Dear Mr.Songwriter Vol.12
佐野元春 ELECTRIC GARDEN
今回は電気的な庭。カセットブック『エレクトリック•ガーデン』です。
この音楽を奏でながら詩を朗読するというスタイル、それに合わせて作ったアート作品。これはどのようなアイデアから来たんだろうか。そこには、1984年に冬樹社から発行されたカセットブックシリーズSEEDの存在があった。
細野晴臣『花と水』井上鑑『カルサヴィーナ』ムーンライダーズ『マニア•マニエラ』等がヒントになり自分のスタイルで発表したいという気持ちが生まれる。それ以前にインディーズのバンドらが作っていたカセットとパンフレットをつけたものなんかにも感銘を受けたと語っています。
そしてこの『エレクトリック•ガーデン』は自分の作品というよりも、ここに集まってくれたフォトグラファーやペインターや、何人ものアーティストたちとのコラボレーションだという。2024年の現在は音源は聴けるけど、他のアート作品は改めて見る機会がないのは残念ですね。
帯に書いてある文章を読んでみると、《電子時代のストリート•キッズのための新曲、「リアルな現実 本気の現実」他、最新録音7曲入りカセット➕2冊のスーパー•ビジュアルブック》アート•ディレクション 吉田康一 との記載があります。出版社は小学館でGORO特別編集として書籍として書店に並びました。
自分は気づいた頃には書店では手に入らずに、発売から5年後くらいに、ふらっと入った東京都府中市のポポロっていう中古レコード屋さん(もう閉店してますが)で発見して興奮して即買いしましたよ。
まず、ELECTRIC GARDEN Ⅰ VERBALと書かれた143ページの大きめの書籍には、ジャケットにもなっているマーク•コスタビ、マーク•バイヤーのアート作品。有田泰而の撮影による元春の写真、「ヴァニティ•ファクトリー パート1」となっている詩集、「コンプリケイション•シェイクダウン」のMVを撮ったジョン•サンボーンのインタビュー、写真は三浦憲治。
森川昇、北田哲哉、牧野良幸(クリスマスタイム•イン•ブルーのアートの人ね)のアート作品、岩岡吾郎によるライヴ写真、そして元春に聞く120のクエスチョン、という盛りだくさんの内容になっています。
その120のクエスチョンの中からとても興味深いアンサーがあるので引用させてください。
『言葉を路上に引っぱりだそう』アルチュール•ランボウのこの言葉があったという。そこに音楽をつけてみたらどうなんだろう。そんな好奇心から始まったポエトリー•リーディング。この先に様々なかたちで届けられることになる。
そしてELECTRIC GARDEN Ⅱ VISUALと書いてある少し小さめの本には、吉田康一のアート作品、岩岡吾郎によるニューヨークでのおよそ70ページに及ぶ写真。光と影のせめぎ合いを感じたというセントカセドラル教会の写真もあります。
そして「リアルな現実 本気の現実」が入っている『ブロードウェイ•チェリーズ•マーケット』という詩を掲載。Part Ⅰ PartⅡとなっているのは、この中での詩を抜粋しているからこのような表記になってます。
そして、ELECTRIC GARDEN Ⅲ と書かれたカセットです。A面に4曲、B面に3曲収録されています。
1.リアルな現実 本気の現実 M52
シングル用に短く編集した7インチシングル。朝日新聞のCMにも使われたみたいですね。前はYoutubeで見れたんだけど、見つかりませんでした。
このカセットのヴァージョンは8分越えのウィルのメイの物語。
ウィルは元春に似た誰かなんだろう。"ピンボケ"や( 目が悪い?)"シャツを手に入れて気にいるとそればかり着ている"や"ナンバーワンのひとりぼっち"など連想するワードが機械的に施された変則的なビートに乗せて次々と飛び出してくる。ここでのパンチラインは"ウィルがわからない奴もいる 彼らは自分を「完璧」だという" このラインは#2での「完全な製品」に繋がっているように思えてきます。
2.52nd Ave. M53
このパズルを解くような詩はそれぞれのヴァースをバラバラにして読んでいくとなんとなく、つかめてくる。"僕はこの街で 失業している"
3.夜を散らかして M54
深い森の中にいるような、神秘的な空間。それが一転して、海の中に放り込まれたような既視感。ここは何処なのか。太陽が照らしている。
4.Sleep M55
眠る。少年の頃から十代の潜水生活を経て大人に。成長するってどんな事? そしてビッグ•アップルでは穏やかに眠れたのだろうか。
5.再び路上で M56
時はハチミツ Time is Honey は、Time is Moneyにかけたユーモアなのだろう。特にビート詩人を感じる。スピード、ボンネット、そしてガソリンくさい天使たちは小さな反抗を試みる。
6.N.Y.C.1983〜1984 M57
ここに出てくるのは、象徴と言ってもいい"川"重たいうねりの先に待っているのは何なのか。
7.Dovanna M58
とても美しく、それでいて怠惰で、そして光を感じてる。触れたいけど、触れられない、そんなイメージ。
今でもたまに口ずさんでみたりします。
この中で一番好きかもしれません。
詩というものをアンダーグラウンドから引きずり出し、メインストリームに挑んだこの試みはどれだけの人に影響を与えたのだろう。もし何か抵抗があって何処かに忘れていたのならば、今もう一度触れてみると何かが見つかるかもしれない。
今回はこれで終わりです。最後まで読んでいただきありがとうございます。♡とコメントは随時受け付けてます。
ではまた次回!
#佐野元春
#音楽
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?