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03.「肺」研究の最先端研究室にようこそ:理化学研究所 神戸地区 一般公開2023 BDR いきいきいきもん から学んだこと その03

2023年11月03日、私は理化学研究所 神戸地区(以下神戸地区,図03)を訪れ、一般客として理化学研究所 神戸地区 一般公開2023 BDR いきいきいきもん(以下「いきいきいきもん」,[1],[2])に参加した。なお、理化学研究所 神戸地区 一般公開は、神戸医療産業都市 一般公開2023の一環でもある([3])。


「03.「肺」研究の最先端研究室にようこそ」で、生命機能科学研究センター(RIKEN Center for Biosystems Dynamics Research:BDR)呼吸器形成研究チーム(以下同チーム,図03.01,[4],[5],[6])は、マウスの呼吸器をモデルとして、以下の研究に関わっていることを伝えた。

1.胎児気管の全上皮細胞リネージ解析。

2.肺神経内分泌細胞(Pulmonary Neuroendocrine cell、肺NE細胞)の奇妙な振る舞いと多彩な機能。

3.“生まれる”ことが呼吸器の発達をうながす仕組みの研究。

4.呼吸器の再構成論的理解。

図03.01.呼吸器形成研究チーム。

2021年06月15日、同チームの清川寛文研究員、森本充チームリーダー、生体モデル開発チームの阿部高也研究員らの研究チームは、胎児期マウスの気管上皮細胞で発現する遺伝子を1細胞レベルで解析し、未分化な気管上皮細胞の増殖を活性化する因子としてId2遺伝子を見いだしたことを発表した。Id2遺伝子の発現は発生のある段階で減弱し、それが上皮細胞の増殖低下と基底細胞の分化につながっており、成体マウスの気道上皮細胞の再生時にはId2遺伝子が再活性化し、基底細胞の増殖を促していた。これらのId2遺伝子の発現制御にはいずれも、間充織細胞から分泌される、形質転換増殖因子(transforming growth factor:TGF)βが関与していた。さらに、Id2遺伝子の過剰な発現は、前がん状態である基底細胞の過形成と関連していることも分かった([7])。


2022年08月18日、同チームの岸本圭史研究員、森本充チームリーダー、シンシナティ小児病院の岩澤堅太郎研究員、武部貴則准教授、アーロン・ゾーン教授らの国際共同研究チームは、ヒト幹細胞(胚性幹細胞/人工多能性幹細胞)から臓器固有の間充織細胞を誘導する詳細な手法を報告したことを発表した。

国際共同研究チームは、これまで、正常発生において呼吸器や消化管の臓器間充織が分化する仕組みを明らかにし、これらの過程をヒトES/iPS細胞を用いて再現することで、種々の臓器間充織細胞を作製してきた。本研究ではさらに、胃と食道の間充織細胞を区別して作製する手法を確立するとともに、これらの手法の詳細についてまとめ、ヒト幹細胞を扱う一定の経験があれば誰でも追試可能な手順書(プロトコール)として発表した([8])。

その一環として、ポスター「肺ができるまでの長い道のり・肺の細胞とそのはたらき」を用いて、肺の発生、ならびに、肺の細胞とその役割を解説した(図03.02)。

図03.02.ポスター「肺ができるまでの長い道のり・肺の細胞とそのはたらき」。

また、マウス線毛細胞を展示し(図03.03)、かつ、ポスター「臓器の成長過程を観察してみよう」で、マウス胎仔と呼吸器発生を図示した(図03.04)。

図03.03.マウス線毛細胞 72倍。
図03.04.ポスター「臓器の成長過程を観察してみよう」。

2023年07月20日、同チームの藤村 崇 客員研究員、森本 充 チームリーダー、および、細胞システム動態予測研究チームの城口 克之 チームリーダーらの研究チームは、上皮幹細胞の一種であるクラブ細胞を成体マウスの肺から取り出して1つ1つ撮影し、均一と思われたクラブ細胞の集団に外形上の個性(顔)と増殖能に違いがあることを発見したことを発表した。さらに、細胞ごとの「顔」とin vitroで増殖しやすい性質、遺伝子発現パターンを結びつける新しい手法「scMORN(Single-Cell Morphometrics, Organoid-forming assay, and RNA sequencing)法」の開発により、肺胞の再生に寄与する可能性のある新しい肺の上皮幹細胞を特定し、「MLクラブ細胞」と命名した。この細胞は、粘液の構成タンパク質の1つであるMuc5b(ムチン5B遺伝子)を特異的に発現し、大きい(Large)形態的特徴を持つ。MLクラブ細胞集団は正常な肺の再生に寄与する可能性がある一方、MLクラブ細胞の特徴であるMUC5Bタンパク質の過剰な産生は、肺疾患の1つである肺線維症との関連が指摘されている。マウスMLクラブ細胞の解析をさらに進めることで、肺線維症の基礎的理解や薬剤開発への発展が期待できる([9])。


2023年08月31日、榎本 泰典 同チーム 研究員(研究当時、現 客員研究員、浜松医科大学 再生・感染病理学講座 助教)、森本 充 同チーム リーダー、および、永野 達也 講師(神戸大学医学部附属病院 呼吸器内科)らの共同研究グループは、試験管内で実際の臓器によく似た3次元組織を作る培養技術を応用してヒトおよびマウスの肺胞オルガノイドを作製し、肺の線維化を再現することに成功したことを発表した。

