう思う。

 イシャバーナ。フラピュタル城・王の間。
 ヒメノ様から見て右側の空中に、大きく通信用のモニターが表示され、ンコソパからの中継が映し出されている。
 ソファ型の玉座にはヒメノ様、その後ろにはゆったりと寝そべるゴッドカマキリ。サイドテーブルにはティーセットが置かれている。
 玉座の右側には、通信用モニターと向かい合って立っているカグラギ殿。 
 ヒメノ様とカグラギ殿とは、珍しい組み合わせである。

 ヤンマ君の言葉を聞いていたのかどうか(おそらく聞く気もない)、ヒメノ様はモニターに顔を向けぬまま、強い口調で自分の苛立ちを吐き出す。
「私はね、このままじゃキングオージャーも三大守護神もラクレスの物になりそうなのが我慢ならないの!」
 さすが、この世の全てがお気に入りで、お気に入りは全て手に入れたいという壮大なワガママをお持ちのヒメノ様である。

 しれっとカグラギ殿が、自分は構わないとヒメノ様とスタンスが違うことを主張する。
 やや間を置いて、ヒメノ様がカグラギ殿の方に体を向け、笑みを浮かべてその背を見つめながら問いかける。
「ずっと思ってたんだけど……、あなた、よくあの男にへいこらできるものね?」

 半ば挑発するような彼女の口調に、カグラギ殿はわずかに顔だけ振り向けるが、何も答えない。

 ヒメノ様はスッと笑みを消し、その眼に怒りを灯しつつ、声を低めて「神の怒りを忘れたの?」とカグラギ殿に厳しく問いかける。

 15年前、〈神の怒り〉に襲われたイシャバーナ。
「あれに対抗できるのは、シュゴッダムのシュゴッドだけだった。でも……、あの国は、何もしなかった」
 当時の怒りと悲しみをにじませつつ、ヒメノ様が語る。

  カグラギ殿は体ごと振り返って何か言いたそうにヒメノ様を見るが、すぐに向き直る。
「……過去は、過去です」
 その背中は、カグラギ殿にも〈神の怒り〉による何かがあったことを物語っている。
 カグラギ殿の言葉に、ヒメノ様は自らの怒りを鎮めるように沈黙する。

 ヒメノ様は重苦しさを振り払うように表情も口調も切り替え、リタ様に聞いているのかと話しかける。
 結局ラクレス側なのかと問い詰めるヒメノ様の声は、リタ様のオージャフォンから流れている。絶対中立はウソなのかと重ねてヒメノ様が煽ってくる。

 ゴッカン。夜のザイバーン城。
 雪を踏みしめつつ、ザイバーン城内を移動していたリタ様は、オージャフォンを腹部の布ベルトに差し込んで、音声のみでリモート会議に参加している。なるほど、ヤンマ君のボロにもヒメノ様のモニターにも顔が映ってないはずである。

 吹雪が吹き付ける中、リタ様はとある牢獄の前で立ち止まる。そこには、二人の牢番が立っている。
「誰もギラに会わせるな」
 淡々と命じるリタ様に、牢番が答礼する。じっと牢の中を見つめるリタ様。
 牢獄の中では、ギラが固い表情のまま膝を抱えて座っている。

 イシャバーナ。フラピュタル城・王の間。
「あなたたちは、何も分かっていない」
 ヒメノ様はそう言うと、先ほどまでの苛立ちや怒りや悲しみはどこへやら、モニターの方……にいるカグラギ殿や、その向こう側にいる王様たちへ艶然と微笑む。
「もう一度よく考えなさい……ギラが、欲しくないの?」

 ンコソパ。ペタ城前。
 ボロのモニターを一緒にのぞき込んでいたシオカラ君が、横に立つヤンマ君の顔へと目を向ける。

 ヒメノ様の甘い囁きは、ヤンマ君の脳細胞にスイッチを入れたようだ。モニターから視線を外したヤンマ君は真剣な顔で考えを巡らせ始める。

 イシャバーナ。フラピュタル城・王の間。
 ヒメノ様の誘惑は腹黒策士の関心を引いたようで、カグラギ殿は満更でもなさそうな表情を浮かべる。

 王様たちのリモート会議の場面について。
 ヒメノ様がシュゴッダムに好感を持っていない理由は、ラクレス様個人だけでなく、〈神の怒り〉当時のシュゴッダムの国としての対応にも原因があったようです。

 もちろんその時はシュゴッダムも大変だっただろうくらいの想像は、ヒメノ様にもついているでしょう。それでも、とりわけ武をもって鳴る国が、真実全く何もしなかったことは、当時10歳の父母を目の前で殺害された女の子にとっては、真犯人の次に許せなかったのでしょう。

 第7話の感想の折に触れたように、この〈神の怒り〉は物語が進むにつれてその真相と、他国では何が起きていたか、衝撃の事実が明らかになります。

 色んな作品で「衝撃の真相・事実が明かされる!」と派手に煽っておきながら大体思った通りでどこにも何にも驚きがない、という経験をした方は多くあろうと思います。
 『王様戦隊キングオージャー』においては、掛け値なしに衝撃的です。未見の方、見始めたばかりの方は、是非とも最終回までご視聴いただきたいと思います。

 さて、この場面、ンコソパとゴッカン、どちらも夜なのですが、ふと疑問に思いました。皆さんもチラッと考えたことはあるかと思います。

「チキューの日付変更線はどこだ? 時刻の標準線はどこなの?」

 作品内で目にしている地図だと、シュゴッダムがど真ん中に位置しています。日付変更線については、始まりの国の真ん中で日付が変わるなんて面白現象はあり得ないでしょうから、シュゴッダムの東西どちらかを通るか、ンコソパとゴッカン、トウフとイシャバーナの間を通っていると思われます。

 チキュー全体の時刻の標準はシュゴッダム・コーカサスカブト城でしょうか。もちろん時差がありますから、その国ごとの標準の場所が定められていて、それぞれの国内においてはそちらが適用されていることと思います。

 地球の地理は苦手でも、チキューだったら理解が早そうなお友達いそうだな……。

ギラ強奪計画

 地帝国バグナラク。王の間。
「ギラさえ手に入れれば、シュゴッドは思いのまま!決闘裁判はギラを誘拐する絶好の機会。隙を見て……」

 いつにも増して熱く計画を語るカメジム。お前、全世界人質作戦進行中のはずでは?って思ったけど、第一次交渉()、決裂したんだっけ。

 一人語りに夢中になっていたカメジムめがけて、デズナラク8世の触手が飛んでくる。触手はあっという間にカメジムをぐるぐる巻きにして、その体を持ち上げる。カメジムの手からマルムシピンが落ちる。カメジムは王の間の天井間際まで持ち上げられ、ギュウギュウ締め上げられる。

「みすみす秘宝を逃したお前を、どう信用しろと?」
 物理的だけでなく、言葉でもカメジムを締め上げるデズナラク8世。それはそうだ。報酬も組織もなく、これといった法律もなさそうなバグナラクで、給与カットとか降格処分とか、ましてその手法は適法だったのかとか検証することもありえない。失敗した責任を問うなら、直接罰するより他はない。
 グンダジームのサナギムたちに対する暴行とは全くの別物なのである。

