自#470「小2病的な素朴な感情をkeepし続けていた方が、人生は起伏に富んでいて、fantasticだろうと想像できます」

          「たかやん自由ノート470」

 トロヤ戦争の原因となったのは、パリスの審判です。世界で一番美しいのは、誰なのかをパリスが判定をします。ルーベンスの著名な「パリスの審判」の絵を、高校生の時に画集で見ました。正面を向いているのはパラスアテナだけで、ヴィーナスは横顔、ヘラは後ろ姿です。髪は三人とも、きれいに結い上げていて(編み上げていると言うべきかもしれません)気品があります。が、この三人の内、誰が一番、美しいかとか、とても決められないだろうと、普通に思います。結局、パリスは、三人のそれぞれが提示してくれた、賄賂の内容を勘案して、ヴィーナスに、世界で一番美しい人がもらう筈の黄金のリンゴを手渡します。
 別段、一番じゃなくても、二番でも、三番でも、あるいはびりっ子の方でも、全然、構わないような気がします。が、それは大人の知恵、分別を身につけてしまったから言えることで、小2くらいのboy&girlたちでしたら、クラスで一番勉強ができるとか、No1サッカーが上手いとか、一番みごとにピアノが弾けるとかってことは、とても大切なstatusで、簡単には譲れない大問題です。私は小2の頃、同級生の誰よりもハーモニカが上手に吹けるという、自信がありました。ピアノを習えるような家庭環境ではありませんでしたし、木琴のような打楽器系は苦手でした(中1の頃、ようやく自分にはすぐれたリズム感は備わってないとはっきり認識しました)。ハーモニカが、同級生の誰よりも上手く吹けるという、ささやかなプライドが、小2の私のアイデンティティを、支えていました。小4の時、ハーモニカを吹きすぎたことも、ひとつの原因だったと思いますが、気管支炎になりました。が、小4の頃は、ハーモニカがNo1などというプライドは、もうどうでもよくなってました。人間が、何のために生きているのかを、自分自身に問い詰める、形而上学を好む子供に、いつの間にかなっていました。形而上学につかまってしまうと、クラスのNo1とか、No2とかは、些事になってしまいます。
 オリンピックが始まりました。日本選手が、金メダルだと超嬉しい、銀でも満足、銅でも努力は認める、入賞しなかったら「この4年間、一体、何やってたんだ」と責任を追及する・・・なんてことは、まったくありません。金でも銀でも銅でも、入賞しなくても、全然、気になりません。世界のすぐれたアスリートが、超人的なプレイをするのであれば、それは見てみたいなとは思いますが、順位は正直、どうでもいいです。
 順位にこだわらないのは、上を目指すという上昇志向がないからです。順位にこだわるのは、小2くらいの荒削りで素朴な感情です。が、小2の頃のこの感情を持ち続けていた方が、人生はより起伏に富んでいて、ゆたかなものになるとも思えます。
 オリンピックで金メダルを取ると、本気で願うのは、小2くらいの頃です。オリンピックに限りません。マイケルヴェントリスが、エーゲ文明の線文字Bを解読しようと考えたのも、シュリーマンがトロヤの発掘を決意したのも、ライト兄弟(兄)が、空を飛ぶことを夢みたのも、小2の頃です。小2病と言ってもいいと思いますが、ノーベル賞レベルの大発見をしたり、オリンピックで金メダルを取ったりする人は、小2病をkeepし続けて、夢に向かってdirectに突っ込んで行った人たちだと、多分、言えます。名門大学(スタンフォードとかマサチューセッツ工科大学レベルの名門です)のドクターコースに進学した人が、「いっちょ、ノーベル賞でも狙ってみるか」などと云う大器晩成型のパターンは、100パーセントあり得ません。
 イリアスのどこが面白いかというと、小2病をこじらせまくりの人たちが、怒りや友情、怖れや勇気、愚かさや知恵、別離や忍耐などに、完膚なきまでにふり回され、その人間性の喜怒哀楽を、ゆったりと高い調子で、謳い上げているという点にあります。イリアスは、ロゴスでは動いてません。人はパンのみにて生くるものにあらずと、イエスを言ったんですが、人は、ロゴスだけで生きる存在ではありません。イリアスの登場人物が、生き生きと活躍するのは、高尚な思想や哲学ではなく、素朴な感情に突き動かされて、おおらかに素直に行動するからです。
 トロヤ戦争のそもそもの原因は、誰がNo1美しいかということに、こだわったからです。で、ギリシアで一番美しい女性をプレゼントするという賄賂に惹かれて、パリスはヴィーナスに、黄金のリンゴを手渡すわけですが、No1になれなかった、パラスアテナもヘラも、このことを根に持ちます。ですから、トロヤ側をヴィーナスが加勢し、ギリシア側をパラスアテナとヘラが、支援すると云う図式になります。いつまでも根に持って、恨み続ける、如何にも、小2っぽい感じです。
 そもそも、この黄金のリンゴは、ペレウスとテティスの結婚式に、招待してもらえなかった争いの女神エリスが、結婚式の宴席に投げ込んだんです。結婚式に呼んでもらえなかったから、ひがむ、これも限りなく小2病的です。
 イリアスのオープニングは、アキレウスがめっちゃ怒っているsceneから、始まります。それは、アガメムノンに女を取られたからです。アキレウスは、怒りに駆られて、アガメムノンを殺そうとします。が、さすがにギリシアNo1の英雄が、ギリシア軍の総大将を殺してしまったら、何もかもがめちゃくちゃになります。すかさず、パラスアテナがやって来て、アキレウスを諫めます。神々の命令は、絶対です。神々は、気まぐれで、道徳的にもいろいろ問題ありですが、人間は、神々に従わなければいけません。神々に素直に服従するということで、人間界の秩序は保たれています。アキレウスは、アガメムノンに危害を加えることは、差し控えますが、その後も、怒り続けていて、戦場には出向かなくなります。
 トロヤNo1の英雄のヘクトールは、優等生です。両親にも、パリスと駆け落ちして来たヘレネにも、トロヤ市民にも、部下たちにも、全方位、気配りできます。アキレウスは、気まぐれで、喜怒哀楽が激しく、普通の会社でしたら、正直、最悪の上司です。普通の会社の上司として、望ましいのは、断然、ヘクトールの方です。が、戦争となると違います。アキレウスもヘクトールも、どちらも英雄ですが、両者が争えば、間違いなくアキレウスが勝つと、確信できます。戦争をするとなると、戦争に特化したインヴィンシブル(負けない)指導者が必要です。当然、部下は、インヴィンシブルな指導者に、命を預けて、ついて行きます。 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?