線維化した肺胞オルガノイドの詳細な解析から、II型肺胞上皮細胞という肺胞上皮における組織幹細胞が肺線維症の発症に中心的役割を果たし、その細胞老化がきっかけとなって線維化誘導性の特殊な細胞状態へと変化することが分かった。線維化誘導性となったII型肺胞上皮細胞はTGFβという線維化誘導物質を周囲に分泌し、またTGFβの自身への作用がポジティブ フィードバックとなって、特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)特有の非炎症性の線維化を誘導していくことを突き止めた([10])。

その一環として、同チームは肺線維症誘導性マウス モデルの肺(図03.05)、ならびに、ポスター「肺の病気や再生を理解する実験モデル」(図03.06)と「ミニチュア臓器・オルガノイド」(図03.07)を展示した。

図03.05.肺線維症誘導性マウス モデル 肺 40倍。
図03.06.ポスター「肺の病気や再生を理解する実験モデル」。 
図03.07.ポスター「ミニチュア臓器・オルガノイド」。

本記事で、同チームによる肺に関する基礎研究を紹介できたことは、私にとっては非常に有意義なことである。

また、同チーム研究室訪問の順番待ちの間に配布された「肺の寿命の延ばしかた ~肺は今が一番元気!~」([11])から「元々嫌煙家とはいえ、煙草は決して吸わない」ことを改めて誓い、かつ、「ストップ! 肺炎 一般用冊子版」([12])から「接種可能なワクチンを確実に接種してもらう」ことを改めて誓った。

その意味では、私は同チームに感謝している。



参考文献

[1] 国立研究開発法人 理化学研究所 神戸事業所.“理化学研究所 一般公開 in 神戸 2023 ホームページ”.https://www.kobe.riken.jp/event/openhouse/23/#outline,(参照2024年02月12日).

[2] 国立研究開発法人 理化学研究所 神戸事業所.“いきいきいきもん”.理化学研究所 一般公開 in 神戸 2023 ホームページ.https://www.kobe.riken.jp/event/openhouse/23/bdr_ja.html,(参照2024年02月12日).

[3] 公益財団法人 神戸医療産業都市推進機構.“神戸医療産業都市(KBIC) 2023 一般公開 ホームページ”.https://www.fbri-kobe.org/kbic/ippankoukai/2023/,(参照2024年02月12日).

[4] 国立研究開発法人 理化学研究所.“生命機能科学研究センター 呼吸器形成研究チーム チームリーダー 森本 充(Ph.D.)”.理化学研究所 ホームページ.研究室紹介.生命機能科学研究センター.https://www.riken.jp/research/labs/bdr/lung_dev/,(参照2024年02月12日).

[5] 国立研究開発法人 理化学研究所 生命機能科学研究センター.“チームリーダー 森本 充 Ph.D. 呼吸器形成研究チーム”.理化学研究所 生命機能科学研究センター ホームページ.研究.研究室.https://www.bdr.riken.jp/ja/research/labs/morimoto-m/index.html,(参照2024年02月12日).

[6] 国立研究開発法人 理化学研究所 生命機能科学研究センター 呼吸器形成研究チーム.“RESEARCH”.呼吸器形成研究チーム ホームページ.https://lungdev.riken.jp/research.html,(参照2024年02月12日).

[7] 国立研究開発法人 理化学研究所.“マウス胎児の中に見つけた呼吸器再生のヒント -発生と再生に共通する気道組織幹細胞の増殖制御メカニズム-”.理化学研究所 ホームページ.研究成果(プレスリリース).研究成果(プレスリリース)2021.2021年06月15日.https://www.riken.jp/press/2021/20210615_1/index.html,(参照2024年02月12日).

[8] 国立研究開発法人 理化学研究所.“ES/iPS細胞からのヒト臓器の間充織細胞作製法 -正常な臓器形成の理解に基づく臓器細胞の作出-”.理化学研究所 ホームページ.研究成果(プレスリリース).研究成果(プレスリリース)2022.2022年08月18日.https://www.riken.jp/press/2022/20220818_1/index.html,(参照2024年02月12日).

[9] 国立研究開発法人 理化学研究所.“肺に存在する新たな幹細胞の発見-新開発の幹細胞同定法により、肺胞再生に寄与する細胞を同定-”.理化学研究所 ホームページ.研究成果(プレスリリース).研究成果(プレスリリース)2023.2023年07月20日.https://www.riken.jp/press/2023/20230720_1/index.html,(参照2024年02月12日).

[10] 国立研究開発法人 理化学研究所.“肺線維症発症の中心的機構を発見 -特発性肺線維症の治療へ光-”.理化学研究所 ホームページ.研究成果(プレスリリース).研究成果(プレスリリース)2023.2023年08月31日.https://www.riken.jp/press/2023/20230831_4/index.html,(参照2024年02月12日).

[11] 一般社団法人 日本呼吸器学会.“肺の寿命の延ばしかた ~肺は今が一番元気!~”.日本呼吸器学会 トップページ.市民のみなさまへ.出版物.https://www.jrs.or.jp/file/hainojumyo.pdf,(参照2024年02月12日).

[12] 一般社団法人 日本呼吸器学会.“一般用WEB版(7MB)”.日本呼吸器学会 トップページ.活動・取り組み.教育・研究.出版物.ストップ!肺炎.https://www.jrs.or.jp/activities/guidelines/file/stop_pneumonia2024.pdf,(参照2024年02月12日).

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