北海道〜くるりホールツアー2023〜

オープニングのアルペジオは次の真夏が始まった瞬間でした。

 2023年7月2日、くるりホールツアー2023が道新ホールで開催されました。斜向かいには時計台のある北海道民には馴染みの深い場所ですが惜しくもおよそ1年後の6月30日に閉館となってしまう様々な幸せを生み出してきたホールです。北海道新聞、略して道新というこの地に根差す歴史ある地方新聞社のホールで京都市で誕生したバンドがどのような演奏をするのか、むしろ我々聴衆はどのように受け取るのか、双方向に高揚感のあるステージだったかと思います。意外と(失礼?)北海道ではくるりは人気者なのです。
 長くなりますが一曲ずつ、感想を書いていきます。MCとかなんやかんや細かいところは忘れてしまいましたが何卒ご承知置きを。

 一曲目、「真夏日」
一昨年のフジロックでセミの歌とかトンボがマイクに止まってたと話題になった当時の真っ新な曲、昨年の音博でくるりファンの最高潮の焦がれを持って配信、CD発売、そして又吉直樹氏の朗読から繋がる演奏が披露され、大雨の中の多幸感はこの先一生、次の真夏を思い描く楽曲がこの世に誕生していることを確信させてくれるものでした。幸運にもそれを現地で聴いていた僕は一気に梅小路公園と道新ホールを繋げる道を己の中に敷くことができたのです。今年の北海道は「真夏日」が似合い過ぎます。石若さんの清涼感が吹き飛んでしまいそうなくらい、京都の夏の盛りのようです。 

 二曲目、「LV45」
京都と札幌を時空を越えて繋ぐ「真夏日」から曲そのものが時空を越えていくような表現、演奏、歌詞が重なっていくこの曲はアルバム『魂のゆくえ』の1曲目であり1曲目フェチの僕にうああ、と呟かせてしまいました。広大な宇宙に存在する人智を超えた星々を思わせるハーモニーはこのライブへの感覚をより研ぎ澄まさせてくれました。

 三曲目、「ワールズエンド・スーパーノヴァ」
イントロが始まった瞬間会場総立ち、以上。これ以上語る必要がありましょうか。くるりファンには必要ないでしょう。くるりファンでない方がもしこの駄文をお読みなら、総立ちになる理由がわかるまでぜひくるりを聴いてください。ひとつ、時代を象徴する曲なのです。間違いなく未来への希望を伝えてくれる曲なのです。

 四曲目、「琥珀色の街、上海蟹の朝」
語弊を恐れずに言えばくるり史上最も「バズってる」曲でしょう。カッコいい、スタイリッシュ、ちょっとクセがある、でもノリやすい。カタカナで表現するのが最適です。くるりをずっと聴いていると色んな曲が聴けるなあと思った曲です。二曲目、三曲目、と続いてきてさながら道新ホールはクラブのような様相を示してきました。みなさんノリノリです、その理由は人それぞれ。先日カラオケで即興振り付けで踊り狂いながら熱唱しました、誰か一緒に歌ってくれる人がいるんです。それがバズってことよ。

 五曲目、「赤い電車(ver.追憶の赤い電車)」
生演奏で聴けるなんて!という驚きが身体の揺れを大きくしてくれました。ビート感、グルーヴ感がたまりません。身体の揺れが止まりません。ホールでよかった、1人分のスペースがきっちり確保されています。岸田さんの趣味から生まれたタイアップ曲なのに、佐藤さんの運指をずっと見ていたくなる曲です。野崎さん、松本さん、石若さんのプレイによって最高品質にメンテナンスされた赤い電車です。

 六曲目、「THANK YOU MY GIRL」
ここでググッと舵をきって、バンドサウンドが煌めき広がりました。まさに煌めく楽曲でアクセントをつける熟練のセットリストであり、誰もがギターアンサンブルにうっとりしていました。ジャカジャーンから始まるイントロはなんてシンプルイズベストなのでしょう。

 七曲目、「7月の夜」
この駄文を書いていて気づきましたが、演奏順も七曲目なんですね。7月の夜の七曲目に聴かせるという粋な演出はさすがです。ファーストアルバムの曲がここに活きてくる、いつの時代のくるりもやはりくるりなのだと安心します。「東京」を吹っ切ったようにめちゃくちゃ電話してるこの曲、上京して3ヶ月も経てば慣れるんでしょうかね。しかし子猫は夜へ消えていく、僕は何を失ったんでしょうか。

 八曲目、「GUILTY」
1曲目フェチ再来、嬉し過ぎる曲です。ドラムが最高なんです。ヘドバンしたくなります。しませんでした。こんなにも心に刺さってくる曲は数えるほどしかありません。数えたことはありません。何回聴いたかわからない曲が目の前で演奏されている、改めてライブの幸福感を感じている最中です。

 九曲目、「Morning Paper」
もはや佐藤さんの代名詞的曲であり、スーパーおまさしタイムを盛り上げるためにメンバーが一音一音段階を積み重ねて溜めて溜めてそれに呼応するかのように歓声が至る所で上がり、ギター!ピンスポズバーン!ベース!語彙を失いました。

 十曲目、「ハイウェイ」
何回聴いてもいいものはいいと思うのです。もしかしたら最近の岸田さんはこの曲を歌う時に思う心情や演奏のちょっとしたニュアンスを変えているかもしれません。それにしても瑞々しいギターの響きがいつもの安心感を与えてくれます。

 十一曲目、「旅の途中」
演奏後岸田さんのMC「北海道の番組で使われてますから今日演奏した方がいいですよ!とマネージャーに言われて急遽演奏したんですけど…」
わたしたち「??????」
岸田さん「笑メディアの方がいらっしゃったらぜひ使ってください、よろしくお願いします」
的なやり取りがあり、そんな番組があったら嬉しいですし怪情報を流してくれた方々に感謝です。確かに北海道に似合いそうですね、美瑛、富良野辺りに行く途中で聴きたくなります。

