歌舞伎町オーバーボディ
「それじゃあよォ、ワレそん外道を放ってノコノコ帰ってきくさったんか!」
若頭のライ太郎が、ぷに丸に怒りを示すように応接机を蹴りつけると、水晶製の灰皿が浮き上がった。ぷに丸は何も口を挟めず、ただエアポンプの音を小さく響かせながら、俯いて揺らいでいるばかりだ。デザイン的に顔のない彼だが、どうやら反省しているらしかった。
粗製濫造された着ぐるみ達に目をつけた日本政府は、安価な労働力として彼らに魂を定着させる外法に手を出した結果、着ぐるみによる犯罪行為の多発を許した。
魂の中には、すでに滅びた極道達が混じっていて、あれよあれよという間に生前と同じく、歌舞伎町は彼らの『シマ』と化したのだ。
「オヤジが弾かれてよ、なんの返しもできんで何が極道じゃコラ!」
「カシラ。まあ、その辺で……」
ニャン吉のとりなしにも、ライ太郎はイラついたようにタバコを口に挟んだ。もちろん吸うことはできない。それでも彼の意図を察して、ニャン吉はライターを口へ添えて火をつけた。
「どうせ箱根会の連中じゃ。まあ考えようによってみりゃあええ機会じゃろう。ニャン吉、ワレ男になって来いや。箱根の湯太郎を弾いてこんかい」
殺せと言うのだ。
ニャン吉は着ぐるみの中――握りしめた掌に汗をかいたのを感じた。
彼には中身がある。
そして目的も。
「最近のう……警察の連中はすぐ動いてくる。こっちの動きが読まれとるかもしれん。箱根会の連中も手入れを食ろうとるらしいけえの。ましてや相手の親分を殺ろうちゅんじゃ。先に動かんと潰されるで。今日の内に殺れや」
机の上に、着ぐるみ用にカスタムされた大型リボルバーが重い音を立て滑った。ニャン吉はじわり、と汗が滲むのを感じていた。
警視庁は、文字通り『中』から彼らマスコット極道をコントロールすることを選んだ。彼らの殺害すら厭わない覚悟で。
「関係なあですわ。……カシラ、湯太郎のガキ、ワシが殺っちゃりますけえ」
続く