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Dear Mr.Songwriter Vol.14

佐野元春with The Heartland  
Café Bohemia  Part.2

Café Bohemia
Written ,Arranged & Produced by 佐野元春
Recorded by 阿部保弘 吉野金次(Young Bloods)
Re-Mixed by Alan Winstanley 
John'Tokes'Potoker(99Blues Individualists)  
Steven Stanley(Christmas Time In Blue) 

今回のアルバムのすべての曲に託したのは、いわゆるインディビジュアリティ"個"なんだ。
GB 1987年1月号


 『Café Bohemia』は1986年12月1日にリリースされる。オリジナルアルバムとしては5枚目。ザ•ハートランド名義では初のアルバムとなります。オリコンチャートは初登場2位。ユーミンの『Alarm à la mode』が同年の11月29日にリリースされており、1位は取れなかったんだよね。惜しかった!

 アルバムジャケットはロンドンにて撮影。ロンドン在住のカメラマンのトシ矢嶋によるフォト。シャーデーの『ダイアモンド•ライフ』のようなデザインは駿東宏によるもの。上の濃紺の部分はザラザラした感触の紙質、下のフォト部分は光沢のある紙質というこだわりの仕上がりになっている。

 腕時計は確かお爺様のものだったと記憶してるけど、どうだったかな。シャツはトシ矢嶋さんからお借りしたものだそう。※トシ矢嶋 ロンドンラプソディー

 少しブルーがかったブラック&ホワイトのフォトから肘をついて見つめている先は何が見えていたのだろうか。

大理石をモチーフにした裏ジャケット
アルバムクレジットとハートランドのメンバー写真

 歌詞が載っているレコードを入れる袋の裏には魚とペイズリー柄のデザインが引き詰められている。裏地をあえて派手にするのは、江戸っ子気質だからって何かで読んだけど、これにも通じているのかも。

インナー内側の模様

 歌詞も言葉の間にスラッシュを入れる工夫もしてある。GREAT 3のデビューアルバム『Richmond High』にも同じスラッシュを入れてあって、片寄さんは、きっとこれを見てやりたかったのかなぁ、なんて思ってます。持ってる方は見てみてください。

アルバムに同封してあるカード。
レコードのみナンバリングがつけられている。

 このアルバムは、ソウル、R&B 色が強くザ•ハートランドの名前に〈A Young Soul Ensemble〉という言葉が足されることに。

 今までの編成では、管楽器がサックスだけだったのを、トランペット、トロンボーンを入れて3管になり、THE TOKYO BE-BOPというホーン•セクションを結成する。 (VISITORS TOURから)そして2台のキーボードの絡み、それにより、豊かなアンサンブルを組むことができる理想のバンドの形態ができあがった。
 
 ギタリストに関しては横内タケが4月に脱退したこともあり元春がギタリストとして活躍しているアルバムでもある。曲によって例外はあるけどね。

『カフェ•ボヘミア』は僕流のソウル•ミュージックへの愛情を具現化したアルバムだった。時を同じくして、当時UKでは全く同じ傾向で、60、70年代のソウル•ミュージックの再評価もいう動きがあった。そこで、僕はUKのプロデューサー•エンジニアであるアラン•ウィンスタンレーにコンタクトを取って『カフェ•ボヘミア』の監修とサウンド•ミックスを依頼した。そしてこのアルバムのトーン&マナーが決まっていった。サウンド•ミックス、マスタリングもUKで行いました。

The Essential Café Bohemia /Notes

アラン•ウィンスタンレー

 英国のレコーディング•プロデューサー。マッドネスの一連の作品(ホンダ シティのCMで日本ではお茶の間に進出しましたね。)や、デキシーズ•ミッドナイト•ランナーズ(カモン•アイリーンが有名かな。)や、エルヴィス•コステロの『パンチ•ザ•クロック』と『グッバイ•クルーエル•ワールド』などをクライヴ•ランガーとのコンビで数多くの作品を手がけている。

1.Café Bohemia (Introduction)

 ここはカフェ•ボヘミア。チャーリー•パーカーの「April In Paris」が流れていて、これから、ハートランドの演奏が始まるのを待っている。
 
 ちなみにこのガヤは元春自身がマイクを持って、六本木にあったピットインというライブハウスで録音したもの。

2.冒険者たち Wild Hearts  M59

 東京マンスリーライブ、5月の第3回目に「事情」という仮タイトルで初披露され、9月にシングルとして発売される。

WILD HEARTS 1986.9.21
Art Direction & Design 駿東宏
オリコンチャー最高位7位
Photo 村越元

 2ヶ月おきに連続してリリースになった「奇妙な日々」「夏草の誘い」とこの曲のシングルレコードは東京で阿部保弘によるミックス。アルバム•ヴァージョンはロンドンでアラン•ウィンスタンレーがリミックスを担当している。  
 
