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Dear Mr.Songwriter Vol.12

佐野元春 ELECTRIC GARDEN

ELECTRIC GARDEN 1985.5
 MOTOHARU SANO
Art Direction by Koichi Yoshida
ELECTRIC GARDEN 裏表紙


今回は電気的な庭。カセットブック『エレクトリック•ガーデン』です。

この音楽を奏でながら詩を朗読するというスタイル、それに合わせて作ったアート作品。これはどのようなアイデアから来たんだろうか。そこには、1984年に冬樹社から発行されたカセットブックシリーズSEEDの存在があった。

細野晴臣『花と水』井上鑑『カルサヴィーナ』ムーンライダーズ『マニア•マニエラ』等がヒントになり自分のスタイルで発表したいという気持ちが生まれる。それ以前にインディーズのバンドらが作っていたカセットとパンフレットをつけたものなんかにも感銘を受けたと語っています。

そしてこの『エレクトリック•ガーデン』は自分の作品というよりも、ここに集まってくれたフォトグラファーやペインターや、何人ものアーティストたちとのコラボレーションだという。2024年の現在は音源は聴けるけど、他のアート作品は改めて見る機会がないのは残念ですね。

帯に書いてある文章を読んでみると、《電子時代のストリート•キッズのための新曲、「リアルな現実 本気の現実」他、最新録音7曲入りカセット➕2冊のスーパー•ビジュアルブック》アート•ディレクション 吉田康一 との記載があります。出版社は小学館でGORO特別編集として書籍として書店に並びました。

自分は気づいた頃には書店では手に入らずに、発売から5年後くらいに、ふらっと入った東京都府中市のポポロっていう中古レコード屋さん(もう閉店してますが)で発見して興奮して即買いしましたよ。

LARGE BOOK
SMALL BOOK
CASSETTE

まず、ELECTRIC GARDEN Ⅰ   VERBALと書かれた143ページの大きめの書籍には、ジャケットにもなっているマーク•コスタビ、マーク•バイヤーのアート作品。有田泰而の撮影による元春の写真、「ヴァニティ•ファクトリー パート1」となっている詩集、「コンプリケイション•シェイクダウン」のMVを撮ったジョン•サンボーンのインタビュー、写真は三浦憲治。
森川昇、北田哲哉、牧野良幸(クリスマスタイム•イン•ブルーのアートの人ね)のアート作品、岩岡吾郎によるライヴ写真、そして元春に聞く120のクエスチョン、という盛りだくさんの内容になっています。

ARTISTS' PROFILE
120 QUESTIONS

その120のクエスチョンの中からとても興味深いアンサーがあるので引用させてください。

Question 106
あなたはなぜ、文章ではなく、詩で自分を表現しようと思うのですか?
A ボクは、自分の伝えたいことを詩や音楽に託して表現しているわけではないんです。基本的には、ボクはただ自分のために作品を作り続けているだけです。このカセットブックのポエム•リーディングを聴いて、とてもセクシャルな気持ちになってくれた人がいるとします。あるいは力強い気分になってくれる人がいるかもしれません。その気持ちが大事なんです。詩を聴いて、ある類似体験をした後、その体験を自分のものとして口ずさむなり、もう一度活用したとき、はじめて詩の持っているパワーが発揮されるのだと思います。佐野元春のメッセージはこれこうだ、というのではなく、ただ自分なりに活用すればいいんです。
 いままでなぜ、みんながそのように詩を活用しなかったといえば、それは単に詩を活用することに慣れてなかっただけだと思います。詩人たちが『ユリイカ』とか『現代詩手帖』という狭い檻の中に閉じこもっていたから、13、14、15歳の男のコや女のコたちが、詩を活用することを覚えなかった。
 詩というのは、チンマリと教科書の中に収まっているものではない。ボクは、教科書にのっている詩を、詩だと、思ってません。あれは、詩が形骸化し、そのポエティックなパワーを失ってしまった後の、残り火のようなものだと思います。教科書や美術館に収められたとたんに、形骸化されてしまう••••••、詩とはそういうものなのです。あれは、誰かがフェンスを作り、詩を隔離してしまった姿です。そういうことをするのは、ほんとうは詩に対して、最も失礼なことなのですけれど••••••。
 詩は、日常的に誰もが活用できる道具なんです。それは、メンタルな遊び道具であり、またときには、ボクらの教材でもあります。どんどん街路にひっぱり出して活用すべきです。その時代のひとりひとりの読者が自分の状態に合わせて活用するとき、詩はそのパワーを発揮します。だから、再活用できる詩こそがすぐれた詩だとボクは思います。
 だから、詩にひとつの解釈というのはない。これは、ポップ•ミュージックと同じです。ある歌を、反戦歌だと思う人もいれば、ただ恋人のことを歌っただけと思う人もいる。どちらでもいいんです。
 ボクにとっての詩とは、ボクの落書きだと思っています。詩は、街路に書かれた落書き、あの"FUCK"といつ落書き以上にパワフルな詩はない、と、ボクは思っています。

