スノウマンズ
「早く──早く使い切らねえと!!」
ありとあらゆるものを買っても、全く無くならない。それがこんなに恐ろしいことなんて思いもしなかった。
俺はこれまで考えたこともない金の使い方を続けていた。ソープでランキングが上の方から片っ端から指名したり、これまで入ったこともない高級な寿司屋で吐きそうになるまで食ったり──それでも、預金額は無くならない。
むしろ増えるのだ。
夜の街も眠りだす深夜になっても、俺は新宿の一角を右往左往していた。焦っていた。タイムリミットはあと二日を切った。
「どうです、篠塚さん。順調ですか」
目の細い男だった。モノクロストライプ型のスーツを着て、同じ柄のヘアカラー。手にはなぜか算盤を持っていた。篠塚はひっと顔を引きつらせる。この男が俺をこの『地獄』に引きずり込んだのだ。
「うちの融資は如何ですか? 夢のようじゃありません? 使っても使っても無くならないなんて」
「うるさい! 聞いてねえんだよ! 使い切らねえと──死ぬなんて!」
男の融資を受けたのは間違いだった。競馬で手ひどく負けて、こいつに金持ちになりたいなんて言わなければ。
「大人しく『リボ払い』しましょうよ。そうしたら『命払い』も延期できますからあ」
男はそう言ってリボルバー式拳銃の描かれたカードを差し出す。ああ、畜生。こんなことに手ェ出さなきゃ良かった。
カードを手にした途端、焦燥感がかき消えて──俺は拳銃を持っていた。視界はクリアになり──光と共に羽を背負った人間──天使が降りてきたのが分かった。
「さあ、篠塚さん。これであなたも『スノウマン』です。契約条項は言わなくても頭に入ってますね?」
思考の中では悪態と一緒にルールが跳ね回っていた。リボ払いで天使を五体殺せば複利はストップ。十体殺せば命払いもチャラ。こっちが死ねば、悪魔が丸儲けだ。
死ぬ前に、こんな金使い切ってやる。
続く