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自#164|ワイルドサイドをほっつき歩け・・・その①(自由note)

 ブレディみかこさんが、お書きになった「ワイルドサイドをほっつき歩け」と云う、ドキュメンタリーなのか、エッセーなのか、物語なのか、ちょっと見定め難い本を読みました。全部が、リアルだってわけでは、多分、ないと思います。かと云って、盛りまくりってことでもありません。英国が、現在置かれている状況は、かなりシビアで、行き詰まっていると推測できますが、そういう風に行き詰まっているとか、救いがないと云った視点では描かれてはいません。wild sideには、いつだって、自由でさわやかな風が吹いていると云った、明るくポジティブなノリで、ワーキングクラスのおっちゃん、おばちゃんたちのことを、お書きになっています。

 昨日の新聞で、中古厨房機器販売会社社長の森下篤史さんのインタビュー記事を読みました。森下さんは、「人は機会を得ればいつかは良くなって行く」と考えています。つまり、性善説です。ところで、森下さん自身は、仕事が好きで、がむしゃらになる性格です。が、みんながみんな、そうだとは限りません。そこで、パートさんも含めて、全員に、「マイライフシート」と云う自己申告書を書いてもらって、それを基に全員と、個人面談をすることにしました。何と、時間は一人当たり1時間です。1時間あれば、まとまったひと塊(かたまり)の話をすることが可能です。毎日、一人ずつ面接して、2年間、かかったそうです。つまり、従業員は、全部で、750人弱くらいいます。

 森下さんは、仕事を通して成長したいと云う人は、1~2割しかいないと理解しました。全体の内、2割がガチで仕事をしていて、会社に利益を生み出していると云う法則があります。これを、パレートの法則と言います。学校のクラスの行事とかも、まあそうです。体育祭にしても、文化祭にしても、全体の2割以下の幹部の生徒が、本気になって動いて、全体を回しています。8割は、正直、ついて来ているだけってとこがあります。が、ついて来てくれる8割がいないと、全体は、機能しないんです。

 森下さんは、仕事を通して成長したい本気の方は「激流コース」、夕方5時の定刻には退社して、大過なく無事勤めたいと云う方は「菊水コース」(早く帰って、菊に水をやると云う意味です)と、2グループに分けて、従業員に、各人の意志で、コースを選んでもらいます。激流コースが、やっぱりきついなと感じたら、いつでも菊水コースにchangeできます。逆に、頑張りたいと火がついた人は、激流コースに移ることが可能です。人生には、頑張れる時期と、or notな時期とがあります。頑張れる時期は激流コースで自己のキャリアを磨き、頑張れない時期は、菊水コースで、まったり暮らせばいいんです。隣の芝生が青く見えたら、他の会社に転職するのも、無論、ありです。で、何年たっても、戻って来れるように、入り口を開けて待っているそうです。

 中古厨房機器販売会社と云うのは、ある種の隙間産業で、大手が参入しにくい、安定した会社だと推測できます。本格的なAI時代がやって来ても、生き残れそうな会社です。

 同志社大を卒業して、金融保険系に就職した教え子(女の子)がいます。京都の座布団屋さんも、就職候補のひとつと考えていたと彼女は、言ってました。神社やお寺のとかのために、高級座布団を作って販売している会社だそうです。神社やお寺も、AIに仕事を奪われることはないし、おそかれ早かれ、AIに代替されてしまいそうな金融保険系より、座布団屋の方が、安定していて、将来性があったのかもと思ってしまいました。かつて、着物の着付けを教える学校に就職した教え子(男の子)がいました。着物の着付けも、AIは、代替できません。あっちこっちにニッチな隙間系の会社があって、日本の企業社会は、UKほどは(全体として)blackではないなと云う気はします。UKの会社の多くがblackなのは、移民が低賃金で働くからです。低賃金で働く移民に仕事を奪われてしまうので、ブレグジット(イギリスのEU離脱)と云う事態が起こってしまったと、大雑把には言えると思います。

「ワイルドサイドをほっつき歩け」の本のカバーに、ベルベットアンダーグラウンド&ニコのデビューアルバムのジャケットに描かれているような、バナナのイラストのTシャツを、ジャケットの中に着たおっちゃんが、手を広げて立っている姿が表現されています。バナナの下には、sparkling joy(火花が飛び散るような喜び)と云うメッセージが書いてあります。スキンヘッズの初老のおっちゃんが、日々、火花のような喜びを感じながら、生きていると云う意図で、このイラストは描かれているのかもしれません。ちょっと語尾は、違うんですが、この用語は、spark joyと云う熟語で、本文の中に登場します。意味は、同じです。この用語は、「Konmary~人生がときめく片づけの魔法」のDVDの映像の中で、使われています。spark joy、火花が飛び散るような喜びを感じないものは、全部、捨てろと、Konmaryが、ご託宣を垂れているんです。

 書名は、ルーリードの「Walk on the wild side」から思いついたそうです。この曲は、ルーリードの代表曲です。wild sideは、エミリーブロンテが描いた「嵐が丘」のヒースクリフとキャシーが、丘の上の秘密の岩に向かって歩いて行ったような、山の斜面の険しい道ではありません。そこかしこに薬(ヤク)の売人や、ポン引きの娼婦が佇(たたず)んでいるような、ヤバい裏街道のことです。音楽を通して、ドストエフスキーの世界を表現したいと豪語していたルーリードの音楽は、決して、明るいものだとは言えません。ヤバくて暗い裏街道を、ほっつき歩いているような気分に浸らせてくれます。

 そんなダークな裏街道は、この本の登場人物は、誰一人、ほっつき歩いてはいません。過去においても、ほっつき歩いていたとも思えません。看板に偽りが、ありまくりです。が、そこがまあ、イギリスっぽい、ジョークだし、ユーモアだとも言えそうです。

「絶望してる暇はない」と、おっちゃんが言い放ちます。絶望できるのは、衣食住足りて、生活に余裕があるからです。Living for today、その日を、しのぐのがせいいっぱいの最底辺の人には、絶望している余裕はありません。ヤバめのおっちゃん、おばさんが、沢山、登場しますが、誰一人、自殺してません。日本の高齢者よりも、UKのおっちゃん、おばちゃんたちの方が、はるかに逞しくて、したたかだと、この本を読んでいても、UK音楽を聞いていても、感じてしまいます。

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