08.再生研究の最先端研究室を探検してみよう:理化学研究所 神戸地区 一般公開2023 BDR いきいきいきもん から学んだこと その06

2023年11月03日、私は理化学研究所 神戸地区(以下神戸地区,図03)を訪れ、一般客として理化学研究所 神戸地区 一般公開2023 BDR いきいきいきもん(以下「いきいきいきもん」,[1],[2])に参加した。なお、理化学研究所 神戸地区 一般公開は、神戸医療産業都市 一般公開2023の一環でもある([3])。


「08.再生研究の最先端研究室を探検してみよう」で、生命機能科学研究センター(RIKEN Center for Biosystems Dynamics Research:BDR)器官誘導研究チーム(以下同チーム、[4],[5],[6])は、上皮・間葉相互作用による器官発生における器官誘導、発生メカニズム、および、形態形成を統合的に理解し、器官発生・再生原理を解明し、その原理を応用して次世代再生医療としての器官再生医療に向けた技術開発を進めていることを伝えた。

同チームの研究テーマは、以下のとおりである。

1.器官発生パターンを応用した器官再生技術の開発。

2.再生毛包原基移植による毛包器官再生医療の開発(理化学研究所 創薬・医療技術基盤プログラム)。

3.生命システムを応用した次世代インプラント(理化学研究所 創薬・医療技術基盤プログラム)。

4.次世代三次元皮膚器官系の再生と応用。

5.四次元細胞動態解析による器官形態形成機構の解明。

6.三次元立体器官の生体外育成技術の開発。

 

同チームは最先端の研究を紹介した。


同チームの都合により、写真撮影はできなかった。しかし、その代わりも兼ねて、同チームによる最新研究を紹介する。


 

2021年02月10日、同チームの辻孝チームリーダーと武尾真上級研究員らの共同研究グループは、毛包器官誘導能を持つ上皮性幹細胞を生体外で増幅する培養系を確立し、毛包上皮性幹細胞の毛包形成能力を制御するとともに、長期間の毛包器官再生に必要な幹細胞集団を明らかにしたことを発表した。さらに、この幹細胞集団は、マウスとヒトの天然毛包中においては、毛包幹細胞ニッチであるバルジ領域の上部に細胞外基質の糖タンパクである「テネイシン」とともに局在し、テネイシンが毛包器官誘導能を持つ上皮性幹細胞の未分化性維持のニッチを形成している可能性が示された。

本研究により、周期的な毛包再生能を維持したまま毛包上皮性幹細胞を増幅できる培養方法の開発に成功するとともに、長期間の器官誘導能力の維持にはCD34/ Itg 6/Itg 5三重陽性細胞が重要であることが明らかとなりました。

本成果は、毛包上皮性幹細胞の周期的な毛包再生や分化、運命決定のメカニズム、ならびに、上皮性幹細胞間の細胞系譜の理解などの幹細胞生物学研究に大きな貢献するとともに、「なぜほとんど全ての体性幹細胞は器官誘導能を失っているのか」、および、「どうやったら組織幹細胞においても器官誘導能を維持できるのか」という、発生生物学上の根本的な問いに答える足掛かりになるものと期待できる。

また、本研究により確立された培養方法を応用することで、少数の毛包から大量の再生毛包を人為的に製造できることから、世界初の器官再生医療である毛包器官再生医療(毛髪再生)の実現に大きく貢献すると期待できる([7])。

 

2021年04月08日、同チームの辻孝チームリーダーと武尾真上級研究員らの研究チームは、肝臓の機能単位である肝小葉内の類洞(るいどう)の空間的配置を三次元的なネットワークとして分析し、その特徴的なパラメータの変動を肝臓の静止期と肝部分切除後の再生期で比較したことを発表した。その結果、類洞の細胞が切除後の血流速度の変動を機械的刺激として感知し、サイトカイン ネットワークと協調することで、肝臓再生の開始と停止の両方に不可欠な役割を果たすことが明らかになった。

本研究により、肝臓は肝障害などにより減少した自らの体積を血流速度により感知し、肝細胞の増殖を制御する生理活性物質の発現量を制御することで、再生を誘導・停止させる仕組みを備えていることが明らかになった。

肝臓をはじめとする器官の発生や再生において、機械的恒常性が深く関与する可能性を示した本研究成果は、器官発生や再生などの基礎研究に大きく貢献すると期待できる。さらに、将来の人工的な三次元立体器官の作製において、従来の生理活性物質の調節のみならず、機械的恒常性を利用した技術開発への応用も期待できる([8])。

 

