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知られざる太平洋戦争のドラマ③

不死鳥と呼ばれた駆逐艦「響」

幾度もの損傷に耐えた特三型駆逐艦

生まれながらに不沈艦を宿命づけられた戦艦「大和」、幾多の激戦を生き抜き、沈むことなく終戦を迎えた幸運の駆逐艦「雪風」――

日本海軍の不沈艦と聞けば、このどちらかを連想することだろう。しかし海軍にはもう1隻、何度損傷しても海に舞い戻った浮沈の艦艇があった。しかも終戦まで決して沈まず、戦後も海外にて運用されもした。

その艦の名前は、特三型駆逐艦の「響」である。

特三型とは、ワシントン条約で保有数を制限された戦艦戦力を穴埋めするため、艦隊決戦用に開発された特型駆逐艦の改良型をいう。特型は12.7センチ連装砲を3基、魚雷発射管9門という重武装を実現しつつ、5万馬力の高出力タービンを採用したことで38ノットもの高速を実現。1928年の誕生当初は世界トップクラスの駆逐艦として世界の注目を集め、1930年と32年には改良型の「特二型」と「特三型」が開発されている。

「響」は特三型の2番艦として1933年に就役。そして他の特型が相次いで轟沈する中で、「響」は戦後まで生き残った2隻のうちの1隻となったのだ。

襲いかかる数々の苦難

そんな「響」の生涯は、まさに苦難の連続だった。

開戦時には第六駆逐隊として南方攻略を支援。1942年5月からはアリューシャン列島攻略作戦に参加する。作戦自体は成功したが、キスカ島を攻略し終えた6月12日にアメリカ爆撃隊の攻撃で艦首が大破。乗組員の応急処置で沈没こそ免れはしたものの、修理のために大湊へと戻される。

修理後は日本とトラック諸島間の空母護衛に使われるだけで、ガダルカナル攻防戦に直接参加することはなかった。

その後、1943年夏のキスカ島撤退作戦では救援艦隊の1隻に選ばれ、救出された守備隊5183人のうち418人を収容。このときは敵にアメリカ艦と誤認させるため、偽装煙突をつけたとされている。

キスカ島の守備兵全員を救助した撤退は「奇跡の作戦」として大本営に賞賛された。だが、これ以降、「響」は数々の困難に見舞われる。

1944年5月にセレベス海で船団護衛をしていたところ、アメリカ潜水艦の魚雷で同じ特三型の「電」が目の前で轟沈。しかも「響」が「電」と場所を交代した直後に起きた悲劇であった。

参加できなかった戦艦「大和」との水上特攻

他の特三型は別の戦いで沈んでいたので、「電」の沈没により同型艦は「響」のみとなる。

さらにこの4ヶ月後には、船団護衛の最中に機雷との接触で大破。護衛対象の輸送船「永治丸」も沈没する。しかも台湾・高雄での緊急修理中に艦内に赤痢が発生。「響」は急遽、佐世保へと帰還する。しかし、修理に加えて乗員の治療隔離と除染作業のせいで、年内の戦線復帰は絶望的となり、日米の決戦であるレイテ沖海戦に「響」は参加できなかった。

1945年1月25日、「響」は修理中の身で第二水雷戦隊の第七駆逐隊への編入が命じられ、27日には駆逐隊ごと第一遊撃部隊に組み込まれた。そして同年3月、「響」は日本海軍最後の大作戦への参加が決定する。大和特攻である。

アメリカ軍が攻撃中の沖縄近海に、戦艦「大和」を中心とする水上艦隊を突撃させる。この事実上の水上特攻に「響」も組み込まれるはずだったのだ。

3月29日、「大和」の護衛として「響」は佐世保に向かう。が、またもやここで機雷が牙をむいた。

佐渡島近海で艦の中央直下において機雷が爆発したことにより、艦内の電気機器の多くが破損。戦闘続行は無理と判断され、「響」は呉へと引き返した。それからは諸整備と訓練のために主要港を転々としつつ、最後は新潟県沼垂の岸壁で防空砲台となったところで終戦を迎えた。

終戦後にはソ連海軍に編入

沖縄で最後のあだ花を咲かせた「大和」や幸運のエピソードが数多い「雪風」と比べ、「響」の名は、さほど知られていない。それでも、何度大破しても戦場によみがえった「響」は、まさに不沈艦と言うべきしぶとさを発揮している。その不死身ぶりをたたえ、「不死鳥」と呼んだ将兵もいたという。

終戦後、「響」は解体されることなく、賠償品としてソ連に引き渡されることになった。 1947年に引き渡された「響」は信頼を意味する「ヴェールヌイ」という名をあたえられ、すぐさまソ連海軍へと編入させられる。

しかし「響」は戦争の影響と老朽化によって実戦投入が厳しい状態にあり、翌年には「デカプリスト」に改名されると同時に練習艦とされた。

ただ、冷戦でソ連の情報が入手しにくかったこともあり、「響」がどうなったかは長年謎とされてきた。定説では1953年に解体されたといわれてきたが、冷戦終結後の研究によると、70年代まで保管されてから航空隊の攻撃訓練に使われ、ウラジオストク沖に沈められたことが判明している。

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