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Dear Mr.Songwriter Vol.13

佐野元春 with The Heartland
Café Bohemia  Part.1

今回は『Café Bohemia』です。このアルバムから自分はリアルタイムで経験しているので、(15歳!)当時の記憶や文献などを掘り起こして進めていきます。

 オリジナル•アルバムとしては5枚目となる『Café Bohemia』は前作『Visitors 』から2年と7ヶ月ぶりにリリースされる事になります。

世代ではなく、個人へ。カフェ•ボヘミア。

 このボヘミアというワードはどこから来たのか、1986年1月1日の元旦にニューヨーク、イースト•ヴィレッジの聖マークス教会のポエトリー•ベネフィットが開催された。元春自身が直接出向き、アレン•ギンズバーグにインタビューした中にヒントがあった。

 アレン•ギンズバーグにもし会えたとしたら、どうしても聞きたいことがあった。ビートニクス•ムーブメントは今でも続いているのか。ビートニクスは今でも存在するのか。考えみれば、ずいぶん直截的な質問だ。彼は2回、答えをはぐらかし、3回目にやっと答えを返してくれた。
(中略)
A.G. あのね、それっていうのは時代によって呼び方がかわるものなんだ。でも、基本的には"ボヘミアン"として生き続けている。ボヘミアンとは、インターナショナル•マナーを持ち、自分の心、自分の肉体、自分のセックス、自分のアート、自分の結婚、自分の生活、自分の人生をよく把握している人のこと。そして、自分自身の検閲からも、自分自身の抑制からも、自由で、実験の心を持ち続ける人のことなんだ。
 アレン•ギンズバーグは"ビート"の質問に"ボヘミアン"の説明で答えてくれた。ビートの精神はボヘミアンの精神に根ざすと。

THIS 1986 SPRING No.1

 それより前にもシングル「YOUNG BLOODS」のジャケットに〈カフェ•ボヘミア〉という詩も記載されている。"ダウンタウンの朽ちた教会で出会ったA•ギンズバーグ"は1984年のポエトリー•ベネフィットに参加していたギンズバーグの姿をさしています。

 ビートニクスの精神はボヘミアンという形で続いている。その言葉が原動力になっていったのは間違いないんだろうね。

 歴史の本に閉じ込められてしまったビートニクスではなく、今を生きて、悟りきったような型通りの真実にはツバを吐きかける人、アレン•ギンズバーグ。
 あなたの心とことばに感謝。やさしさと孤独に触れさせてくれて、ありがとう。

THIS No.1  1986.4.25

 構想として、架空のカフェ"カフェ•ボヘミア"をつくり、様々な人種、職業を持った人たちが集い、議論し、いろいろなことを話す空間。ハートランドは、そんなカフェに雇われたバンド。そのような設定として制作にとりかかることに。

 この年に新たな試みが始まる。4月に所属しているEPICから個人レーベル〈M's Factory〉を発足させることだった。
 ここにはニューヨークでの経験が大きかったようです。日本の音楽シーンの動きをどう見ていたのか。

旧態依然とした体制が恐竜のように横たわっている、そんな景色が広がっていました。もう少し具体的に言えば、人と人が『創造性』でつながりあうのではなく、『いかがわしさ』と『マネー』でつながっているような••••••。欧米のミュージシャンやアーティストたちのように、僕らは『創造性』でつながり合うべきだし、マネーはその後からおのずとついてくる。僕はそんな理想主義に立っていた。少なくともニューヨークでは、それが可能であることを、この目で確認したんです。
 日本の状況に絶望するのではなく、自分のやり方をほんの少しだけ変えることで、状況を変えられるかもしれない、って考えたんです。これまで誰かにまかせていたことを、自分で引き受けてみよう。それが状況を変えていく力になるのではないか••••••そう思うと僕はまるでとりつかれたかのようにして、『エムズファクトリー』の設立に向けて走りだしました。

時代をノックする音 佐野元春が疾走した社会 山下柚実

 レーベルのコンセプトは音源だけに留まらず、出版、ラジオ番組、ライブなどを展開するようになる。

 レーベルとしての第一弾のアクションは、佐野
元春 責任編集として出版した季刊THIS。4月にNo.1が店頭に並ぶことになる。自分は実は書店で売っているのを発見して少し読んでみたんだけど、少し難しいなぁと思ってその時は買わなかったんだよね。後で買う事になるけど。

 そして10月に発売されたNo.3は〈カフェ•ボヘミアで夢を〉という特集。1986年の現代のカフェに集う人々を自分の目で確認し、スケッチをしている。ボヘミアンはまだ存在しているのか、1920年代のパリに異国から様々な人種、職業のものたちがカフェに集ったように。

