ゲノム編集ってなんだろう:理化学研究所 大阪地区 一般公開2019から学んだこと その04

PDF版は「ゲノム編集ってなんだろう」を参照。

2019年11月23日、私は理化学研究所 大阪地区(以下大阪地区)を訪れ、一般客として理化学研究所大阪地区一般公開2019(以下同一般公開)に参加した([1])。

「22.ゲノム編集ってなんだろう」(図01)で、生命機能科学研究センター(以下同センター)高速ゲノム変異マウス作製研究チーム(以下同チーム,[2][3])はゲノム編集([4][5])とゲノム編集マウスの作り方([6])、ならびに、トリプルCRISPR(クリスパー)法を用いるノックアウト マウスの作製([7])とREM(rapid eye movement:急速眼球運動)睡眠がないマウスの作製の成功(その結果、アセチルコリンの受容体遺伝子Chrm1とChrm3が睡眠量の制御に重要な働きをしていることが明らかになった,[8][9])を発表した。

(a)「そもそも、ゲノムってなんですか?」、「ゲノム編集とは?今までの遺伝子組換えとの違いは?」、および、「ゲノム編集マウスの作り方(実験方法)」。
(b)「ゲノム編集で遺伝子を完全にノックアウトする方法」と「応用の例:REM睡眠がなくなったマウスができた!」。
図01.「22.ゲノム編集ってなんだろう」。

なお、理化学研究所によるゲノム編集関連研究を以下に示す。


1.国立研究開発法人 理化学研究所.“冠動脈疾患の遺伝的リスクを体系的に解明-国際コンソーシアムによる100万人規模のゲノム解析-”.理化学研究所 ホームページ.研究成果(プレスリリース).研究成果(プレスリリース)2022.2022年12月14日.https://www.riken.jp/press/2022/20221214_3/index.html,(参照2023年01月29日).

ヨーロッパ人、日本人症例100万人以上を対象にゲノムワイド関連解析が実施され、疾患感受性座位が新たに同定された。これらの座位の統合的解析により、冠動脈疾患発症機序への初期発生プロセス、細胞周期シグナル、血管細胞の移動と増殖の関与を明らかになった。また、新規同定座位の1つがMYO9B遺伝子のエンハンサー活性の変化を通じて血管細胞の運動性を調節し、冠動脈疾患リスクを媒介することが、CRISPR-Cas9を用いた実験で示された。これらの解析により、250以上の冠動脈疾患の疾患感受性座位が同定され、系統的に特徴付けられた。


2.国立研究開発法人 理化学研究所.“患者由来iPS細胞の肝臓難病モデル-ウィルソン病の治療薬候補を探索-”.理化学研究所 ホームページ.研究成果(プレスリリース).研究成果(プレスリリース)2022.2022年09月21日.https://www.riken.jp/press/2022/20220921_1/index.html,(参照2023年01月29日).

患者から樹立したiPS細胞(induced pluripotent stem cells:人工多能性幹細胞)を肝細胞に分化させることで、ウィルソン病の病態が培養皿中で再現された。さらに、ゲノム編集を用いて、ATP7B遺伝子の変異を正常な配列へと修正したり、逆にATP7B遺伝子を変異させたりすることで、ATP7B遺伝子の詳細な機能解析が可能になった。これらのiPS細胞に由来する肝細胞において、レチノイドがウィルソン病の症状を抑制することも分かった。


また、ゲノム編集を知るために必須な文献やサイトを以下に示す。

 

1.ジェニファー・ダウドナ 著,サミュエル・スターンバーグ 著,櫻井祐子 翻訳,須田桃子 解説.CRISPR(クリスパー)究極の遺伝子編集技術の発見.第1刷,株式会社 文藝春秋,2017年10月05日,336 p.

画期的遺伝子編集技術であるCRISPR-Cas9が遺伝子編集技術の歴史を大きく変えたことがよくわかる。

 

2.山本卓 著.ゲノム編集とはなにか:「DNAのハサミ」クリスパーで生命科学はどう変わるのか.第1刷,株式会社 講談社,2020年08月20日,240 p,(ブルーバックス).

本著はゲノム編集技術を知るために有用な初学者向けの良書である。


3.学校法人 名城大学.“特集 What's ゲノム編集?”.名城大学 ホームページ.研究.https://www.meijo-u.ac.jp/sp/meijoresearch/feature/01.html,(参照2023年01月28日).