 十二曲目、「Smile」
僕はこの曲はきっと演奏されるだろうと思い、ライブ3日前に映画『リバー、流れないでよ』を観に行きました。非常に面白いコメディでした、細かいところがツボに入りました。こういう作品は大好きです。エンドロールが流れてきてそういえばそうだったと忘れてたくらいハマりました。映画、観ておいてよかったです。聴けばいつでも楽しくなれる曲です。川は流れても戻ることはない、だからこそこのような映画、楽曲が世に産まれる、ある意味人生に対抗するための作品です。

 十三曲目、「Liberty&Gravity」
さあて、ここからロケット2段目切り離しみたいにくるりの加速度が増していきます。会場全員でヨイショ!と叫ぶことのできる時を心から待っておりました。ここ数年の世界を表すかのような題名、抑圧からの解放、但し地に足をつけることの確かさも感じさせる演奏はビシッとバシッとグワングワンと脳内を掻き乱してくれました。

 十四曲目、「益荒男さん」
前演奏曲に負けず劣らず変な曲ですが、大好物です。こういった曲をライブで聴けるのはバンドメンバーの並々ならぬ努力を感じることができグッとくるものがあります。『君たちはどう生きるか』を先日観てきましたが、この曲の風刺性、幻想性が根底に通じるのではないかというのはこじつけに過ぎましょうか。『君たちはどう生きるか』、ぜひご覧になってください。

 十五曲目、「つらいことばかり」
野崎さんのキーボードが光り、コーラスのアレンジも素晴らしかったです。アウトロの岸田さんのご機嫌お太鼓(あるお方からの借り言葉)はつらいことをどーでもええやん!どーにかなるやん!とポコポコ空に吹き飛ばしてくれるような音色でした。私はちょうど演奏している姿を真正面に観られる位置でしたので愉快痛快すぎて爆笑していました。

 十六曲目、「スラブ」
MCを聴いてこの曲がバラードであることを初めて知りました。今までは何というか、欧州版コンドルが飛んでいくフューチャリングくるりみたいな、なんかわかりませんが民俗、民族的な伝統要素のある曲だなあと思って聴いていました。まさに大団円!という凄まじきアウトロでした。

 十七曲目、「ばらの花」
何回聴いてもいいものはいいと思うのです(二回目)。いつかくるりファンみんなで大合唱したいですね。くるりを聴いてる人は心に一輪挿しを持っていて、たまにばらを挿すのです。ライブで聴くと花束を持って帰ることになるので花瓶を用意します。大事に大事に愛でています。聴かせてくれていつもありがとうございますと思います。

 十八曲目、「八月は僕の名前」
美しい曲です。「あなた」と「僕」、「今なら」、「今から」、「今すぐ」、これほどライブという場面に合う曲はあるのでしょうか。ライブは一期一会であることを強く実感させてくれる演奏でした。ハンドクラップは難しくてできませんでした。いつか僕らもチャレンジできるくらいたくさん演奏してください。

 十九曲目、「虹」
王道にして至高の一曲。ツアーの後半ではアウトロがなんだか大変なことになっていたようでしたが、いつもいつもアウトロに酔いしれてしまいます。くるりを聴きにきたんだという実感がようやくここにして湧き上がってきました。
ずっとフワフワドキドキしちゃうんですよね。

 二十曲目、「愛の太陽」
神様許して、こんな名曲を聴けるなんて。動画配信サイトに登録すると部屋から出なくなりそうなので『ちひろさん』は観ていないのですが、観たという後輩に先日MVを観せました。色んな説が考えられるMVでおにぎりは大事と言っていました。映画を観てる途中からチオビタっぽいと感じていたようです。勘の良い視聴者は大好きだよ。新たなライブの定番曲になってほしいです。

 二十一曲目、「ロックンロール」
始まった瞬間と終わった瞬間が同時なんじゃないかと錯覚するくらい瞬の極みの局地に至っているのではないでしょうか。松本さんと岸田さんのギターバトルは最高です。あとはもう各自感想お願いします。

 二十二曲目、「奇跡」
ライブが終わってしまうよー、というソワソワした心にダイレクトアタックしてきました。個人的に辛いことがここ数年積み重なっているので潤いを与えてくれるこの曲がより大好きになりました。いつも言っているのですが奇跡は出来事ではなく想いです。何が奇跡か、この日はこのライブでした。

 二十三曲目、「In Your Life」
ライブで本邦初演奏という貴重な、一曲に一回しかないことに巡り会えてとても嬉しかったです。僕は38歳になりましたがたまに後ろを振り返り、どんな道を歩いてきたかを思います。そんなことを「前向き」と後押ししてくれるような曲を聴くことができてこれからがライブの本番じゃあないのかなと思ってしまいました。

 二十四曲目、「東京」
「東京」が演奏される熱さというのはくるりのライブでは特別なものがあります。この日は行かないでくれ〜終わらないでくれ〜終演にピッタリだから終わってくれ〜とカオスな心持ちになりました。拍手喝采。最大級に膨らんだボルテージで皆様帰路に着きました。

日も空いて且つほぼ一筆書きで書ききってしまいましたので当日の感想なのかいつも感じていることを書いたのかわからなくなってしまいましたが、また聴きたい、また来たい、最高のライブとは次の真夏のことを思ってしまうライブのことではないでしょうか。たくさんのイベント、音博、新アルバム、映画、まだまだ盛りだくさんのくるりライフワークを今年も楽しみ、来る次のツアーを楽しみにしております。

<了>

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