THIS Vol.3   1986.9.25


 レーベル全般のデザインを手がけることになるアート•ディレクターの駿東 宏 HIROSHI SUNTOHの仕事ぶりが素晴らしい。それがこのTHISにおいても確認できる。mfのロゴマークも彼のデザインによるもの。

BEAT THE SYSTEM
KEEP QUESTION
CHANGE THE WINDS

  このアルバムの資料に3つの言葉がある。それぞれTHISのNo.1からNo.3とシングルレコードにも記載されていたもの。Tシャツのデザインにもなりました。これにはどのような思いがあったのだろう。なんとなく感じていたけど、この対談で少し腑に落ちたところがあります。

リリックも大事、メロディも演奏も大事だけれど、一番大事なのはアティテュード。『君はスタイルを持っているのか?』そこが最も問われるようになった。それを体現するアーティストも次々と出てきた。ゲイであることをカミングアウトしたポップ•ソウルのシンガー。急速的な左派に同調してアジテーションするシンガー。そうした"態度主義"といった考え方がエンタテイメントにも影響していた。

TOUR2022 WHERE ARE YOU NOW パンフレット
ロング•インタビュー 訊き手 片寄明人

 このインタビューは片寄さんが当時の日本の音楽状況について訊いた時の答え。ミックスダウンに行ったイギリスの状況も交えながら答えています。
 スタイルというと、ファッションの事がまず頭に浮かぶけど、ここで言っているのは流儀、主張とでも訳すのがいいのか、それが重要なんだと。

 スタイル•カウンシル🟰スタイル評議会に感化されたのは偶然ではないと後に語っている。

 そしてこの3つの言葉。直訳すると『BEAT THE SYSTEM システムをビートするんだ』『KEEP QUESTION 疑問に感じることをやめるな』『CHANGE THE WINDS  風向きを変えろ』この"態度主義"のスタイルをクールに掲げていたことは、あまり脚光を浴びずに、スルーされていたような気が今思うとしています。

 ここで触れられているシンガーのひとりはポール•ウェラーだろう。彼の存在も大きかったのも感じる。

 "誰もがみな平等で 同じ分け前を受け取るべきだと信じるなら これをよく認識して主張するんだ インターナショナリストであることを宣言しろ"
Style Council 『Internationalists』1985

以前にも主義、主張を掲げていたけど、このアルバムにはより明確な形で表れているように感じます。

ここで、アルバムリリースまでを少し整理してみよう。

1月 ◼️ニューヨークでアレン•ギンズバーグ、グレゴリー•コルソと会う。

4月 ◼️新マネジメント会社「エムズ•ファクトリー」設立。自主レーベル「M's Factory」発足。◼️ファン•クラブ会報誌『Café bohemia』に名前を変えて新たにスタート。

Café bohemia Vol.1

◼️『THIS』 No.1 発刊。

THIS No.1  1986.4.25

◼️東京マンスリー•ライブVol.1。

5月 ◼️「奇妙な日々」リリース。◼️カセットブック『エレクトリック•ガーデン#2』リリース。

◼️東京マンスリーライブVol.2。

6月  ◼️THIS No.2の写真撮影で上野動物園へ。 ◼️東京マンスリーライブVol.3 。オープニング•アクト〈横内タケ•グループ〉。

7月 ◼️「夏草の誘い」リリース。◼️『THIS』No.2 発刊。

THIS Vol.2

◼️東京マンスリーライブVol.4 。オープニング•アクト〈ザ•シェイクス〉◼️「冒険者たち」レコーディング。

8月 ◼️ハートランドとアルバム用レコーディング。◼️東京マンスリーライブVol.5

9月 ◼️THISの取材でパリへ。◼️「冒険者たち」リリース。◼️ミックスダウンにニューヨーク、ロンドンへ出発。◼️東京マンスリーライブVol.6。マンスリーライブはここで終了する。

10月 ◼️ザ•ハートランドにギタリストとして長田進が加入。◼️アルバムに先駆け全国ツアー〈Café Bohemia Meeting〉スタート。全70公演。

12月 ◼️『Café Bohemia』リリース。

もうカム•シャイニングの歌詞の通り"休みがとれるほどおだやかな世界じゃない"ってほど動きまわっていたようです。この他に毎週NHK FMでのサウンドストリート、FM横浜でハートランドアワーというラジオ番組のDJもやってるしね。

今回はこれで終わりです。最後まで読んでくれてありがとうございます。次回は収録曲についてです。では、また!
#佐野元春

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