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デ・ブライネの高速クロスの秘密。

今回は、デ・ブライネのキックの中でも特徴的な、縦にほぼトップスピードで走りながらの正確かつ高速なクロスを解説します。

具体的には以下のようなシーンです。4つとも2022-23シーズンでのゴールシーンなので、チームとしてもかなり強力な武器になっていると言えます。
恐ろしいですね。

↓同じ試合の違うシーン↑

デ・ブライネの記事はこれまでにも何個も書いてきましたが、彼の凄さを表現するには全然足りないのでどんどん書いていきます。

↓過去記事たち

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結論:蹴った後もそのまま縦に走り抜ける

理論的な解説に入る前に、実際に蹴る時にはこのように意識しておくと良いというポイントを紹介しておきます。

というのも、僕がこうしてキックの背景にある理論を発信していると、
「そんなの机上の空論じゃん」
「そんなこと意識して蹴れる訳ないだろ」
「デ・ブライネはそんなこと考えてないよ」
などなどありがたいお言葉をたくさん頂き、頭でっかちのレッテルを貼られることにうんざりしているからです。

僕が発信している理論的な内容は指導をする前提となる話であって、当然選手にすべてをそのまま伝える訳ではありません。

この後に細かく解説していく理屈を踏まえて、選手に一言だけわかりやすいイメージで伝えるとすれば

”蹴った後もバランスを保ってそのまま縦に走り抜ける”

この一言になります。

選手としては、このアドバイスだけを基に練習すれば十分なのかもしれません。ただ、それだとそもそもそのキックに必要とされている身体機能(筋力や柔軟性などを含む)が不足していることに気が付けなかったり、感覚を掴むのに過剰な時間がかかったりなど、なかなか上手くはいかないとがほとんどです。

指導者としてはこの先の理屈を理解することで適切なアプローチが可能になるし、選手としても試行錯誤の質を向上させることができるのでぜひ読み進めてもらえればと思います。


では、デ・ブライネのような縦に走りながらのクロスを正確に強く蹴る方法を考えてみましょう。

問題:縦に走る勢いを真横の振りへ変換するには?

まず、力学的に考えてこのキックにおいて求められることは上記の通りです。

キックの基本は助走で生み出したエネルギーを蹴り足の振りに変換していくことにあります。

基本的には助走の方向と蹴り出し方向が概ね一致している状態が蹴りやすい(エネルギー伝達がしやすい)のですが、今回取り上げるシーンでは助走の方向に対してほぼ直角な方向に蹴ることが求められます。
そのためには当然足の振りを進行方向に対して真横に向けることが必要になり、難易度の高いエネルギー伝達のための工夫が必要になります。

また、デ・ブライネのすごいところはこの難易度の高いエネルギー伝達を超高速、ほぼフルスプリントの状態から減速ほぼなしで実行してしまうところです。これは世界的に見てもかなり独自の能力と思われるので、研究の価値があるでしょう。

解答:骨盤の向きを蹴る方向に向けて止める

では、蹴り足の振りを真横に持っていくにはどうすれば良いかを考えてみましょう。

最もシンプルに考えるのは、体の向きは進行方向に向いたまま足だけ真横に振るパターン(股関節を内転させる動き)でしょう。
ただし、この動きで蹴り足をしっかり加速させてインパクトしようとすると足の動きが外から内に向かう動きが必要になりますが、そのためにはボールに対して足を回り込ませるような動きが必要でこの動きは非常に効率が悪いです。

では、足の振りの向きを真横に向けるためにどうするかと言うと、足の振りの方向を決める箇所を真横に向けること、つまり骨盤の向きを真横に向ける(蹴る方向に向ける)ことが必要になります。

(Manchester City twitterより)

ここで、注意しなければならないのは骨盤の向きを真横に向ける動きでは骨盤が回る動きが大きく速くなるためその回転に体が持っていかれやすくなってしまうことです。この NG例についてはこの後見ますが、回転に体が持っていかれてバランスを崩すとインパクトはずれやすくなってしまいます。

さらに、ここでは詳しく述べませんがエネルギーを増幅していく上で関節を中心→末端の順に止める動きは非常に重要です。キックでは、助走で全身が運動している状態から軸足でブレーキをかける→軸足の股関節までが止まる→骨盤の回転が加速→骨盤を止める→蹴り脚が加速というようにブレーキがかかることで残りの部分が加速していく現象が見られます。なので、このようなダイナミックな骨盤の動きが見られるシーンでも骨盤の回転を制御し、しっかりとブレーキを掛けられることが重要になります。

よくあるNG例:蹴った後、体が回っちゃうパターン

ここでNG例として、大変失礼ながら伊東純也選手のあるシーンを挙げさせて頂きます。

このシーンでは、骨盤の回転を止めることができず蹴った後に体が反時計回りに回るような形になっています。

(DAZN Japan youtubeより)
(DAZN Japan youtubeより)

このような振りでは、このシーンのようにインパクトの位置がずれて外に(キーパー方向に)抜けるボールになったり、振りの方向が蹴り出し方向を向かず回転の多い、遅いボールになったりしがちです。

特に足の速い選手はこのようなクロスの上げ方になっていることが多く、改善が必要な場合が多いです。

ちなみに伊東選手の名誉のために言っておきますが、このような後で解説するポイントを押さえた良いキックをしているシーンもあります。

先ほどのシーンと比べると蹴る距離が短いというのが一つの要因で、距離が伸びると難易度が一気に上がるので、やはり距離を問わず蹴れてしまうデ・ブライネの凄さが際立ちます。

デ・ブライネが示す具体的な解決策

理論的な前提条件は揃ったので、ここからはそれらを実現するためのデ・ブライネの工夫を具体的に見て行きましょう。

ポイント①:軸足を置く位置はボールより手前に

まず一つ目は、軸足を置く位置についてです。

今回取り上げている場面では助走の進行方向に対して横向きに足を振らないといけないので、軸足がボールの横に来てしまうと軸足が邪魔になってしまいます。

また、骨盤を回転させて蹴る蹴り方だと、自然な足の軌道は軸足よりも前になるので、この蹴り方でしっかりとインパクトしたければ自然とボールよりも手前に軸足を置くことが求められます。

(青の四角が軸足、丸が蹴り足を表す)

この軸足を置く位置は、デ・ブライネのこのキックの最大の特徴に強く関連しています。これはこの後のポイント③で解説します。

また、軸足の向きについては少し蹴る方向に向くように置いていることが分かります。これもポイント③に関連する事項です。

(UEFA Champions League twitterより)

ポイント②:軸足でブレーキをかける

続いてのポイントは軸足のブレーキです。

またまた失礼ながら伊東選手のミスキックを取り上げさせて頂きますが、このキックでは先ほど述べた体の回転が抑えられていないことに加えて、体にブレーキがかかっていないためにバランスを崩していることが分かるかと思います。

一方で、こちらのシーンではブレーキがかかって体のコントロールが効いています。

先ほど骨盤を止めることの必要性の説明で、体の一部を止めることで末端が加速していくという話をしました。軸足で体にブレーキをかけることはこのエネルギー伝達の最初の段階として最も重要なので、これができるかどうかでキックの質はかなり変わります。

これに関しては、以前のデ・ブライネに関する記事で詳しく解説しているのでこちらも是非ご覧ください。

この記事で取り上げた走りながらのシュートシーンも少し横方向へほぼ全速力で走りながら蹴っていることを考えると、今回のクロスと共通点が多いのは確かです。

ポイント③:縦に走り抜ける動きで骨盤を止める

最後に最も重要なポイントを解説します。

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