 苦しみ悶えているはずのカメジムの含み笑いが、王の間に響く。しかもその笑い声は、上からではなく、デズナラク8世の間近から聞こえてきて、さしものデズナラク8世も狼狽し、辺りを見回す。

 デズナラク8世の背後の薄暗い風景がゆらりと歪み、もう一体のカメジムが姿を現す。

 素早く振り返ったデズナラク8世が鋭く手刀を振るう。当たるかという瞬間、カメジムの姿はゆらゆらと陽炎のようにかき消える。

 触手に締め上げられっぱなしの方のカメジムが、死んでしまいますとデズナラク8世に訴える。いや、多分お前はその程度じゃ死なない。

 デズナラク8世から少し離れた所に、「誘拐ならば……」とささやく声と共に、もう一体のカメジムが再びゆらゆらと空気を歪ませながら姿を現す。そしてカメジムの姿が揺らいで輪郭があいまいになったかと思うと、一体の怪ジームの姿に変わる。頭を下げて「お任せを……」と申し出た声は、驚くほどか細く小さい。

 いつからそこにいた、と重々しく問うデズナラク8世。

「私はどこにもいるし、どこにもいない……、陽炎ですから……」
 ささやくように告げると、その怪ジームはまさしく陽炎のように姿を揺らめかせながら消えていく。

 弄ばれた形のデズナラク8世の苛立ちがさらに触手に加わって、カメジムを締め上げる力に変わる。

 触手に締め付けられていない両肘から下を動かしながら、カメジムがこれ以上は危険だと必死に訴える。いや、お前はそれくらいじゃ絶対死なないから!デズナラク8世も分かっててやってるから!(謎の安心感)

 さて、絶対に触れなければいけないことがありますね……。

 そう、ゲロウジーム登場です!!!!(拍手)

 初めて第8話を見た時、ビックリしました……その声の小ささに!

 ゲロウジームはウスバカゲロウのBNAを持つ怪ジームということで、陽炎のような光の屈折を利用して擬態する能力を持っている……そうです。「カゲロウ」の音つながりですね。ちなみに、どこかの実家が銭湯の若き隊長の悪魔とは無関係です。多分。

 で、デズナラク8世によるカメジムへのお仕置きだべ~!(Ⓒタツノコプロ)タイムの場面でもあります。

 先にも記したように、カブタン強奪作戦の任務遂行者はグンダジームでも、グンダジームを選んで命令したのはカメジムなので、命令した本人にも重い責任があります。

 作戦の成否の責任は、命令した側が負うべきであり、上層部の責任が問われない組織は滅ぶしかないのです(みたいなことを自由惑星同盟の優秀な元帥が言ってた!)。

 ゲロウジームもよくこの緊迫した中に割り込んでいったな、というハートの強さに感心しますが、デズナラク8世の背後を取ったり、攻撃を避けたりもしていて、一瞬で「あれ?今までの怪ジームよりもしかして色々スゴイ?」を見せています。

 さて、ゲロウジームの特殊能力は、どのようにギラ誘拐に活かされるのでしょうか?

全ては15年前に

 イシャバーナ。フラピュタル城・大広間。
 卓上に置かれた小瓶が一つ。中には青い液体が入っている。カグラギ殿がしゃがんだ姿勢でしげしげと見つめている。
「これはすこピの尻尾から出た毒」
 医師モードの衣装を身に付けたヒメノ様が立ち姿で微笑みながらそう言うと、カグラギ殿は小瓶からヒメノ様へと目を向ける。

 〈すこピ〉が何なのか分からず、オウム返しに尋ねつつ、カグラギ殿が立ち上がる。顔をしかめてひねり出した解答は……「酢昆布ピーマン?」

 ヒメノ様にゴッドスコーピオンと言われ、ピンと来たように「ああ……!」と笑うカグラギ殿。
 さてはて、すこピの毒をどうするつもりなの、ヒメノ様?

 ゴッカン。ザイバーン城・牢獄。
 リタ様が牢獄の中のギラをひたと見つめながら、ギラが誘拐された時の状況について尋ねる。ギラは少し考えた後、覚えてない、と答える。

「当時の状況を知っているのがラクレスとボシマールだけ。何か違和感がある」
 ラクレス様がギラ誘拐に関わっていた場合には、決闘裁判の前に裁くことができるとギラに告げるリタ様。

 中立公正を重んじるリタ様が、まるでギラに味方するような提案をしてきたので、当然ながら驚くギラ。どうしてそんなことを、とリタ様に尋ねる。

 リタ様によれば、決闘裁判は通常双方の合意があって成立するという。それに対し、今回のギラとラクレス様の決闘裁判は、養護園の子どもたちを人質に取り、ギラを脅迫する形で一方的に合意を取り付けることで成立したものである。

 あの状況ではギラに断る選択肢はなかったと、リタ様が当時のことを思い返しながらギラに告げる。
「公平ではない。傾いた天秤は釣り合うべきだ」

 さらっと重要な行間が出てきました。シュゴッダムで調べられるだけ資料を見て来たリタ様が断言するのですから、ギラがコーカサスカブト城から姿を消した当時、王族と関われるような重要ポジションにいて、今も王の身近にいるのはボシマールさんだけということになります。そりゃギラがラクレス様の弟だって分かった時、ドゥーガさんはボシマールさんを見ますよね。

 ギラがいなくなった後からゴッカンでの裁判までの15年もの間、ギラの存在を丸ごと隠しおおせたということは、ギラが城にいた頃から、シュゴッダム国内でさえ王子として公表されていなかったことになります。その当時からギラのことをシュゴッダム中の民が知っていれば、ギラが最初に指名手配された時、それなりに覚えている人もいただろうし、シュゴッダムはもっと大騒ぎになっていたはずです。

 ギラが王族であることを示唆する記録が〈レインボージュルリラ〉にまつわることしかなかったほど、王家にまつわる資料の管理が徹底されていたことも分かります。また、国政の重鎮や城付きの兵士や城勤めをしていた人間の名簿を見れば、誰がどのタイミングで入れ替わっていったかの経過を追うこともできます。

 これらの資料・記録、情報や人事をコントロールできるシュゴッダムの実力者は誰かと考えれば、リタ様の違和感とそこから生じる疑惑も納得できます。

 イシャバーナ。フラピュタル城・大広間。
 自分の父母が無くなった時に使われた毒と、すこピ=サソリーヌの毒とを照合したことを、クロナートゥスを使ってカグラギ殿に説明するヒメノ様。

 クロナートゥスのモニターに、サソリーヌの毒と正体不明の毒の成分が完全に一致したことを示す映像が表示される。100%って出てるんだから間違いない。

 〈神の怒り〉の時に、誰かがすこピを利用したのだと語るヒメノ様。淡々と説明する口調からは、サソリーヌのせいではないことが分かり、毒については冷静に話せるようになったことがうかがえる。
 あれからもう15年か、とつぶやくカグラギ殿。その当時の彼には、何が起きたのか。