『言葉を路上に引っぱりだそう』アルチュール•ランボウのこの言葉があったという。そこに音楽をつけてみたらどうなんだろう。そんな好奇心から始まったポエトリー•リーディング。この先に様々なかたちで届けられることになる。

The Story of Will & May
BROADWAY CHERRIES MARKET
 Illustration:Tetsuya Kitada
Story:Motoharu Sano

そしてELECTRIC GARDEN Ⅱ  VISUALと書いてある少し小さめの本には、吉田康一のアート作品、岩岡吾郎によるニューヨークでのおよそ70ページに及ぶ写真。光と影のせめぎ合いを感じたというセントカセドラル教会の写真もあります。
そして「リアルな現実 本気の現実」が入っている『ブロードウェイ•チェリーズ•マーケット』という詩を掲載。Part Ⅰ PartⅡとなっているのは、この中での詩を抜粋しているからこのような表記になってます。

Illusratation by Tetsuya Kitada

そして、ELECTRIC GARDEN Ⅲ と書かれたカセットです。A面に4曲、B面に3曲収録されています。

ELECTRIC GARDEN Ⅲ
CASSETTE

アルバム《ヴィジターズ》でぼくは、日本語の持っているビート感というものを強く前面に押し出して、たとえば〈コンプリケイション•シェイクダウン〉や〈カム•シャイニング〉のように、無理矢理にでも、ある意味をもたせながら、日本語をそのビートの上にのせていって、ときどき変なところにアクセントをのせながらうたいましたけれども、今度、ぼくが試してみたかったのは、ぼくらが普段話しているなめらかな日本語を、デジタルなビートに合わせて普通に喋っているような感じでやったらどうなるのか、ということだったんです。例えば8ビートでも16ビートでも、リズム•ボックスを使えば正確無比なビートが刻まれるわけですが、ぼくはそうしたデジタル•ビート•マシーンに、4拍子とか8拍子といった安定したビートではなく、7/4といった不安定な拍子を延々と刻ませたら、いったいそこにどういう情感が生まれるんだろう、といったこたを試してみたかったんです。ですから、この中に収められているものの多くは、そうした変則拍子が使われています。ただ、若い人が聞いて、気分が悪くなるようなものではいけない。できるだけ違和感なく聞けるような、変則拍子にしたい。その点に一番神経を使いました。

宝島 1985年 インタヴュア 山本 智志

1.リアルな現実 本気の現実 M52

リアルな現実 本気の現実
Short Edited Version 1985.6.21
オリコンチャート最高位40位

シングル用に短く編集した7インチシングル。朝日新聞のCMにも使われたみたいですね。前はYoutubeで見れたんだけど、見つかりませんでした。
このカセットのヴァージョンは8分越えのウィルのメイの物語。
ウィルは元春に似た誰かなんだろう。"ピンボケ"や( 目が悪い?)"シャツを手に入れて気にいるとそればかり着ている"や"ナンバーワンのひとりぼっち"など連想するワードが機械的に施された変則的なビートに乗せて次々と飛び出してくる。ここでのパンチラインは"ウィルがわからない奴もいる 彼らは自分を「完璧」だという" このラインは#2での「完全な製品」に繋がっているように思えてきます。

2.52nd Ave.  M53

このパズルを解くような詩はそれぞれのヴァースをバラバラにして読んでいくとなんとなく、つかめてくる。"僕はこの街で 失業している"

3.夜を散らかして  M54

深い森の中にいるような、神秘的な空間。それが一転して、海の中に放り込まれたような既視感。ここは何処なのか。太陽が照らしている。

4.Sleep  M55

眠る。少年の頃から十代の潜水生活を経て大人に。成長するってどんな事? そしてビッグ•アップルでは穏やかに眠れたのだろうか。

5.再び路上で M56

時はハチミツ Time is Honey は、Time is Moneyにかけたユーモアなのだろう。特にビート詩人を感じる。スピード、ボンネット、そしてガソリンくさい天使たちは小さな反抗を試みる。

6.N.Y.C.1983〜1984  M57

ここに出てくるのは、象徴と言ってもいい"川"重たいうねりの先に待っているのは何なのか。

7.Dovanna  M58

とても美しく、それでいて怠惰で、そして光を感じてる。触れたいけど、触れられない、そんなイメージ。
今でもたまに口ずさんでみたりします。
この中で一番好きかもしれません。

詩というものをアンダーグラウンドから引きずり出し、メインストリームに挑んだこの試みはどれだけの人に影響を与えたのだろう。もし何か抵抗があって何処かに忘れていたのならば、今もう一度触れてみると何かが見つかるかもしれない。

今回はこれで終わりです。最後まで読んでいただきありがとうございます。♡とコメントは随時受け付けてます。
ではまた次回!
#佐野元春
#音楽

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