 レコーディング前に、シャルル•ボードレールの詩集を読み返しインスパイアされた詩の世界。
 "誰かがどこかで眠れぬ夜明けを見つめている/誰もが心に見知らぬ夜明けを抱えている"

ー ひとつ残念に思った点があります。それは"誰もが心に見知らぬ夜明けを抱えている/ヘイヘイヘイ"という詩のフレーズなんです。
 たとえば八十二年に書いた〈ロックンロール•ナイト〉で、あそこまで夜を追い込んだあなたが"ヘイヘイヘイ"という気ラクさはないだろうと思いましたよ。
 S (笑)きっと〈ワイルド•ハーツ〉の言語表現には、僕の中にもある種のてらいがあったんだろうね。現実生活で、"誰かがどこかで眠れぬ夜明けを見つめている"それから"見知らぬ夜明けを抱えている"というイメージは、ものすごくヘヴィーな心情だと思うんです。どうしようもない現実から抜き差しならない状況に陥った断末魔の叫びとして、あの言葉を採用した。でもなんて大袈裟なことを僕はいってしまったんだろう、と少し後悔してそのてらいがあるから、きっと"ヘイヘイヘイ"でくくらなければならなかったんだろうね。
ー 曲のムードを深刻なものにしたくなかったということですか。
S  うん、したくなかった。それは何だろう、僕の美学としかいいようがないし、とても個人的な事情も含んでいるので、うまく説明できなくて申し訳ないんだけど。
ー  曲を書いた時の心理状態は、その曲の中に反映してしまうわけですね。
S  もちろんそうです。
ー  その時の状況を少し話してもらえますか。
S  僕も辛いときだっんだ。エムズファクトリーを作ったばかりで、自分の独立性といものをあからさまに主張するとね、それに対しての批判だとか、生意気だと解釈する人達もやっぱり出てくるんだな。そんなことをよくわからさせられた時期だったんです。
 それと同時に、僕はあの頃三〇才になっていて、同じ世代の友達を見てると、そろそろ社会の中での自分の役割を決定しはじめいくのがわかった。ミュージシャンではない人達の中でね。それを見てると、どうしても僕は精神的に不安定になってしまう。自分を励ます意味もあって、僕なりのブルースを書いてみたんだ。
ー  しかもそんなに深刻じゃないブルースを、ですね。
S  うん。ヘイヘイヘイといういい方は、いわゆる"ノン•シャラン"の記号だから。ジョン•レノンだったらきっと"イッツ•オールライト!エブリシング•ゴナビー•オールライト!と叫ぶだろうあの感じ。フランス語でいえば、"セ•ラ•ヴィ"だし、江戸弁でいえば、"なるがままよ"

Mr.Outside わたしがロックをえがく時 長谷川博一

 アルバムの一曲目にふさわしい疾走感にあふれた楽曲。語るようなボーカル。そして、ブラスセクションがソウル•ミュージック色を演出してます。

 "土曜の午後/仕事で車を走らせていた"というリリック。夜を謳歌していた主人公は少し大人になっていて、仕事を持っている。周りの仲間を見ると、もう今までとは違うようだ。「ロックンロール•ナイト」で描かれた青春群像から時は流れてしまった。ふとカーラジオからThe Whoの「Summertime Blues」が流れてきた。いつか自由になれる日を夢みて。

 この曲のMVはブルーグレーのトーンで進んでいくとてもカッコいい映像なんだけど、演奏中に、メンバーの横を歩いていく犬も登場する。マリリンという名前のダルメシアン。撮影は苦労したみたいだけど、可愛いよね。

3.夏草の誘い Season in the Sun  M60

 この楽曲も東京マンスリーライブにおいて「ワイルド•ハーツ」と同様に6月の第3回目に初披露されています。

SEASON IN THE SUN 1986.7.21
Art Direction & Design 駿東宏
オリコンチャー最高位9位
PHOTO 村越元

 一回は書いてみたかったという自然を題材にした楽曲。若者が持つある種の理想主義を擁護をして、なおかつ、柔らかなプロテストを表現したという。
 
 エヴリシング•バット•ザ•ガールをイメージしていたというUKのネオ•アコースティックな音楽に呼応されて作られた。ROMY(石川ひろみ)のコーラスがとても優しくて、だけれども力強く心地よく響く。後にブルーベルズに繋がっていきますね。
 