 ゴッカン。ザイバーン城・牢獄。
 リタ様がギラに思い出せと問い詰める。
「15年前、お前が誘拐された時、何があった?」
 ギラは問いに答えず、あなたは勘違いしてる、とリタ様に言い返す。

 俺様が、と笑みを浮かべてギラが立ち上がる。久々の邪悪モード発動である。「ラクレスを倒す機会を、逃すわけないだろ!!!!」

 リタ様が、まさか本気で勝つつもりなのか、と問うようにツッコむように淡々とつぶやく。聞こえたかどうか(多分聞こえてない)、ギラは邪悪の王モードで高笑いをする。

 さらに重要な行間がさらっと追加されました!
 ギラが誘拐されたのも15年前。〈神の怒り〉も15年前。
 〈神の怒り〉が15年前のいつ頃に発生し、どれほど続いたのか分かりませんから、ギラの誘拐と日取りが重なっているかどうかも分かりません。
 本放送時は重要情報が毎週バンバン出されて、見る方も毎週悶々としましたねえ。

王と王子の決闘裁判

 シュゴッダム。コーカサスカブト城・王の間。
「わざわざ人払いまでして、話とは?」
 玉座に座るラクレス様が問いかける。その顔から感情は読み取れず、口調が冷たく固い。それなのに不信感丸出しなの伝わってくるのスゴイ。
 ラクレス様がそんな態度で接する相手と言えば……。

「贈り物を、持って参りました」
 朗々と語る声、遠目でも色鮮やかで独特なデザインの上衣……もちろん王殿カグラギ・ディボウスキである。

 カグラギ殿は自分の後ろへ体ごと振り向き、右腕を伸ばしてそこに置かれた大きな木製の桶を指し示す。
 桶の中には水が張ってあり、大きな錦鯉が泳いでいる。
 あ、なんか時代劇で見たことある展開だな……?

「これは、ゴッドスコーピオンの毒です」
 カグラギ殿が手の先に乗せたものをラクレス様に見せる。それは小さな注射器で、本体の左右に指を通すための輪が付いている。カグラギ殿の手の上にあるせいか、おもちゃとしか思えない……青っぽい色の液体が入っていなければ。

 カグラギ殿は針を上に向け、手にした注射器を見つめながら、ギラは極悪人だからどんな手を使うか分からない、と芝居っ気たっぷりに語る。
 リタ様のお株を奪うほど身動き一つしないラクレス様。
「奥の手が必要だとは、思いませんか?」

 言い終わると同時に、カグラギ殿は注射器を持つ手を傾け、桶の中へとその中身を垂らす。禍々しい色の雫が一つ落ち、さざ波立って撥ねた水滴がまた水面に落ちる。

 異変は瞬く間に起きた。
 桶の中の錦鯉が暴れ出し、水が激しく波立つ。桶の縁の倍の高さまで水が撥ね上げられて、桶の外へとこぼれる。
 しかし、ほんの数秒ほどで波は小さくなり、静かになった。
 瞬き一つせず見つめていたラクレス様が、膝の上で組んでいた右手を外し、口元に触れる。

 桶の中に、黒い液体が広がっていく。この決闘裁判の裏の思惑を象徴するように。

「外道には、外道ですよ」
 怪しさとウラしかない笑みを満面に浮かべて、カグラギ殿が毒入りの注射器を掌に乗せてラクレス様へと差し出す。
 顔を上げ、カグラギ殿を見つめるラクレス様。カグラギ殿の甘言に乗るや否や?

 シュゴッダム。コーカサスカブト城・城の前の広場。
 いよいよ決闘裁判当日。生中継用のデミシュゴッドが飛び交う中、リタ様が決闘裁判の開始を告げる。
 ギラとラクレス様、それぞれの剣が台座に挿した状態で広場の中央辺りに置かれている。

 一方からはラクレス様が王の威厳と風格をもって歩いてくる。
 別の一方から、左右の兵士に体を掴まれ、背後の兵士に腕を取られた状態のギラが歩いてくる。
 自らの剣のそばで歩みを止めるギラとラクレス様。向かい合う二人。

 シュゴッダム。街の広場。
 街頭用のモニターに、城の前の広場にいるリタ様が映っている。広場にはシュゴッダムの人々が集まり、異様な熱気で盛り上がっている。

 決闘裁判のルールを改めてリタ様が説明する。
「この決闘は、どちらかが降伏するか……」

 シュゴッダム。ギラたちの児童養護園。
 食堂に集まり、モニターを見守る子供たち。頭や体にギラをイメージさせる赤い鉢巻きを巻いている。食堂の壁にはもたれ掛けるように置かれた手作りのプラカード。
 子どもたちは手を合わせて祈ったり、身を寄せ合ったり、中には心配の余りモニターをまともに見られない子供もいる。
 そんな子供たちの心配や不安を煽るように、リタ様の声が流れる。
「……あるいは死ぬことで決着する」
 ギラの名を呼び、必死に祈るブーン君。不安と応援したい気持の間で揺れ動くコガネちゃん。

 シュゴッダム。コーカサスカブト城前の広場。
 リタ様が問う。
「ラクレス・ハスティー、勝利の暁に何を望む?」
 ラクレス様が決然と答える。
「反逆者ギラを王家から追放。永久に牢で生きてもらう」
 じっとラクレス様を見つめるギラ。

 リタ様が問う。
「ギラ・ハスティー、勝利の暁に何を望む?」
 ギラが邪悪の王モードで笑い、高らかに告げる。
「貴様の、玉座をもらおう!」
 無表情で見つめるラクレス様。

 両者、剣を取れとリタ様が促す。ギラを押さえていた兵士たちが手を放し、後ろへと下がる。ギラとラクレス様が、それぞれの剣の柄へと手を伸ばす。
 ギラはオージャカリバーを、ラクレス様はオージャカリバーZEROを台座から引き抜く。
 淡々とリタ様が告げる。「始めろ」

 ラクレス様がオージャカリバーZEROのレバーを操作する。剣が起動し、刀身が光る。ギラが身構える。
 ラクレス様が「王鎧武装」の声とともに、オージャカリバーZEROの切っ先を真上に向け、体の中心より左側に構えて、外に向いているレバーを左の指をかけて弾くように操作する。鋭く左上から右下へと斜めに剣を振り、切っ先を下に向ける。立ち姿が美しい。

 どこからともなく飛んできたオオクワガタの守護の力に包まれ、ラクレス様がオオクワガタオージャーへと変身する。 マントを後ろに流すように大きく左腕を振り、剣を持つ右手を前に出して構える。
 カ・ッ・コ・イ・イ!!!!!!!!

