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岸田繁さんへのお手紙~嬉野温泉、熊本の慰安旅行でのお話について~

拝啓 
岸田 繁様

 初めてのお手紙を失礼いたします。また業務関連のご相談ではないことをお許しください。

 改めてご挨拶いたします。札幌市在住の岡本剛と申します。
嬉野温泉及び熊本の配信で地方の過疎のお話を聞き、思うところありましてこちらへ記載いたしました。

 私の住む北海道は日本の社会問題の先端地域と言われており、道内地方の過疎と札幌圏への一極集中、2050年には人口3割減とそれに伴う少子高齢化の急激な進行が喫緊の課題です。

 私は昨年まで勤めていた地場の広告代理店で商品開発及び貿易物流業を担当しておりました。3~4年前に道内マーケットの将来的な縮小に対してどのように課題解決をするかということで道産日本酒の海外輸出に携わっていたことがあります。協力していただいた各酒蔵会社様及び販社様も大変前向きでしたが、やはり貿易リスクとして政治的思惑やいまだ尾を引く福島原発による食品への規制の強さ、そして海外市場での需要と供給のマッチが読み切れず、なかなかスムーズに実施できたとは言い難い状況でした。理想としては相手国内での認知度向上によりインバウンドがこちらで実体験をし、それをまた母国へ還元し、、、というサイクルを想定していました。

 少し話を飛ばしまして、札幌市の北に当別町という町があります。JR北海道の学園都市線の現在の終点「北海道医療大学駅」がありますが、その北海道医療大学が2029年にエスコンフィールドのある北広島市に主要機能を移転します(エスコンフィールドのあるFビレッジ内へです)。JR北海道のスケール感はもちろん岸田様はご存知かと思いますが、これは少子化対策、受験者減少対策として利便性向上による学生獲得が主目的です。1万5千人が住む当別町に900人ほど住む学生や大学法人の移転により通勤通学にかかわる4千人近くがほぼ北広島市や札幌市に吸収される見込みです。恐らく実現した場合「北海道医療大学駅」は廃駅となるでしょうし、町の財政は大打撃を受けることは必至です。

 この上述してきた二つの課題に共通するのは「ハコ・モノの根付き」の弱さだと考えています。日本酒は日本国内でも消費量が減っており酒蔵会社も地元だけ、国内だけを見ていると衰退・廃業は免れず、私立大学は自らの存続のために移転の選択をしました。前者は日本酒文化がなぜこれほどブームに見えるのにマーケットは縮小するのかという実態、後者は地方自治体に50年近く存立している学校法人の生存戦略を存置自治体側が読み切れなかったこと、それらには「ハコ・モノの根付き」の脆弱性を直視せずに対応を怠ってきた官と民間の戦略があるかと思います。

 現在北海道の官民一体の経済戦略の最先端として動いているのが半導体企業による産業活性です。これまでの歴史を振り返り官民一体で成功した情報製造産業があったかどうか、特に製造分野で都道府県単位の経済を活性化できるのか、海外企業よりどれだけ優位性を持てるのか、道内消費者にどれだけ還元があるのか等々悪い意味で未知数だと考えております。また、新幹線の札幌延伸が2030年をめどに進んでおりますが、俯瞰的にまずは土木・建築業界にカネが落ちていく構図はどちらも同じです。公共事業に頼る構造は事業、産業の上の句が変わっているだけです。これが脆弱性の基盤であり、空中戦で議論とカネが飛び交い、現場、現実、現物を机上の空論で解決しようとしたなれの果てだと考えています。そろそろこういった構造は終焉を迎えてもいいのではないかと思います。

 以下はかなり願望の入った話になってきますが、「ハコ・モノの根付き」をもう少し概念的に説明いたしますと、それがいわゆる地場の過去と未来に根付いているかということです。未来に根付く、というのはパラドクス的な言い方ですが、根源的に言えば人が育つ土壌を醸成することができるか否かが、その「ハコ・モノの根付き」の最も重要な意義だと考えています。地元で一生を終える人間を増やすという意味ではありませんし、Uターン、Iターン族を増加させるという意味でもありません。「ハコ・モノの根付き」が良く、その近隣で育ったヒトにはその土地の歴史・文化が内包されていると仮定したいのです。そういったヒトが例えば地元を出て何らかの事を成すとして、そのヒトは地域単位に何らかの価値還元をしてくれるはずです。また、どこへ居てもどこへ行っても地域の文化を尊重しつつもアップデートするような事をしてくれるのではないかと期待をするのです。そういった「価値の螺旋的循環」や「価値の連携」をヒトの流動によって起こすこと、それが「ハコ・モノ」の意義であり、「根付き」が強ければ強いほど継承されていくと感じます。ある地域とある地域の「ハコ・モノ」が出会った際にどれだけ離れていようとも、むしろ離れていればいるほど新たな価値創造が起き、そこにはヒトと文化の流動が起きます。過疎化ヘの観念的な対策としては文化の流動によるヒトの流動化ではないかと思うのです。逆説的に言えば地方であろうが都会であろうがもっともっと地元を離れやすくして、「極」ではなく新たな「地元」を目指すような考えを基にした施策が論じたいです。

 現在は均質的、効率的に物事を運ぶこと、もしくはそのシステム自体を尊重することが正論とされています。GAFAに代表されるような巨大IT企業、グローバル企業、行政等の目指す先にはいわゆるローカルな差異がありません。なぜならば個人、地域、地方といった差異が無くなれば無くなるほどローカライズという非効率性が排除でき、コストダウンに繋がるからです。そこに全く恩恵がないとは言いませんしむしろ「ハコ・モノの根付き」を際立たせるためにはどんどん進行していくほうが、より反射的、反動的に濃い地方というのが醸成されていくのではないかと思います。地方が衰退すれば必ず都会も衰退します。都会の構成員、構成要素が均質化されるからです。均質化が必ずしも強固で正当なシステムではないと実感されるのがパンデミックであり各地に勃発している紛争や緊張、似たような政治課題です。札幌市も人口が減少している中、新幹線ができればストロー効果を初めて目の当たりにするでしょう。それまでにここにしかないこと、ここに持ってこれることを議論するような土壌が醸成できればと考えております。北海道のような全体が衰退地域と見なされるような場所でも内部に札幌圏、地方都市、過疎地、へき地、離島といったような地域格差がありそれらに同等の公共サービスの提供や産業の継続・勃興を期待することは不可能に近いのが現状です。

 その不可能を可能な限り無くすために、率直に言えば「飯のタネ」を各地で育てる土起こしからしなければならず、それを公の事業や民間の努力、ごくたまに現れる超人的な個人を待たずとも芽吹かせるための議論が必要なのだと思います。議論のための議論であり過渡期なのだといえば諦観的ですが、気づきの発信という観点から今回の岸田様のお話は大変考えを揺さぶられるものでした。地方から一方向に声を上げるだけでなく、その声を多方向に上げていくことが重要だと感じております。

 特段焦点の無く、具体性に乏しい文章を記載してしまいまして失礼いたしました。大変お忙しいところかとは思いますが、岸田様の創作や活動の一助となれば幸いでございます。
 今回のイベントでのお話に感謝申し上げるとともに引き続き岸田様及びくるりの皆様、ご関係者各位のご活躍とご健康をお祈り申し上げます。 
                                                                           草々                                                                       岡本 剛
https://twitter.com/kaitake4kg

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