世#11「キングダム」

   「たかやん世界史ノート⑪」

中間試験の世界史の答案を見ました。かなり数の生徒が、「キングダム」について書いていました。かつて、三国志ゲームがブームだった時よりは、数は少ないんですが、キングダムも、間違いなく一定数の熱心なファンがいると、改めて理解しました。
 キングダムについて、生徒が初めて書いて来たのは、今から、7、8年前です。
「ニシモリさんは、ルーツ世界史の先生なんだから(その頃は世界史ではなく倫理を教えていました)キングダムは、必須です」と、生徒はアドバイスしてくれました。が、世界史が本業の私は、三国志に関して、教科書ではせいぜい二行くらいで、さらっと流していると云う事実を知っています。解説が詳しいと定評のある山川出版の「詳説世界史B」の教科書にだって、関羽や張飛はおろか、あの偉大な諸葛亮孔明の名前すら、掲載されていません。教科書に印刷されている三国時代の地図には、古戦場として赤壁と五丈原の地名は入っていますが、何ら説明されてません。「What's Sekiheki ?」「What's Gojogen?」って感じです。三国志ゲームを軽く、500時間くらいはやったと云う生徒は、ザラにいました。最長の生徒は1200時間でした。500~1200時間も三国志に費やしてくれたのに、教科書の記述が、わずかに二行で、本当にゴメンナサイと、山川出版になり代わって、教科担当の私が、取り敢えず、謝罪していました。キングダムも、事情はまったく同じです。「秦は前4世紀に商鞅の改革で国力をつけ」(と前フリがありますが、ここはキングダムとは直接的には無関係です)、「東方の6国をつぎつぎに征服して前221年に中国を統一した」と、わずか一行足らずで、簡潔にまとめています。わずか一行のために、あの膨大な量のマンガを読むなんて(60巻まで刊行されていて、秦はまだ一国も滅ぼしていません)費用対効果が、悪すぎます。
 7、8年前は、アニメを見ていました。部活で使っている地学室に、プロジェクターを持ち込んで、PAシステムで音を出し、昼休みに主に部活の生徒たちと一緒に、「ラブライブ!」(μ's編)を見ていました。アニメ「けいおん」も見ました。「魔法少女まどか☆マギカ」を見始めてから、本格的にアニメに、嵌(は)まりました。「サイコパス」「攻殻機動隊」「鋼の錬金術師」「シュタインゲーザー」などを見たあと、エヴァンゲリオンのテレビ版、劇場版、マンガにいたるまで、ずぶずぶと嵌まって行きました。「キングダム」とか「封神演義」と云った中国系マンガは、取り敢えず、不要不急でした。
「キングダム」を、あの頃、見てなかったツケが、今、回って来たと云う気もしています。江戸の敵を長崎で討たれてしまった、そんな感じもしています。今年は、主に中国史を教えています。どっかでツケは、払わなきゃいけないし、今回は、キングダムを読みます。60冊を一気に読むと云う訳にも行かないので(今、Sex and Cityと云うドラマを見てノートを書いているので、キングダム沼には、嵌まれないんです)、step by stepで、少しずつ読みます。
 エヴァンゲリオンは、聖書外伝のような書物から、アイデアを引っぱり出して来ています。「魔法少女まどか☆マギカ」は、復活とか、再臨、最後の審判と云ったキリスト教的な概念が、ある程度、理解できてないと、イミフなアニメになってしまいます。私は、哲学、思想が好きなので、中国でしたら、宋学や陽明学をコンセプトに使って、マンガなりアニメなりで、今の人にアッピールできる世界観を構築してもらいたいと思っています。三国志やキングダムが、これだけ人気をさらっているわけですから、中国が題材であっても、コンテンツがすぐれていれば、間違いなく、支持される筈です。
 高校時代、私はヨーロッパの19世紀の作家の翻訳小説を読んでいました。フランスだと、バルザック、スタンダール、ゾラ。ドイツは、ゲーテとヘッセ。ロシアはドストエフスキーとチェーホフです。ずぶずぶ嵌まったのは、ドストエフスキー。暗い所に、どんどん引きずり込まれてしまいます。キリスト教的な救いが担保された状態で、ドストエフスキー沼に嵌まるのが、あるべき姿だろうと思います。が、キリスト教とかの救いは、日本人の場合、そう簡単には、担保されません。もっとも、ドストエフスキーが、本当に判るなんてことも、実際にはまずないので、担保されなくても、無事、青年時代の疾風怒濤をやり過ごせ行けると云う風なことも言えます。
 中高時代、中途半端に要領良く過ごすよりは、何かに嵌まって、eccentricに日々、過ごした方が、その後の人生は、ゆたかになると思います。私は、中学時代は音楽に、高校時代は、翻訳小説に嵌まっていました。もっとも、高3は受験勉強をしていました。人生で一回、1年間くらいは、受験勉強に嵌まることも大切です。まだ、充分に嵌まりきってない高3生がもしいたら、11月~2月の4ヶ月弱は、完膚なきまで徹底的に、受験勉強に邁進して欲しいです。
 受験勉強に専念していても、change upするために、音楽を聞くブレイクタイムは必要です。私は、中間試験の採点中、「Trainspotting」のサウンドトラック盤を聞いていました。Iggy Pop、Brian Eno、Primal Scream、New Order、Lou Reed、Under world等々、大物アーティストたちが、ミニマルミュージックのような渋い楽曲を、聞かせてくれます。採点の後半は、Iggy PopとPrimal Scream、New Order、Lou Reedのアルバムを、CDラックから取り出して、聞いていました。生徒が書いている作文に、コメントを書くんですが、道徳的なことや、規範意識を向上させる的なことを書く気持ちは、1ミリも持ち合わせてないので(これは昔から同じです)気軽に、おしゃべりしているような軽いノリで、書き綴っていました。哲学や思想的な話題も、好きなので、重たい話も嫌いではないんですが、それはやはり、場の状況を弁えて、語るべきネタです。少なくとも、コメントで書くようなことではありません。
 生徒が、くるりの「琥珀色の街、上海蟹の朝」と云う曲について書いていました。上海蟹の存在は、小林秀雄のエッセーを読んで知りました。秋口になると、クリークに上がって来るそうです。その上海蟹の味噌を、饅頭の中に入れて、揚州あたりの茶館では、秋の朝、食べるのだそうです。これは、酢にひたして食べます。
 ガタイの良さには騙されるんじゃない
 お前と一緒で、皆弱ってる(くるり)
 皆、弱っているからこそ、朝、せぇーのーで、一緒に饅頭を食べて、元気をつけようとするのかもしれません。

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