 ラクレス様の王鎧武装を見届けたギラが、どこか嬉しそうに笑いながら、オージャカリバーを構え、王鎧武装をし、クワガタオージャーへと変身する。
 対峙する兄と弟であり、王と王子でもある二人。

 クワガタオージャーが左手に持っていたオージャカリバーを軽く投げ、右手で剣の柄をパシッと握るとそのままオオクワガタオージャーへ向かって駆け出して行く。
 この場面で初めて気が付いた。ギラは左手で剣を持って王鎧武装してるのね(←もう8話目なんですけど?)。

 一直線に駆け寄ったクワガタオージャーは、オオクワガタオージャーの前で飛び上がり、上からそのまま振り下ろす。受け止めるオオクワガタオージャー。オオクワガタオージャー、受け止め切ってちっとも後ろに下がらないぞ。すごいぞ、強いぞ!(知ってる)

 立て続けに剣を打ち込むクワガタオージャー、それを難なく受けるオオクワガタオージャー。前進しているのでクワガタオージャー有利に見えるが、オオクワガタオージャーは受けるというより跳ね返すような剣捌きなので、もうこの時点でうっすらと力量の差が見えている。

 ここの斬撃や剣と剣がぶつかり合う音が、その力強さや激しさを表すように重くて、さらにエコーがかかってるのが良いですよね!シブい!シビれる!そして飛び散る火花!これぞヒーローの戦いって感じがします。
 弾着は正義、火薬は正義!

 クワガタオージャーの連撃の最後、キッチリとオージャカリバーZEROで受け止めたオオクワガタオージャーが、一瞬の間を置いて大きく剣を振り払う。打ち込んだ剣ごと押し返されて、クワガタオージャーの体がクルリと回る。

 バランスを崩しつつもどうにか踏みとどまり、クワガタオージャーが振り返る。その時にはもうオオクワガタオージャーが間を詰めていて、右から左へと強烈な横薙ぎを叩きつける。クワガタオージャーは吹っ飛ばされ、広場に落ちても何メートルも舗装をめくり上げ、深い溝を掘ってやっと止まる。

 うめき声をあげ、よろめきながら立ち上がるクワガタオージャー。オオクワガタオージャーが悠然と歩み寄る。

ギラは私のもの作戦・最終フェーズ

 クワガタオージャーとオオクワガタオージャーの戦いを見届けるべく、後をついて行くリタ様に、ギラの拘束係だった3人の兵士が駆け寄り、広場の隅っこへと引きずる。成すがままながらも「何だ?」と聞くリタ様。

 人目のなさそうな物陰に来ると、3人の兵士は一斉にカブトを脱ぐ。何と、カグラギ殿、ヒメノ様にヤンマ君が変装していたのだった。

 カグラギ殿が当たり前のように準備はいいかと尋ねる。うなずくヒメノ様とヤンマ君。
 リタ様だけが何のことだというような雰囲気を醸している。

 ヒメノ様がリタ様の様子に、聞いてなかったのかと驚く。「何をだ?」と聞き返すリタ様。
 ヒメノ様が天真爛漫な笑顔で答える。
「今から、〈ギラは私のもの作戦〉最終フェーズに入る!」
 ポーズを決めるヒメノ様と、その隣でいい笑顔を見せるカグラギ殿がカワイイ。

 ヒメノ様の音声解説によりお送りされる作戦概要。以下はその内容をまとめたもの。
 ちなみに、最終フェーズの前段階はいつのどこだったんだ、とか言わないように。

 1 ラクレスは決闘裁判に確実に勝つために、カグラギから渡されたすこピの毒を使う、ハズ。
 2 毒を使われたギラは倒れ、決闘裁判が終わる。
 3 そこへ、兵士に変装したヒメノ・ヤンマ・カグラギが死体の回収係としてギラを連れて行く。
 (リタ様「死んでたら意味ない」とツッコむ。ノンノンノン、と何故かフレンチ風味に否定するヒメノ様)
 4 すこピの毒は、実はカグラギが麻酔薬とすり替えてラクレスに渡しているので、実はギラは死んでいない。
 5 ギラは死んだことになっているので、ラクレスからの追っ手は来ない。
 6 ヒメノたちはギラという奥の手を手に入れる。作戦大成功! 

 作戦の内容を説明している時の動画が、登場人物をデフォルメしたデザインになっていて、動きも単純化されていたり、セリフもちょっとふざけた言い回しになっていたり可愛らしい仕上がりになっています。BGMもお馴染みのドタバタコメディーの曲なので、楽しく見られます。ラクレス様が明るく可愛く「死ねえ!」と叫んでるのはここだけなので、道具必見の場面です。もちろん他の王の民も必見の場面です。

 よくこんなシリアスな回にこんなご陽気な場面を挟み込んだよね……誰発案か分からないけど天才だし、それをこんな風に仕上げた監督さん初め各方面のスタッフも天才。

 作戦に関しては自信満々のヒメノ様が、カグラギ殿に麻酔薬を渡したかと確認をする。カグラギ殿も自信満々にすり替えた注射器を見せながら、抜かりなくと答える。

 しかし、カグラギ殿がその注射器を見つめながら黙り込み、半ば独り言のように尋ねたことから雲行きが怪しくなる。
「えっと……これ、どっちです?」

 ヒメノ様が平然と見た目で分かるわけがないと答える。「ラベルが貼ってあったでしょ?」とカグラギ殿の顔を見ながらヒメノ様が確認する。

 えっ?と一瞬真顔になるカグラギ殿。すぐに思い出したぞ分かったぞというような「あぁ~」と声を上げ(逆にこの間に必死に思い出している。分かるぞ!)、そうだったよねえというように笑顔になる。しかし、結局記憶になくて「ほえ?」と首を傾げ、くりんくりんの大きなお目目を高速で瞬きする。効果音が細い物をカンカンぶつけ合うような音なの、面白カワイイ。天才。

 リタ様が実に真面目に問いかける。
「まさか、本物の毒を渡してたりしないよな?」
 リタ様に顔を向けていたヤンマ君とヒメノ様が、カグラギ殿を見る。時間差をつけて振り返ってるのが面白カワイイ。天才。

 カグラギ殿はまたしてもとぼけた顔をして、さっきとは別の向きに首を傾げる。事態が一気にヤバくなったことに気付き、ヤンマ君が息を呑む。さあ、大変だ!!!!

 カグラギ殿の「ほえ?」初登場ですねー!カグラギ殿は色んな所でシオカラ君とはまたひと味違うあざと可愛さを見せてきますが、ダントツに可愛いのが「ほえ?」ですね!

 これまでカグラギ殿はオモテってなあに?みたいな腹の底が知れない表情が多く、たまに垣間見える素の表情も、どちらかというと暗い感情に基づいている印象があります。

 他の王様たちのことが前より分かってきて、色んな表情を見せてどんな反応をするのか、もう少し深い所を探っているとも言えますが、それは他の王様たちといることでカグラギ殿自身が今までと少し変わったことを感じているからかもしれません。

 さてはて、カグラギ殿が渡した物は毒か麻酔か、真実はいずこにありや?
 一周回って(?)両方渡してる可能性もあるよな~、カグラギ殿だから。

 コーカサスカブト城へと続く空中回廊。
 クワガタオージャーとオオクワガタオージャーの戦いが続いている。今のところは毒を使われていない模様。良かった良かった。

 と、思いきや、オオクワガタオージャーに切り払われ、悲鳴を上げながら回廊に突っ伏すクワガタオージャー。ダメージがたまって来たせいもあるのか、すぐには立てない。

 オオクワガタオージャーが近づき、倒れ伏すクワガタオージャーを下から切り上げる。クワガタオージャーの体が宙に浮き、回転しながらまた回廊へと落ちる。

 息も絶え絶えなはずのクワガタオージャーが、何故か邪悪の王モードで高笑いをしながら、ゆっくりと立ち上がる。二人が向かい合った時、中継用のデミシュゴッドが飛んでくる。

