見出し画像

脚の振りを極限まで速くするには?アセンシオの弾丸シュート分析・後編。

前回はアセンシオの弾丸シュートの球質を細かく分析しました。
結論としては、超高速無回転であることが最大の特徴で、そのメリットはゴールへの到達時間が最短になることでした。

上記の記事で詳しく解説しているのでまだの方は是非こちらを先にお読みください。

そして、後編となる今回はこの超高速無回転を蹴るための方法を徹底解説します。
詳しくはこの記事の後半で述べますが、アセンシオ独自の特徴は回転運動を蹴り足の振りに変換する能力の高さにあり、その動きはこの上なく理に適っています。

まずはそもそもの無回転のボールの蹴り方から始め、アセンシオのキックの秘密に辿り着けるように順を追って解説していくので一つずつ理解しながら読み進めてみてください。

無回転のボールが生まれる仕組み

まず最も基本的な事項として無回転のボールを蹴るためのポイントをボールに加える力の観点から説明します。

結論から言うと、ボールと蹴り足が接触する位置からボールの中心に向かう向きに力を加えることが必要になります。

言葉だけでは分かりにくいので、ボールに加わる力と軌道のイメージを模式図で考えてみましょう。

以下の図は、ボールを左から右に蹴る時にボールに加わる力を表しています。赤い矢印が実際に蹴り足からボールへ伝えられた力の大きさと方向を表す矢印です。

ボールに加える力の向きとボールの軌道の関係(バックスピン)

ボールに加えられた力(赤)は上図のように二つの成分(青、緑)に分けられます。
いわゆるベクトルの分解というやつですが、ボールの中心に向かう方向とそれに直角な方向へ矢印を分解します。(青の矢印と緑の矢印を足し合わせると赤の矢印になります。)
この時、ボールの中心に向かう青い矢印がボールのスピード、蹴り出される方向を決定し、それに直交する緑の矢印がボールの回転を決定します。

よって、このような力の加え方をした場合、実際に蹴り出されるボールを少し高めでバックスピンのかかったボールになります。

続いて、無回転のボールを蹴るための力の加え方を考えてみましょう。

無回転は当然回転を生んではいけないので、ボールの回転を決める成分である緑の矢印の長さはゼロにならなければなりません。
これを実現するためには、ボールに加える力を青の矢印と重ねること、つまりボールに加える力をボールの中心に向かう方向に向けることが必要になります。

以上踏まえるとボールに加える力は以下のようになります。

ボールに加える力の向きとボールの軌道の関係(無回転)

上の図の左側のように力を加えると高めの無回転、右側は低めの無回転になります。つまり、無回転を蹴る時の基本はボールを下から上に蹴り上げることで、高いボールを蹴る時ほど蹴り上げる角度は大きくなります。


ポイント:体を後ろに残して蹴る

それではボールを下から上へ蹴り上げるための方法をアセンシオのキックで見てみましょう。

インパクト近辺のボールと身体の位置関係を見ると、体を後ろに残し体よりも前でボールにインパクトしていることが分かります。

(DAZN Japan twitterより)
(Real Madrid C.F. twitterより)

キック動作は基本的には蹴り脚の股関節、膝関節を支点とする振り子運動です。振り子運動を横から見ると振り子が下から上へと振り上がるのは支点よりも前側になります。
よって、蹴り脚の振り子運動中の下から上へと振り上がるタイミングでインパクトすることを考えると、体よりも前でインパクトすることが必要になります。

実際にアセンシオのキックを見るとボールを体よりも前に置いて脚を振り切ることで、ボールから下から上へ振り上げて無回転のボールを蹴っている様子が見て取れます。


よくあるNG:ボールを押し出すように蹴る

よく言われる無回転を蹴る際のポイントに、"ボールを押し出すように蹴る"というものがあります。

このような意識を持つことの良くない点は、キック動作において最も自然な動きである蹴り脚の振り子運動を阻害してしまう点です。ボールを押し出すという意識をするあまり振り子運動の運動方向とは異なる方向に無理矢理足を振り上げたり地面に水平に近い方向に動かしたりするのはよく見るNG例です。

特に真っ直ぐ押し出すことを強く意識すると弱くて低い無回転しか蹴れないことが多く、ボールがストンと落ちているようには見えるのですが試合で使えるレベルにはないことが多いです。


アセンシオ分析記事前編でも詳しく述べましたが、無回転のボールの最大のメリットは加えた力がすべてボールスピードに変換される点です。
このメリットを最大限活かすためにはボールに加える力を最大にすることが必要です。無回転であること自体に意味がある訳ではなく、回転を減らすために弱い力しか加えられないようであれば実践上価値はないです。


加える力を大きくするには?

