相棒がいなくなった日

わたしの相棒が去ってから10ヶ月たった。Mと呼ぶことにする。Mは一回り年代が下だが、妙にウマがあった。これまで何人かとビジネス上のコンビを組んできたが頭ひとつ抜けて抜群に相性がよかった。約4年ほどビジネス上のコンビを組ませていただいた。地頭の良さと人当たりの良さはピカイチだった。そして誰に対しても優しい。どちらかというと、わたしがMから学ぶことが多くあったと思う。

Mとはビジネス上、さまざまな問題が生じると、それについてどのような打ち手が考えられるかを、二人でよく議論した。議論というより、お互い名探偵のようにビジネス上の問題解決について、持論を披露し合うことが楽しみであった。わたしの推理はこれまでの経験をもとに、この類型であれば、こうなっていくであろう、という筋書きが多かった。Mはわたしの持論を自分の推理にも取り入れて、掘り下げていくことに楽しみを見出していたように思う。

Mとは歩きながら会話することが多かった。やや遠目の立地にあるうどん屋で軽く食事を済ませてから、少し離れたカフェに向かうのが日課だった。Mは食後のカフェをとても楽しみにしていた。わたしもいつからか楽しみになっていた。カフェではスマホを眺めながら、ゆったりとした空間と時間を味わうことにしていた。そのカフェでは「ケニー・G」がよく流れていた。ソプラノサックスのといえば「ケニー・G」が代表的な奏者の一人になるだろう。東南アジアを旅するとよくホテルのラウンジ、レストランで流れている曲。まるで海外での休暇を過ごしているような、ゆったりとした時間はとても心地よかった。これがメリハリというものだろうか。長時間労働、常に慌ただしい環境にながく身をおいていたので、Mからは、あらためて働くことの楽しみ方と、リラックスの仕方を学んだと思う。緩急をつけることは、さぼりではない。

カフェから戻ると、Mは推理の証拠を見つけるべく、情報収集(聞き込み)を行い、情報をまとめると、真犯人、真相、真実、ファクトにたどり着いたことを嬉しそうに結果報告してきた。「捜査の基本は足を使え」を徹底している。足も使うし、手もよく動く。わからないことは自分で調べて、いつしか真相にたどり着き、ビジネス上の問題(事件)をスマートに解決していた。

とても穏やかな時間を過ごしながら、Mとのコンビで結果も出していたが、残念なことに2年ほど前にコンビは解消になる。詳しくは書けないが、わたしが新しい難題にチャレンジすることになったからだ。Mとのコンビで難題に取りかかれば、短期間でまとまったと思うが、難題を一人でまとめるのがわたしの課題であり、Mが入る余地がなかった。Mはまた別な難題を一人で背負うことになった。その難題もおそらく一緒にやっていたら早く解決できただろう。長年のコンビ解消を残念がる人もいた。

Mは人生の転機を迎えたことをきっかけに、海外で短いバカンスを過ごしてから去っていった。最後にゆっくりできたのはMにとってホントに良かったと思う。

Mが去ってから相棒がいない。当面、いや、もしかすると、これから先は相棒を持たずに、一人で全部こなすことになるかもしれない。仕方ないので一人で抱え込み、一人で判断することを続けている。

Mに感謝したいのは、Mがわたしに残した最大の贈り物についてだ。Mの思考パターンである。4年間、MからカフェでのOJTを受けて、学んで身についたとも言えるが、Mとの対話型の問題解決手法がわたしの中で確立している。「ケニー・G」の曲が流れる、あのカフェを想像しながら、Mならおそらくこういう持論を展開するだろうな、と考えながら、一人で想像のMと会議する。不思議とMが解決の道筋を示してくるときがある。

一人だが一人ではない。相棒とはいつものカフェで、さまざまな問題解決をいまも続けている。

これからもよき相棒でいてほしい。

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