 中継用のデミシュゴッドの存在に気付いたかどうか、オオクワガタオージャーが冷静に虚勢を張るのはここまでだ、と語りかける。

 ちょうど追い付いたリタ様。カグラギ殿、ヒメノ様、ヤンマ君が少し遅れて駆け付ける。
「君の悪行は、ここで終わる」
 明らかに人の目を意識した言い回しで、オオクワガタオージャーがひときわ力がこもった一撃をクワガタオージャーに食らわせる。本当に最大出力で、クワガタオージャーは果てしなく遠くへ飛ばされていく。えぇぇぇぇぇ……。

 彼方へと飛ばされていくクワガタオージャーの行方を見定めながら、オオクワガタオージャーがマントを後ろへと振り払い、後を追う。振り払った勢いと風の中とではためくマントの裏に、リタ様(と視聴者)はあるモノを見る。チラリと見えたそれは、ヒメノ様からカグラギ殿へと渡された注射器だった……。

 道具でありながら僭越ですが、お伺いしたいことがあります、ラクレス様。
 その注射器、どうやってマントの裏にお付けになられたのですか????

 内ポケットがあるというのではなく、注射器専用の収納部をわざわざ作り、注射針が刺さらないように折れないように収納できるよう工夫されています。どう考えても特注品です。しかも、諸々考えてもラクレス様が御自分で付けられる位置ではございません。

 私、確信いたしました。絶対、ラクレス様専属の研究所だけじゃなく、秘密工作部隊が存在しますよね、……ね!(キラキラした目)

 ……行間を埋めてる場合じゃなかった。でも注射器の収納部、本当にしっかり作ってあるので、皆様も機会があればじっくりとご覧下さい。本当に、神は細部に宿るよね……。

 シュゴッダム・郊外の山間部。
 落ちる気配もなく、かなりのスピードで飛ばされっ放しのクワガタオージャーに超高速で追いつき(!)、オオクワガタオージャーが地面へとたたき落とす。なす術もなく落ちていくクワガタオージャー。

 シュゴッダム・空中回廊。
「マズイ。ラクレスは毒を使うぞ」
 リタ様が彼方を見ながら冷静につぶやき、歩き出す。
 兵士用の兜を投げ打ち、ヤンマ君が駆け出す。ヒメノ様も同じように走り出す。
 カグラギ殿はと言えば、立ち合いに向かったリタ様と駆け去った若人二人を見送ると、右手であごに触れながらニヤリと不敵な笑みを浮かべ、逆方向へと歩き出す。
 さすが腹黒策士の王殿様、どこへ何の目的で向かうのか?

王が恐れたものは

 シュゴッダム。郊外の山間部。
 風に吹かれたものか、クワガタオージャーが落ちた衝撃で舞い上がったものか、辺りには砂煙が漂い、薄膜が張られているようである。
 叩き落とされたクワガタオージャーが、地表でなかなか起き上がれずにもがいている。
 今までなら変身解除されてるくらいの大ダメージが蓄積されているはずである。短期間で随分と強くなったなあ。

「降参しろ。でなければ死ぬだけだ」
 砂煙の中からオオクワガタオージャーが姿を現す。クワガタオージャーへと歩み寄りながら、剣の切っ先を向ける。
 ふらつきながら立ち上がったクワガタオージャーが、高笑いを放つ。オオクワガタオージャーに剣を向けて、意外なことを問う。
「何故笑わない?」

  オオクワガタオージャーが「何?」と問い返す。クワガタオージャーが続ける。
「勝利を確信するなら、笑いが止まらないはずだろう。だが決して笑わない。」
 クワガタオージャーが手でオオクワガタオージャーを指す。
「貴様、この俺様を恐れているな?」
 クワガタオージャーがそう言って勝利を確信したように両手を広げてみせる。

 オオクワガタオージャーが鼻で嗤う。
「お前のような下民ごとき、微塵のわずらわしさもない!」
 初めはゆっくりと、徐々にスピードを上げ、雄叫びと共にオオクワガタオージャーがクワガタオージャーへと駆け寄る。

 オオクワガタオージャーがオージャカリバーZEROを振り下ろす。来ると分かっている一撃なので、クワガタオージャーも正面からしっかり受け止める。

 鍔迫り合いとなった時、クワガタオージャーがオオクワガタオージャーに問いかける。「本当に俺様は誘拐されたのか?」

 質問の真意を探るようにオオクワガタオージャーが問い返す。
「何を言っている?」

「誘拐ではなく……」
 クワガタオージャーがオージャカリバーを右手で素早く動かして、オージャカリバーZEROの刀身を持ち手ごと押さえ込む。同時に一気に間を詰め、左手でオオクワガタオージャーの右肩をがっしりと掴む。間近で顔を見合わせる二人。

 クワガタオージャーが叫ぶ。
「貴様がこの俺様を追放したんじゃないかと聞いてるんだ!」
 不意に、オオクワガタオージャーの呼吸が乱れる。

「貴様はたかが子供の俺様に恐怖し、王の座を守るために追放した。それが真実だ!」
 クワガタオージャーがそう叫び、剣の柄をオオクワガタオージャーに打ち付ける。オオクワガタオージャーがクワガタオージャーを振りほどき、さらにオージャカリバーZEROで横薙ぎに切り払う。叫び声を上げながら、地面に倒れるクワガタオージャー。

 仰向けに転がるクワガタオージャーが、図星かと笑う。
「剣が荒いな……動揺が伝わって来るぞ!」

 そう言いつつ、うつ伏せになって地面に手を突き、よろよろと立ち上がるクワガタオージャー。

「神聖な決闘で正々堂々と戦うこともできないのか!」
 オオクワガタオージャーが怒りを込めて叫ぶと、オージャカリバーZEROのレバーを素早く3回操作する。操作が早過ぎるよ、どれだけブチギレてるの!?
 そして何のタメもなく、放たれるロードフィニッシュ!ド派手に上がる炎と煙とクワガタオージャーの叫び声!