 中盤の乾いたストラトキャスターのギターソロは元春が弾いています。味があって大好き。

 ちなみにTUBEも同時期(1986.4.21)に偶然にも同名の「シーズン•イン•ザ•サン」という曲がありました。

4.カフェ•ボヘミアのテーマ Café Bohemia  M61

 UKのアシッドジャズに繋がっていくようなクールでカッコいいジャズ•インスト•ナンバー。ここでは元春がピアノ、明さんがオルガン。ピアノ担当の阿部ちゃんがギターという変則的な編成になってます。

5.奇妙な日々 Strange Days  M62

 記念すべきM's Factoryレーベル第1弾シングル。アルバム•ヴァージョンとは最初のイントロのギターから違うので聴き比べも面白いかも。
 
 アルバム•アーティストという言葉に反発するような形で2ヶ月おきに3枚シングルをリリースするという試みも自らのレーベルとしてのアティテュードなのだろう。

STRANGE DAYS 1986.5.21
Art Direction & Design 駿東宏
オリコンチャート最高位5位
SELF PORTRAITS 1986 SPRING

 有名な話だと、"僕のいとこの4歳になる男の子が一緒にテレビのニュースを観終わって言った言葉「ヘンな時代だね」"という会話からインスパイアされたという。当時の状況はどんな感じだったのだろう。

86年というのは、ある時代の転換期であったように思う。その後ヨーロッパで古いイデオロギーと新しいイデオロギーが拮抗して景色がガラッと変わる。そんな変動の時を迎えようとしていた。中国もそうだった。でもなぜか日本はエアポケットに入ったように高度成長経済の中にいた。のちにメディアが言うバブル経済の入り口にいた。誰もがスーサイド•ハネムーンに浮かれたがっていた。僕は80年代のこの頃を思い出すときに、いつも奇妙な感覚がつきまとう。さまざまな歪みが露呈し、それまで調和していたものが微妙にズレていった年。何かが終わり何かが始まった年。新しく個人レーベルをスタートするにあたってこの曲は、個人的な闘争の始まりでもあった。

佐野元春シングル•コレクション ライナーノーツ

 "あの光の向こうにつきぬけたい/闇の向こうにつきぬけたい"というブレイク•スルーをテーマにしたヘビーなリリックとは反対にサウンドに耳を傾けてみると、元春が弾くオベーションのエレアコ、クールなオルガンと弾けるピアノ。それにTHE TOKYO BE-BOPのホーン•セクションが加わり、パワフルでポップなアンサンブルが聴ける。ギターには幻のハートランドのメンバー、パール兄弟の窪田晴男が参加している。

ー これは「何でつきぬけられないんだぁ!」って唄ってるよね。
 「うん、そういうことだね。でも、それが当時の僕の現実認識だった。で、1枚目から3枚目というのは言ってみればストーリーテリング、物語だよね。それは僕が暮らしてるこの東京の中のおとぎ話かもしれないし、あるいはちょっとした寓話かもしれないし、ちょっとしたファンタジーを含んだものだった。それが『ヴィジターズ』以降僕の中からファンタジーという幻想が一つ一つ皮を剥ぐようになくなっていった。そこから出てきた一群の音楽というのが「カフェ•ボヘミア』あたりに収められている"99ブルース"であり、"インディビジュアリスト"であり、この"ストレンジ•デイズ"にしても然りね」

季刊 渋谷陽一 BRIDGE 佐野元春の10曲

6.月と専制君主 Sidewalk Talk  M63

 この曲のパンチラインはやはり、"言葉に税はかからない"だろう。

《言葉に税はかからない》は最高のフレーズ?そうだね。僕が編み出した中でも最高のラインだと思う。少し大袈裟な話になるから笑ってもらってもいいよ。パリでこのラインが浮かんだ時、アルチュール•ランボーのスピリットだな、と思った。僕はランボーの訳詞を好んで読んでいたから。パリを歩きながらラインを紡ぐと、ランボーのゴーストが僕に乗り移ったりする。

別冊カドカワ 総力特集 佐野元春 2010年
この曲の元になっている詩
〈Sidewalk Talk  散歩しよう、大通りに沿って〉
THIS No.3に掲載された。

目に見えない専制君主を指差して、柔らかな抗議をしている曲。リリックの中ですごく好きなのは《川は流れ すべてはくり返す》という気付きです。《君は君 かけがえなく》という、この気付き。そして大好きな君と歩いていこうという決意。それがこの楽曲のすべてを物語っている。

別冊カドカワ 総力特集 佐野元春 2010年

 この楽曲は、聴けば聴くほど、不思議な曲なんだよね。シンセのフレーズは東洋的でもあるし、だけれどもUKの匂いもするし、パリの風景も思い浮かべちゃうな。

ここで、今回は終わりです。
最後まで読んでくれてありがとうございました。
次回はB面から初めます。
では、また!

#佐野元春




 





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