そして、2023年08月04日、同チームの辻孝 チームリーダー、武尾真 上級研究員、および、小川美帆 客員研究員(研究当時 株式会社オーガンテクノロジーズ 研究員、現 株式会社オーガンテック 代表取締役)らの共同研究チームは、マウス体毛の約70%を占めるジグザグ毛の毛幹が左右に3回変曲する形態に着目し、出生後の形態形成をつかさどる新しい生体リズムのモデルとして、その解明に取り組んだことを発表した。ライブイメージングによる細胞動態解析によって、毛包の毛乳頭細胞が作るマイクロニッチと呼ばれる微小環境と毛母細胞の組み合わせが3日に1度切り替わり、毛母細胞集団の状態が変化するという新たな生体リズムを明らかにするとともに、加齢によってこのリズムに乱れが生じることを明らかにした。

本研究では、出生後に形態形成を行う毛をモデルにすることで、出生後の形態形成パターンにも生体リズムが関与し、毛母細胞の増殖停止領域と毛乳頭マイクロニッチの組み合わせが周期的に変化することによって、約3日周期という生体リズムが制御されていることが明らかになった。さらに老化個体では、この形態形成パターンが乱れることが明らかになった。本研究成果は、これまでの生体リズム研究と併せて、生物のライフサイクルにおいて重要な役割を果たしていることが示され、幅広い生命研究に貢献すると考えられる。

ヒトにおいてはさまざまな毛種があることに加え、毛種および個人間における毛の形態(ドレープやくせ毛)の違いなど、それぞれの制御機構にも違いがあることが予測される。また、老化現象が、生体リズムの乱れに起因する形態形成パターンの秩序性低下であることから、ヒトの加齢における毛質の変化が生体リズムの変調によることが考えられ、加齢医学研究への貢献に加え、毛質の改善に向けて新たなアプローチを提供できる可能性が示された。

今後、生体リズムを作り出す、より上位の分子機構の解明とともに、加齢による毛の形態形成パターンのかく乱メカニズムの解明と、その予防法の確立につながるものと期待できる([9])。

 

「08.再生研究の最先端研究室を探検してみよう」では、写真撮影はできなかったが、それでも有益な情報は入手できた。

再生研究の最先端研究から目を離すことはできない。



参考文献

[1] 国立研究開発法人 理化学研究所 神戸事業所.“理化学研究所 一般公開 in 神戸 2023 ホームページ”.https://www.kobe.riken.jp/event/openhouse/23/#outline,(参照2023年11月25日).

[2] 国立研究開発法人 理化学研究所 神戸事業所.“いきいきいきもん”.理化学研究所 一般公開 in 神戸 2023 ホームページ.https://www.kobe.riken.jp/event/openhouse/23/bdr_ja.html,(参照2024年02月14日).

[3] 公益財団法人 神戸医療産業都市推進機構.“神戸医療産業都市(KBIC) 2023 一般公開 ホームページ”.https://www.fbri-kobe.org/kbic/ippankoukai/2023/,(参照2024年02月14日).

[4] 国立研究開発法人 理化学研究所.“生命機能科学研究センター 器官誘導研究チーム”.理化学研究所 ホームページ.研究室紹介.生命機能科学研究センター.https://www.riken.jp/research/labs/bdr/organ_regen/index.html,(参照2024年02月14日).

[5] 国立研究開発法人 理化学研究所 生命機能科学研究センター.“チームリーダー 辻孝 Ph.D. 器官誘導研究チーム”.理化学研究所 生命機能科学研究センター ホームページ.研究.研究室.https://www.bdr.riken.jp/ja/research/labs/tsuji-t/index.html,(参照2024年02月14日).

[6] 国立研究開発法人 理化学研究所 生命機能科学研究センター 器官誘導研究チーム 辻孝研究室.“器官誘導研究チーム 辻孝研究室 ホームページ”.https://org.riken.jp/philosophy/index.html,(参照2024年02月14日).

[7] 国立研究開発法人 理化学研究所.“周期的な毛包再生を可能とする上皮性幹細胞の増幅と特定-毛包器官再生医療への応用とその実現に期待-”.理化学研究所 ホームページ.研究成果(プレスリリース).研究成果(プレスリリース)2021.2021年02月10日.https://www.riken.jp/press/2021/20210210_3/index.html,(参照2024年02月14日).

[8] 国立研究開発法人 理化学研究所.“肝臓再生の開始と停止の鍵を握る機械刺激-肝臓毛細血管における機械的恒常性と肝臓再生-”.理化学研究所 ホームページ.研究成果(プレスリリース).研究成果(プレスリリース)2021.2021年04月08日.https://www.riken.jp/press/2021/20210408_3/index.html,(参照2024年02月14日).

[9] 国立研究開発法人 理化学研究所.“新たな生体リズムを毛の形態形成モデルから解明-加齢による毛質変化の解明やその予防法の確立に期待-”.理化学研究所 ホームページ.研究成果(プレスリリース).研究成果(プレスリリース)2023.2023年08月04日.https://www.riken.jp/press/2023/20230804_1/index.html,(参照2024年02月14日).

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