 ロードフィニッシュを放った時の姿勢のまま、オオクワガタオージャーが異変を察する。
 炎の向こうから、クワガタオージャーの高笑いが聞こえてくる。それどころか、しっかりと立っているではないか。

 クワガタオージャーが力強く叫ぶ。
「俺様は邪悪の王!卑怯!卑劣!最低!そして……」
 地表で燃え残る炎と、揺らめく炎によって生まれる陽炎越しに、クワガタオージャーが剣の切っ先をオオクワガタオージャーへと向ける。
「敗北を知らぬ者だーーーー!!!!」

 クワガタオージャーがレバーを操作し、オオクワガタオージャーへと駆け寄る。高く跳び上がり、雄たけびと共にオオクワガタオージャーへと襲いかかる。
 一方のオオクワガタオージャー、クワガタオージャーを地表からその動きを冷静に見ている。

 一気に剣を振り下ろすクワガタオージャー。受け流すオオクワガタオージャー。剣にエネルギーがチャージされている分だけ、さっきよりも攻撃力も上がっているのか、打ち合う時に飛び散る火花の量が段違いである。速くて眩しくて目で追えない。

 何度か打ち合い、オオクワガタオージャーが前蹴りを入れてクワガタオージャーを下げさせる。前蹴りってワイルドで戦慣れしてる感じがあってカッコいい(何の話?)
 クワガタオージャーも負けじと、打ち合いの間に肩からの体当たりを入れてみたりしている。ギラは感覚派らしく、実戦で思いついたことをガンガンやってみてる感じが良い。

 さらに数合の打ち合いがあり、隙を見てオオクワガタオージャーが大きく剣を横一文字に振る。クワガタオージャーが体を反らせて避ける。地面に片手を突くのも一瞬、すぐに起き上がってオージャフィニッシュを放とうとするが、これは真っ正面からオオクワガタオージャーに剣を打ち合わされて未遂に終わる。どういう体幹なんだ!
 互いに押し合いながら鍔迫り合いをほどき、再び剣を打ち合う二人。

 決闘裁判の中盤戦について。
 場所がシュゴッダムの郊外に移り、ギラがラクレス様に本当に聞きたかったことを尋ねます。
 自分は本当に誘拐されたのか?本当は追放されたのでは?その理由は子どもながらに強大な力を持つ自分を恐れたからでは?
 物事の本質をつかむ能力に長けたギラ、ここでこの物語の謎の核心を突いてきます。

 幼少期の記憶がおぼろげなはずのギラがこんなことを言うので、さすがのラクレス様も多少の動揺を見せます。
 しかし、ギラが導き出した現時点の答えが「ラクレスが自分の玉座を守るため」というものだったため、ラクレス様がブチギレます。

 第8話時点で、ラクレス様がギラに対して恐れを抱く可能性がある能力と言えばシュゴッドと通じ合う力です。ギラはこの時点までにその能力がどれ程特別なのかを自覚せざるを得ない成り行きがあり、またこの能力によって自己肯定感を得ている感じもあります。
 「今だってそうなんだから、チビッ子のころにもその能力を見せていたに違いない」と想像することによって、その頃から感じていた心の隙間を埋めようとしたのかもしれません。

 一方のラクレス様はもちろんその頃の本当の事情はご存じのはずですから、ここで言えないなら言えないだけの重い秘密と事情があります。もしかして記憶が戻ったのかと話を聞いてみればそんなこともなく、特殊能力を持つ弟に玉座を奪われるかもしれないから追放したという推理は、裏を返せばギラがただ天狗になっているだけなので、ラクレス様はブチギレますよね。

 最終回まで見た視聴者としては、また改めてこの場面を見直すと「そうだけどそうじゃない!」と、悶々とした気持ちになります。

 これは後付け解釈となりますが、この場面のギラは邪悪の王モードなので追放というワードを使っていますが、本当は「どうして自分はお兄ちゃんと離れ離れになってしまったの?」って聞きたかったのではないでしょうか。

 初見時にギラが自分の両親について、ラクレス様に何も尋ねなかったのが不思議でした。よく考えたらラクレス様の権力は、先代国王夫妻が存命であればあり得ないほどに集約されています。だとすると、国王の代替わりは先代の死によるもの、先代の王妃もまた亡くなっていることになり、ギラはシュゴッダム国民としてその事実を知っていたのでしょう。

 どこかにいるかもしれないと思ってた父母が、実はもうこの世におらず、会うことが叶わないと知ったギラの心情はどんなものだったのでしょう。

 唯一の肉親の兄がいて、兄が大好きだった気持ちと記憶がある今、決闘裁判は兄と余人を交えず話ができる数少ないチャンスですから、ギラがリタ様に告げた「絶好の機会を逃すわけがない」は本音です。

 養護園で過ごしていたギラが、養護園の大人たちに大事にされ、一緒に暮らしている子どもたちと仲良くしていても、とても寂しい、甘えたい、守ってほしいと感じた時はあったと思います。

 その頃の感情が、今のギラの「子どもたちを守りたい」につながっていることは想像に難くありません。もっと言えば、今のギラは「小さい時にこんな風に守ってほしかった」という思いを自分で実践しているのかもしれません。
 
 さて、場所が変わってからは、ラクレス様が先に攻撃を仕掛けていきますが、ここでテーマ曲である『ラクレスの陰謀』が流れます。覇王感満載の曲に、覇王感満載の剣劇アクションが展開しますから、ラクレス様の最強覇王感が天井知らずです。ギラが勝てる気が全くしないです。

 そしてクワガタオージャーが「敗北を知らぬものだ」と叫んだ後に『Inferno』のイントロ、空中に飛び上がった時には1番のサビがかかります。クラシックな『ラクレスの陰謀』に対し、情熱的で激しいロックナンバーで、それがギラの情熱的な戦い方にピッタリですし、ギラが主人公であることを明確にします。選曲のセンスが天才的。

 そしてクワガタオージャーが跳び上がる場面、それぞれがギラとラクレス様の姿で向き合うカットが入ります。この時の二人の表情がすごくカッコ良くてステキなんですよね。

 あと、オージャカリバーもオージャカリバーZEROも光り輝いてるせいなのか、剣を振る時に入る効果音が『スター・ウォーズ』のライトセーバーっぽいのも地味に好きです。

誰を助けると?

 シュゴッダム。郊外の山間部。
 なおも続くクワガタオージャーとオオクワガタオージャーの戦いを、小高い場所で見ているリタ様。

 すると、どこからともなくギラを呼ぶ声が聞こえる。何と、ヤンマ君が満面の笑みを浮かべ、手を振ったり拳を掲げたりしながら「助けに来たぞ~!!」と駆け寄って来るではないか。

 もう何度目なのか分からない鍔迫り合いの最中だったが、思わず振り返るクワガタオージャー。
 この場にようやく駆け付けた兵士姿のヒメノ様、状況が呑み込めない。

 ヤンマ君は「心の友よ~~~!!!」と叫びつつ、両手を高々と上げながら、朗らかな笑顔でどんどん近付いてくる。
 そして勘のいいお友達はこの瞬間に気付く。ヤンマ君は、こんなこと言わないぞ!!!

 オオクワガタオージャーがオージャカリバーZEROでクワガタオージャーを剣ごと押しのけると、邪魔をするなと叫びながら素早くヤンマ君に近づき、いつの間にか手にしていた注射器の針を何のためらいもなく突き刺す。そして中の液体を全て(!)注入する。えええええ!?
 それぞれの場所で見ていたクワガタオージャーも、ヒメノ様も驚く。

 液体を全て注入されたヤンマ君は、両手を上に上げた姿勢のまま、硬直し、うめき声を上げつつ膝を地面に付くと、そのまま仰向けに倒れる。何という柔軟性!
 全身がけいれんし、苦しそうな声を上げるヤンマ君。

 我に返ったクワガタオージャーが駆け出す。同時にオオクワガタオージャーがゆっくりと後じさりする。すれ違いざまにクワガタオージャーがオオクワガタオージャーに一太刀浴びせようとするが、それは華麗に避けられてしまう。

 クワガタオージャーは駆け寄るや否やオージャカリバーを手放し、素早くしゃがんでヤンマ君を抱き起こす。
 苦しむヤンマ君に懸命に呼びかけるクワガタオージャー。徐々にヤンマ君の皮膚の色が何とも言えない毒々しい色に変わっていく。

「ヤンマは関係ない……助けなきゃ……!」
 クワガタオージャーが顔を上げて周囲を見回す。しかし、オオクワガタオージャーが冷たく問う。
「誰を、助けると?」

 中継用のデミシュゴッドが飛んでくる。間が良いと思えばいいのか、今ごろと思えばいいのか。そもそも中継用デミシュゴッドの飛行速度が遅いのか、ラクレス様の斬撃が強烈過ぎるのか……?  
 え?ヒメノ様?ゴッドカマキリで来たのでは?