本ページはゲノム編集に関して、特に、交配や遺伝子組み換えとの違いに関して、簡潔に纏めている。


4.最新育種ネットワーク.“バイオステーション ホームページ”.https://bio-sta.jp/,(参照2023年01月28日).

本サイトはゲノム編集、および、ゲノム編集農作物・食品の研究開発を知るためには有用なサイトである。


5.コスモ・バイオ株式会社.“【第21回】ゲノム編集 ~近未来の医療は、ゲノム編集技術によって大きく変わる?!~”.コスモ・バイオ ホームページ.IR情報.ライフ サイエンスの世界.https://www.cosmobio.com/jp/ir/world/rpt2020-38-4q-genome-editing.html,(参照2023年01月28日).

本ページはゲノム編集技術を使った遺伝子治療に関して簡潔に言及している。


私はゲノム編集技術が人類の生活にどのような影響をもたらすのかを見届ける所存である。



参考文献

[1] 国立研究開発法人 理化学研究所 大阪地区.“大阪地区一般公開2019 開催報告”.理化学研究所 大阪地区 ホームページ.お知らせ.2019年12月25日.https://osaka.riken.jp/open2019/report.html,(参照2023年01月23日).

[2] 国立研究開発法人 理化学研究所 生命機能科学研究センター.“チームリーダー 隅山健太 Ph.D. 高速ゲノム変異マウス作製研究チーム”.理化学研究所 生命機能科学研究センター ホームページ.研究.研究室.https://www.bdr.riken.jp/ja/research/labs/sumiyama-k/index.html,(参照2023年01月28日).

[3] 国立研究開発法人 理化学研究所 生命機能科学研究センター.“隅山健太 Kenta Sumiyama”.理化学研究所 生命機能科学研究センター ホームページ.研究.研究室.チームリーダー 隅山 健太 Ph.D. 高速ゲノム変異マウス作製研究チーム.https://sites.google.com/site/kentasumiyama/home-rikenqbicstudies,(参照2023年01月28日).

[4] 国立研究開発法人 産業技術総合研究所.“ゲノム編集とは?”.産総研マガジン ホームページ.話題の〇〇を解説.2022年08月24日.https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20220824.html,(参照2023年01月28日).

[5] メルク株式会社.“CRISPR-Cas9とは?原理をわかりやすく解説!”.M-hub トップページ.生物学.2021年11月19日.https://m-hub.jp/biology/4829/332,(参照2023年01月28日).

[6] 国立大学法人 群馬大学 生体調節研究所.“条件付きノックアウト マウスを短期間で作製する技術の開発”.群馬大学 生体調節研究所 ホームページ.研究成果.ゲノム科学リソース分野.2017年08月11日.https://www.imcr.gunma-u.ac.jp/?research_result=%E6%9D%A1%E4%BB%B6%E4%BB%98%E3%81%8D%E3%83%8E%E3%83%83%E3%82%AF%E3%82%A2%E3%82%A6%E3%83%88%E3%83%9E%E3%82%A6%E3%82%B9%E3%82%92%E7%9F%AD%E6%9C%9F%E9%96%93%E3%81%A7%E4%BD%9C%E8%A3%BD%E3%81%99%E3%82%8B,(参照2023年01月28日).

[7] 国立研究開発法人 科学技術振興機構.“効率アップ! 次世代のマウス実験”.researchmap ホームページ.研究者をさがす.田邉 彰.社会貢献活動.2019年07月26日.https://researchmap.jp/Akira.Tanave/social_contribution/27913285,(参照2023年01月28日).

[8] 国立研究開発法人 理化学研究所.“レム睡眠に必須な遺伝子を発見-睡眠はどこまで削れるか-”.理化学研究所 ホームページ.研究成果(プレスリリース).研究成果(プレスリリース)2018.2018年08月29日.https://www.riken.jp/press/2018/20180829_1/,(参照2023年01月28日).

[9] 国立研究開発法人 理化学研究所 生命機能科学研究センター.“レム睡眠を引き起こす2つの遺伝子”.理化学研究所 生命機能科学研究センター ホームページ.ニュース.研究成果.研究成果 - 2018.2018年10月16日.https://www.bdr.riken.jp/ja/news/research-news/2018/research008.html,(参照2023年01月28日).

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