それでは、ボールに加える力を大きくするための方法を考えていきましょう。

  1. インパクトで力を逃さないようにする

  2. 脚の振りを速くする

シンプルにこれだけです。

強いキック、良いキックを蹴るために何が大切ですか?とはよく聞かれますがまずはこの二つを満たすこと、ちゃんと当ててちゃんと振ることに限ります。これができた上でボールへの力の加え方(方向やインパクト位置)を微妙に変化させて行くことによって球種を増やしていくことができます。


1. 力を逃さないインパクト

インパクトの基本はつま先寄りではなく足首に近い位置に当てることです。

以下の映像はインパクトの瞬間を足元のみスローで撮った映像です。
ボールを蹴る時にはボールに加える力の分、蹴り足も反作用として同じだけの力を受けることになりますが、この映像から蹴り足の足首はかなりブレることが分かります。

同じ大きさの力を受けた場合でも、インパクト位置がつま先寄りであればあるほど足首はブレやすくなり、反対にインパクト位置が足首に近いとブレにくくなります。
しかし、足首に近すぎ(脛の近くぐらい)に当たってしまうと今度は逆向きに足首を回転させる力が働いてしまうのでちょうど良い場所を掴む必要があります。

このインパクト位置を掴む練習として最も良いのはリフティング、それもインステップでの無回転リフティングです。
軽く当てた時に全く回転がかからず真っ直ぐボールが上がってくる場所が最も適したインパクト位置です。そこよりつま先寄りだとバックスピンがかかりやすく、足首寄りだとトップスピンがかかりやすくなります。

インパクト位置としては、真ん中のインステップとインステップより少し内側のパターンがあるのですが、アセンシオは僕が知る限り全てのシーンで内側で蹴っています。
内側で蹴る蹴り方はこの後に説明する、脚の振りを速くするための工夫と相性が良いです。

インステップ内側のインパクト位置の目安としては、靴紐を通す穴の上から2,3番目くらいです(当然靴によって違います)。


本田圭佑のような無回転が蹴れるスパイク?イグニタスについて

2010年の南アフリカW杯は本田圭佑の無回転FKが大きな注目を浴びました。大会中に本田が履いていたスパイク、イグニタスは無回転パネルなるものが搭載されており、このスパイクにも注目が集まっていた記憶があります。

当時小学4年生の僕も本田のフリーキックに魅せられて無回転シュートを練習しまくった少年の内の1人でした。本田が履いていた黄色と黒のイグニタスも売り切れ続出の中で何とかゲットしました笑

以下の画像で言うと、内側に入っている黄色のパッドのようなものが無回転パネルですが、ここだとインサイド寄りすぎてうまく蹴れないと思います。

初代イグニタス

一方で、どのような意図があったかは分かりませんが3代目のイグニタスの無回転パネルはかなり良い場所に移っています。このパネルが配置されている位置が無回転を蹴る上では最適です。

イグニタス3


2. 脚の振りを速くするには?

脚の振りを速くするためのポイントはたくさんありますが、アセンシオのキックの最大の特徴は回転運動を最大限利用して蹴り足のスピードに変換していることです。

アセンシオのキックで最も特徴的な一コマを挙げるとすれば以下の局面です。

(Real Madrid C.F. twitterより)
(UEFA Champions League twitterより)
(DAZN Japan twitterより)

ここからアセンシオの独自性を細かく解説していきます。


回転を生み出す①:横向きにアプローチ

ここから先は

4,071字 / 11画像

¥ 300

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?