自#316「5、6年前だったか、ビットコインで、結構、稼ぎましたって言ってた高校生がいました。もう高校生が、簡単に手を出せる時代じゃないだろうと思います。リアルは、現金の流通が減少しているので、将来的には仮想通貨は、定着するだろうと想像していますが、マイニング(採掘)は、電力を大量消費しているので、これって脱炭素的に、どうよと云う疑問はあります」

         「たかやん自由ノート316」

 評論家の佐藤優さんと、GMOインターネットCEOの熊谷正寿(くまがいまさとし)さんの対談記事を読みました。二人とも、プロテスタントのクリスチャンです。佐藤さんは、日本基督教団の賀茂教会の教会員、熊谷さんは、やはり日本基督教団の広尾教会の教会員です。同じ日本基督教団ですが、賀茂教会は、会衆派で、広尾教会はメソジスト系だそうです。太平洋戦争の時、当局が各宗派を大同団結させて、日本基督教団を結成させたわけですが、戦争終了後も、「牛後となるも鶏口となるなかれ」と、多くの宗派の方が考えたのかもしれませんが(多少、抜けた宗派もあります)、基本、大同団結したまま、現在に至っています。が、個々の教会は、大同団結する前の宗派のカラーを引き継いでいるのかもしれません。私が中高時代に過ごした寮も、日本基督教団の傘下の組織でした。結構、音楽が溢れていましたから、ルター派系だったと思われます。日本人の大半は、各宗派の教義などには、興味関心は抱いてませんから、日本基督教団と云うアバウトな大きなくくりで、別段、支障はないんだろうと想像できます。

 宗教が威力を発揮するのは、窮地、危機に陥った時です。熊谷さんは、買収した信販会社が不良債権を抱えていて、400億円の損失が出て行き詰まります。練炭自殺をする夢を見たこともあったようです。その危機を乗り越えることができたのは、日曜日に教会に行って、お祈りをする習慣があったからだと仰っています。佐藤さんは、鈴木宗男問題で逮捕されて、長い間、留置されていましたが、その間、旧約聖書のヨブ記などを読んで「これは試練だ。何か必ず意味がある筈だから、頑張り抜かないといけない」と自分に言い聞かせていたそうです。

 私は特定の宗教を信じているわけではありませんが、若い頃、禅寺で坐禅をして、リアルのこの日常世界とはまったく別の宇宙が存在することは、実感できています。それを神の世界と言っていいのか、ニルヴーナなのか、無なのかは、判りませんが、日常世界を相対化することはできます。相対化できれば、練炭自殺をすると云った修羅場にまでは、追い込まれたりはしません。どの道、死にます。思い詰める必然性はないし、思い詰めるのは、無意味なエネルギーの浪費だと判断できます。

 熊谷さんは、宗教のシステムを会社経営に応用しているそうです。1番目は、定期的に集うこと。定期的に集う時と場があること、これが、教会の一番大きな存在意義です。小さな会社であれば、社員全員が定期的に集まることも可能です。2番目は、同じものを読み、歌うこと。キリスト教の場合、これは聖書と賛美歌です。社訓と社歌を拵えれば、このルーティーンは達成できます。社訓では、ちょっとダサいので、旧約聖書の詩編などを読ませ、黒人霊歌で(社歌に)代替させてもいいと思います。3番目は、同じものを身につけ、同じポーズを取るです。部活ですと、部のウィンドブレーカーを作って、ミーティングの最後に1、2、3、だあーっで、締めるみたいな感じです。4番目は、神話。物語と言い換えてもいいと思います。まず過去の創業・守成の歴史を学びます。そして未来の物語をトップが作り上げて、それを社員全員でshareします。バンドでしたら、10年後に必ず、武道館のステージに立つと目標を掲げ、そこに至るまでの物語を細部に渡って(ディティールにこだわることがキモです)作り込み、これをバンドメンバーやファン、関係者の全員で共有します。

 佐藤さんは、同志社の神学部に入学してから、神学を学び始めて、今に至るわけですが、神学的な思考ができるようになったのは、40代の半ば過ぎからだったそうです。入門課程で9年、専門課程で15年の最低24年はかかると仰っています。まあしかし、24年学んでも、普通の人は、そう簡単に神学的思考には、入り込めないと推定しています。キリスト教神学は、容易に人を寄せ付けない、巨大な壁です。そんな朱子学的な正攻法は、さておいて、陽明学的にアクションを起こし、キリスト教のシステムを、ちゃっかりぱくってしまえば、それっぽくなります。何ごとも、形から入る、これが鉄則です。

 ところで、GMOインターナショナルは、暗号資産(ビットコイン)のマイニング(採掘)にも取り組んでいます。ビットコインは、2018年に580億円流出事件が起こって、暗号資産は、何ら裏付けのない仮想のものであることが、世間一般にも明らかになりました。多くの業者が、ビットコインから離れましたが、熊谷さんは、ビットコインは定着すると考え、本格的に事業化しようとします。通貨の仕組みは簡単です。要はその通貨を、人が信用するかしないかです。人が、金(ゴールド)を信用しなくなれば、金の価格は一気に下落します。金色のぴかぴか光る、単なる石に過ぎません。金への信頼が、金の価値を保っているんです。ビットコインを多くの人が、信用すれば、通貨として価値を持ちます。仮想通貨は、複雑な仕組みで、上限が限られているので(そういう意味では金と同じです。金だって地球上に存在する量は限られています)将来のある時点で、流通している通貨とストックされている通貨の総量、つまりマネーストックの量が確定してしまいます。理論的に、超ド級のインフレーションは、起こり得ません。各国が、金本位制から離脱したのは、通貨の発行量を、金の保有量で制限されたくないからです。紙の通貨は、いくらでも発行できます。

 ビットコインのマイニングは、大量の電気エネルギーを必要とします(マイニングの仕組みは複雑で理解できてません)。人がビットコインを信用するなら、ビットコインは価値を持ちます。が、マネーストックが限定されているので、中央銀行が、オープンマーケットオペレーションのような金融政策によって、通貨の流れをコントロールすることは、困難です。そもそも、暗号資産は、通貨ではありません。が、このコントロールできないものを、おそらく政府(中央銀行)は、権力を使って手に入れ、コントロールしようとする矛盾に向かって行くだろうと想像できます。

 暗号資産の問題ひとつを取り上げても、未来はまったく予測不可能です。最終的に信頼と正義を礎にして、人類は生き延びて行くしかないと思いますが、前途は多難です。インターネット時代になって、問題の複雑さ、困難さは、さらに増大して来たと感じています。

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