 シュゴッダム。街の広場。
 小さい街頭用モニターの前にシュゴッダムの民が集まっている。その一番前を陣取っているゴローゲさん。
 電波のつながりが悪かったのか、モニターの画面を見てゴローゲさんたちがついたついたと喜び合う。一体どの時点から中継が切れていたのだろうか?
 しかし喜びもつかの間、誰もが不思議そうな表情を浮かべる。ゴローゲさんは息を呑み、険しい顔つきで「おいおいおいおい!」と大きな声で叫ぶ。

 シュゴッダム。郊外の山間部。
 呆然としているヒメノ様の横に、兵士の姿に変装したままのヤンマ君が現れる。それを見て、クワガタオージャーが前のめりになり、「うんん!?」と素っ頓狂な声を上げる。
 ヤンマ君はヤンマ君で、口をあんぐり開けて「あ?」と間抜けな声を出す。

 シュゴッダム。街の広場。
 街頭のモニターを見ていた人々がざわめいている。ゴローゲさんが目をむき「コイツ…!」と叫ぶ。

 シュゴッダム。郊外の山間部。
 クワガタオージャーが、恐る恐るというように、ゆっくりと顔を下に向ける。 彼が抱き起こしていたのは、毒が回って体を震わせている……見慣れない怪ジーム=ゲロウジーム!
 中継を見ていたゴローゲさんの「……敵をかばってるぞ!」という叫び声が重なる。

 驚いたクワガタオージャーが、腰を抜かして後ずさる。支えを失ったゲロウジームが地面に転がる。地面に横たわりながら体を震わせ、苦し気にうめいている。

 動揺しながらも立ち上がるクワガタオージャー。そんな隙だらけの状態をオオクワガタオージャーが見逃すはずもない。素早く近寄り、オージャカリバーZEROを一閃させる。
「やはり貴様は……人類の敵だ!」
 そう叫んで立て続けに斬り付ける。受ける間もない連続攻撃に、クワガタオージャーはなすすべなく崖っぷちへと吹っ飛ばされる。
 身構える間もなく食らった攻撃に今まで蓄積されたダメージが重なり、クワガタオージャーはすぐに起き上がることができない。

 クワガタオージャーの大ピンチに、ヤンマ君とヒメノ様が駆け出した時。その背後から思わぬ声が聞こえ、二人が驚いて振り返る。視線の先には、わらわらと姿を現すサナギムたち。

 ヤンマ君とヒメノ様が、素早くオージャカリバーを腰から引き抜く。
「ああもう、カグラギはどこ行ったのよ!」
 知らぬ間にいなくなったカグラギ殿にヒメノ様はご立腹である。

 群がるサナギムの攻撃をかわしたり、蹴りを食らわせたりした後、ヤンマ君が王鎧武装する。短縮バージョンもカッコいい!

 群がられる前に剣を一閃させ、一番近くにいたサナギムの体に剣を刺した状態で、ヒメノ様が王鎧武装をする。よく考えたら残酷な絵面なのだが、ヒメノ様の立ち姿やレバーを操作する手の動きが華麗で美しいので思考が停止する。お怒りモードのせいか、普段よりちょっとキツめの表情になってるのがまた良い。

 シュゴッダム。コーカサスカブト城・城内の某所。
 やたらに体格のいい兵士が城内を歩いてくる。反対側から来た二人連れの兵士を見て立ち止まる。互いに礼を交わす兵士たち。しかし二人連れの兵士は相手の礼が無駄にキレが良かったことか、体格の大きさか、兜を付けたままであることにか、不思議そうに見返りながら去っていく。

 二人を見送り、さらに歩を進めるやたらと体格のいい兵士。ある場所にたどり着くと、兜の目覆いを上げる。現れた素顔は、皆様お察しの通り、トウフの王殿様カグラギ・ディボウスキのものである。
「これは……!」
 目の前にあるものに、さしものカグラギ殿も驚くばかりである。さて、彼が目にしたものは……?

 シュゴッダム・郊外の山間部。
 クワガタオージャーが、やっとのことでよろめきながらも立ち上がる。
 オオクワガタオージャーが、見せつけるようにレバーを操作しながら近づいて来る。
「最後だ、ギラ・ハスティー」
 もはや死刑宣告である。決闘裁判の要求どこ行ったの、ラクレス様!

 色々と崖っぷちのクワガタオージャーが、最後の力を振り絞って雄叫びを上げながらオージャカリバーを振り上げる。
 そんなやけっぱちの攻撃が通じるはずもなく、逆に渾身のロードフィニッシュを叩き込まれるクワガタオージャー。
 凄まじい炎が上がり、クワガタオージャーの絶叫が響き渡る。

 シュゴッダム。街の広場。
 ラクレス様の勝利を確信し、喜びの声を上げ、万歳をするゴローゲさんたち。

 ギラたちの養護園。
 中継を見ていた子どもたちがハッとして立ち上がる。コガネちゃんやブーン君がギラの名を呼ぶ声には悲痛さがある。

 シュゴッダム・郊外の山間部。
 崖の上から吹っ飛ばされ、深い谷底へと落ちていくクワガタオージャー。
 リタ様が背中からオージャカリバーを引き抜く。
「この決闘は、ラクレスの勝利」
 剣を下向きにして体の正面で構え、両手で柄を握ると、地表へと強く打ち付ける。金属音が鳴る。決闘裁判はこうして終結した。

アナタはもう死んでいる

「注射器間違えるなんてどういうつもり?」
 暗闇の中で、ヒメノ様が厳しく問い詰める声が聞こえる。カグラギ殿はタジタジの様子で謝っている。そこへヤンマ君が本当に大丈夫かと尋ねる。しかしどの声も、もわもわとぼやけていて、くっきりと聞こえない。

 目を閉じ、横たわっているギラ。決闘裁判で負った傷が顔のあちこちにできている。
 なおも、ヒメノ様とカグラギ殿が問答するもわもわした声が聞こえる。

 暗闇の中に、ぼやけているものの細く視界が開ける。視界の縁がわずかに上下する。
 ぼやけた視界の中に上下左右を囲むように立つ王様たちを、見上げている状態である。

 くっきりと見えた一瞬、医師の衣装を着たヒメノ様がギラの名を呼ぶ。他の王様たちも下に顔を向ける。目覚める前のギラが見聞きしていたから、先ほどの声も映像もぼやけたものだったのだ。
 ヒメノ様が声を掛けながら、ギラの顔をのぞき込むようにしてしゃがむ。

