自#227「霊を慰めるために、花火を打ち上げるのは、やっぱりありかな・・・と」

「たかやん自由ノート227」

生徒に勧められて「キングダム」を、毎週5冊ずつ、吉祥寺のツタヤで借りて来て、読んでいます。高校時代、中国史の本を読んでいて、戦国の七雄が争っていた頃、秦と趙の長平の戦いの時、秦が投降した40万人の趙軍の兵を、ことごとく穴埋めにして、殺したと云う事実を知りました。この戦いは、互いに総力戦でしたから、40万人と云う数は、さほど誇張ではないと推測しました。穴は、わざわざ掘ったわけではなく、黄土地帯ですから、水蝕によってできた穴が、10キロくらい延々と続いていて、そこに追い込んで、土を盛って、殺した様子です。当時、私が住んでいた高知市の人口が、20万人でした。高知市の人口の2倍を、一気に殲滅してしまったわけです。

 長平の戦いは、秦は名称の白起将軍を起用します。魏の名将は廉頗将軍ですが、賢君であった恵文王亡き後、子の孝成王によって、廉頗将軍は、引退させられています。権力を握った若い王にとって、父親の代の名将軍などは、老害だと見えてしまうのかもしれません。孝成王は、若手の趙括を大将軍に任命します。宰相の藺相如は
「趙括は、兵書は読んでいますが、実戦の経験はないので、変に応ずる処置を知りません」と諫めます。が、権力を持ったtopの人間は、往々にして、根拠のない自信を持ち、自分の考えが、絶対に正しいと思い込むものです。凡庸な王が登場すると、佞臣しか出てこなくなり、国はたちどころに危殆に瀕してしまいます。キングダムが、ビジネス書として、読まれているのは、日本にはいまだに、凡庸でわがままなトップと、それを取り囲んでいる佞臣のような幹部のいる、旧態依然とした、アンシャンレジームな会社が、いっぱいあって、キングダムの描写が、けっこう、あるあるだからってとこも、きっとあります。と云うか、本当にすぐれたリーダーやトップには、まずめったにお目にかかつたことがないと云う人の方が、多いかもしれないと、私は想像しています。

 私は、割合、霊感は強い方だと、自覚しています。4年くらい前、白馬のホテルに夏合宿に行った時、ホテルの別館の裏側の廃棄資材などが置いてある空き地の付近で、負のオーラを感じてしまいました。水たまりの水が、淀んで腐っています。人が死ぬのは、こういう場所だろうなと思いながら、その負のオーラの漂う空き地で、毎日、読書をしていました。帰る前の日の夜は、花火を実施します(これは恒例です)。ホテルのマネージャーは「本館の横の広場で、花火を行って下さい。バケツとチャッカマン、ゴミ袋は用意しておきます」と言ってくれました。私が、「別館の奥の空き地だと、ダメですか?」と聞くと、「いや、ダメってことはないですが…」と、妙に奥歯にモノが挟まったような言い方をしました。「じゃあ、空き地でやります。ちゃっちい花火ばかりなので、資材に燃え移ったりとか、絶対にないので、安心して下さい」と、マネージャーに伝えました。

 夜、空き地に集まって来た生徒たちは、「本当にここでやるんですか。水、腐ってますよ」と、こぼしていました。が、廉頗将軍をリタイアさせた孝成王のように、私もわがままなので、「いや、ここだ。ここでやってくれと、そのヘンで(資材置き場の横あたり)誰かが訴えているんだ」と、生徒の反対を押し切りました。花火は、楽しかったです。20連発とかのハデな花火もありましたが、口に花火をくわえて走り回ると云う、例年、必ずやんちゃな男子がやる危険な行為もなく(そこらの水たまりで水が腐っているので、走れなかったんです)無事、終了しました。

 合宿に同行していたOBの一人が、合宿から帰って来て、数日経過した頃
「先生、どうもあのホテル、事故物件らしいです。先生には、言ってなかったんですが、深夜、オレたちが空き地に一番近いスタジオで、練習をしていたら、電源を入れてないJC(ローランドのアンプ)から、悲鳴が聞こえて来たんです」と、電話で私に伝えました。旅行会社を通して、ホテルに、どこで人が死んだのかと問い合わせると、どうやら空き地の資材置き場の横あたりで、前の経営者の時代に、首つり自殺があったようですと云う、回答が戻って来ました。やっぱりあそこだったんだと、納得しました。つまり私は、花火を強引に行って、彷徨える霊に、送り火的なイベントを実施してあげたわけです。

 死んだのが、一人だったので、花火の送り火で、霊を慰めることができたわけですが、40万人となると、正直、誰がどうすることもできないような気がします。少なくとも、百年くらいは、負のオーラが、一種の瘴気のようなものになって、立ちこめているような気がします。戦場の長平だけでなく、魏全体に、負のオーラが立ちこめ、趙の人たちは、秦への復讐を、固く誓った筈です。後に秦の始皇帝となる政は、秦への復讐のオーラが趙ド級に濃い趙の国で、人質として過ごします。まさに、針のむしろってやつです。

 キングダムでは闇商人(古代から現代にいたるまで中国には闇商人がいます。中国のハッカー集団などは、国家公認の闇商人みたいな存在です)の紫夏に、政は、救い出されます。趙の国からも脱出させますし、政の魂も救い出してくれたと云う設定になっています。愛は地球を救う的なノリで、まあこれはこれで、いいかなとは思います。長平で、40万人を殺した責任は、本当は政にはありません。そもそも、長平の戦いの時、政はまだ生まれてません。が、趙のうらみ、つらみ、ルサンチマンを、秦王になった政は、どうしても背負わなければいけません。

 やられたらやり返す、これはハムラビ法典以来(いやもっと前のシュメール法典以来)の鉄則です。当然、趙はやり返して来ます。やり返された秦は、さらにそれの倍返しをします。やられたらやり返すを、続けていたら、人類は(この場合、中国はですが)最終的には滅亡します。やり返さないためには、中国を統一する必要があります。このコンセプトを、政一人が考えたとは、正直、思えません。呂布韋、李斯、政の超モンスター級のキャラが、三人、たまたま同じ時期、同じ場所にいて、化学反応のように、中国統一と云うコンセプトが、打ち出されたんじゃないかと私は想像しています。

 政は、決して、凡庸な王ではありません。人間力も、政治力も、超ド級のレベルで備えた、すぐれた王です。そうでなければ、中国統一と云う偉業を達成することはできません。ただ、統一を成し遂げたら、目標がなくなってしまいました。功なり名を遂げてしまえば、人は、安直に守りに入り、凡庸なわがままな君主に、なってしまうのかもしれません。秦の始皇帝、隋の煬帝、唐の玄宗帝、などいずれも人生の後半戦は、残念な展開になってしまっています。が、まあ人間は誰しも弱いものなので、最後まですぐれた君主であり通すこと自体、ラクダが針の穴を通るよりも、難しいことなのかもしれません。

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