 横たわったギラが目を開け、声をかけるヒメノ様に目を向ける。ギラは目覚めたばかりで、まだ意識がボーッとしている。ヒメノ様が優しく起きられるかと尋ねる。
 一目で恐らく色々大丈夫と判断したのか、ヒメノ様は自分が治療したのだから起きられると急に厳しめに言いながら立ち上がり、しまいには「起きて」と命令する。

 ギラや王様たちがいるのは、森の中。ギラが落ちて行った谷底か、そこからさらに人目に付かないように移動したどこかなのか。5人の上に木漏れ日が落ちている。

「負けて死に損なった気分はどうだよ?」
 ヤンマ君がギラに声を掛ける。言い回しはヒドイが、その声にはギラを気遣う優しさがある。くぅぅぅ、ヤンマ君のそういう所マジでカッコいい。
 少し間を置き、負けたのか、とつぶやくギラ。

「急所は外れてた。自分の悪運にも感謝しなさい」
 ヒメノ様にそう告げられ、ギラは不審そうに「外れてた……?」と自問し、考え込む。
 しばらくしてフッと小さく笑うと、ギラは周りの王様たちに助けてくれた礼を言う。

 リタ様がまだ安心できない、と告げる。
「上で巨大バグナラクが暴れてる」
 ギラが「僕が!」と叫んで立ち上がろうとすると、カグラギ殿が止める。
「あなたには、今後死人になっていただきます」 〈ギラは私のもの作戦〉を知らないギラ、ポカンとしてカグラギ殿の顔を見つめる。

 シュゴッダム・都市近郊。
 首都を守る外壁を、巨大化したゲロウジームが肉弾戦で壊している。すでに破壊された箇所からは、黒煙がもくもくと上がっている。巨大化しても、掛け声がどこか儚げで弱弱しい。

「反逆者ギラは成敗した。」
 シュゴッダム。コーカサスカブト城・城の前の広場。
 暴れるゲロウジームを見据えながら、オオクワガタオージャーがオージャカリバーZEROを手に告げる。
「これより私が、守護神の力でバグナラクを打ち倒そう!」

 街の広場では、モニターで中継を見ている民たちがラクレス様に声援を送る。もちろんゴローゲさんの声が一番大きい。

 オオクワガタオージャーがオージャカリバーZEROの切っ先を上に向ける。天に掲げ、キングオージャーを召喚しようとしたその時。
 空を見上げたオオクワガタオージャーが、異変に気付き、動きが止まる。

 暴れるゲロウジームを真上から捉える複眼の画像。上からの風切り音に見上げるゲロウジーム。突然何事、となった次の瞬間。
 親方、空から女の子……じゃなくて、何かデカいのが落ちて来たああああ!!!!

 猛スピードで真っ直ぐに落ちて来た巨大なモノは、そのままゲロウジームに直撃する。衝撃音と砂煙が激しく上がる。

 ゲロウジームを巻き込んでの落下の衝撃は凄まじく、街の広場にも音と振動が伝わる。身をすくめ、何事かと様子をうかがう民たち。

 コーカサスカブト城の前にいるオオクワガタオージャーもまた、何が起きたのか見定めようと彼方に目を向ける。

 落下地点から、巨大なモノが空中高く跳び上がって着地する。それは、とてもとても大きなバッタ型シュゴッドだった。目を光らせ、甲高く鳴くバッタ型シュゴッド。

 突如現れたシュゴッドは、果たして人類の敵か味方か?

 ここで第8話本編終了となります。

 この回のメインはもちろん、決闘裁判ラクレス様、初の王鎧武装!!!
 物語の流れ的にはスピンオフ『ラクレス王の秘密』で初変身なのですが、スピンオフ第1話が第8話放送終了後に配信開始だった(と思う)ので、実質オンエア時が初お披露目となります。

 第8話観てからスピンオフ第1話を見るとお分かりいただけると思いますが、ギラとの決闘裁判、実は割と手加減しています。手加減しててあの強さなんです。あり得ないわー。
 普通なら木っ端みじんになってそうな攻撃を受けて生きているギラも、あり得ないほど丈夫ですよね……。

 そして、ギラが崖から落ちる時、勘が良いお友だちは察しがついたでしょう。
「ギラは主人公なんだから、第8話で死ぬわけない!!!!」
 もちろんギラは死にません。それなりのダメージは負っていますが、ヒメノ様が治療したので立つことはできます。そしてあんなにガンガン攻撃されていたというのに「急所は外れていた」のです。

 またしても、勘の良いお友だちはみんなピンときます。
「ラクレス様、わざと外したな……!」
 ここで、我が家では「ラクレス様=訳ありの愛が重いお兄ちゃん」が確定しました。
 ラクレス様がどんな事情を抱えているのか、その重い愛の行方も必見です。

 第8話では、重要なことがいくつもサラッと明かされていました。ギラの誘拐事件も〈神の怒り〉も、実は15年前に起きていました。関連性があるのかないのか、そもそも誘拐なのか、それを問われて何故ラクレス様は動揺したのか。そして遡って出てくる謎は、15年前にギラが疾走した事情を知っているはずのボシマールさんは、ギラが姿を消した王子だったと気付いていたのか、いなかったのか……行間が盛りだくさんです。

  決闘裁判の中盤で、ラクレス様に勝利を確信したなら笑いが止まらないはずだ、とギラが告げる場面があります。ギラはラクレス様が自分を怖がっているから笑わないんだと煽り立てます。

 しかしながら、死線を本当にくぐってきた人間であれば、「勝利の確信」はまだ勝利していない状態だと知っていますから、確実にとどめを刺すまで、もっと言えばとどめを刺した後でも油断しません。
 勝ちを確信して笑うなんて油断以外の何物でもなく、そんな愚をラクレス様が犯すはずもありません。

 人や物事の本質を直感的につかめるギラでありますが、ラクレス様自身の本質をつかむことができていません。
 ギラの目が曇っていると言えますが、言い換えればラクレス様が曇らせているとも言えます。
 この宇宙のごとき深く広い行間の向こうに、一体何があるのでしょうか?

  その他、デズナラク8世のカメジムへのお仕置きや、カグラギ殿のコーカサスカブト城潜入や、ヤンマ君とヒメノ様の変装や素面アクション、ゲロウジームの無いようで有る存在感、最後の最後で全部持って行ったバッタのシュゴッドetcと、見所しかない第8話でした。

 さて第9話では、〈ギラは私のもの作戦〉が成功した王様たちが、そのまま4人で協力してギラを匿うのか……いいえ、そんなわけないです!と言うお話。

 ギラ誘拐作戦を失敗したバグナラクの次の恐るべき作戦、王様に特別任務を与えられた側近たちがそれぞれに奮闘する、シリアスなのかコメディなのか良く分からない、早い話がただの『王様戦隊キングオージャー』な、ワクワクドキドキの展開となります。

 王様たちに負けず劣らずアクの強い側近たちの活躍に、乞うご期待!

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