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渡米45日目 作品を通じて仲間に出会う〜A Day in the Light〜

一週遅れてスタートしたFoudation of Image and Sound Prodction(撮影と音響制作)クラスも今日で4週目。今日の課題は先週鑑賞したRachel Rossinのインスタレーションのリフレクションペーパーで、すでに昨日の夕方には書き上げていたのだが、昨晩、今月末に放送されるある番組の確認や連絡などを進めていたところ、気がつけば24時の〆切を過ぎてしまっていた。急いでオンラインで提出したが、「Late Submittion」(提出遅れ)のマークがついてしまった。これで先日の監督クラスに続いて二度目だ。ちゃんと課題をこなしていたのに遅れてしまい、とてもブルーな気分になった。仕事と学業と家族の予定と様々な予定が重複しているので締切を把握しにくい状況もあるが、だったら尚更スケジュール管理に慎重を期すべきだ。気をつけよう。

今日のFoudationクラスでは、それぞれのクラスメイトがエマーソンに来る前に手がけた作品を事前に鑑賞し、お互いに意見交換する機会が設けられた。クラスは7人と少人数で、すでに映画祭に出品しているレベルの高い作品もあれば、まだ自分の表現スタイルを模索している実験的な映像作品もある。年齢層も僕は48歳と最年長だが、大学卒業後にすぐエマーソンにきた中国からの留学生もいれば、30代ですでに夫と映像プロダクションを立ち上げている経験者までいて、経験値も国籍も年齢層も幅広い。

僕は自分が一番最近手がけた10分の短編映画「A Day in the Light」を紹介した。これは、僕自身の体験談をもとに、同じく網膜色素変性症を患うカメラマンの主人公が、持つことを拒んでいた白い杖をついに手に取るまでのある一日を描いた作品だ。嬉しいことに、作品を見てくれたクラスメイトから絶賛の声が多く寄せられた。

「タカヤの作品は、様々な人生経験を重ねた上で描いていることもあるかもしれないが、物語の語り口が丁寧で、わかりやすいと感じる。私たちのように若いアーティストが手がける作品より奥が深く、伝わってくる気がする」

これまであまり親しくなかった若いクラスメイトからも、そんな意見がもらった。彼女は「ドライブ・マイ・カー」を手がけた濱口竜介監督の作品が好きだと話してくれて、僕の作品にも、どこか濱口監督の作品を彷彿させるところがあると言ってくれた。「寝ても覚めても」「偶然と想像」を含めて僕も濱口監督の作品は大ファンだ。黒澤明監督以来、日本人としてはじめてアカデミー賞と、カンヌ、ベネチア、ベルリンの世界三大映画祭の全てで受賞を果たしている監督でもあり、やはり憧れの存在でもある。そんな濱口監督を引き合いに出してもらえて、なんだかとても嬉しく感じた。

授業を終えて、大学のダイニングで昼食を取っていると、別の中国人留学生のクラスメイトがいて、一緒にご飯を食べることになった。彼らは日本のアニメや漫画が大好きで、そこから日本に興味を持って日本語を勉強していたりと、とても親日的で、僕が以前一人旅や仕事で中国各地を旅した話をするととても興味を持ってくれた。学生支援課を通じて登録すると大学のダイニングで毎学期20食分まで無料のクーポンがもらえるという情報をクラスメイトで何かと情報通のジェリーがシェアしてくれたおかげで、最近ダイニングを利用する仲間が増えたのだった。

15時半からデイビッドが前回に続いて大学の中のミニシアターを予約してくれて、新入生の仲間の上映を開いてくれて、今回はついに僕の作品も上映の機会を得ることになった。「A Day in the Light」を上映したところ、やはり反響があった。エンドロールで流れる「春風」も僕の歌であることに気づいてくれて、大きな拍手が沸き起こった。

「この物語は実際に、目に難病を抱える僕が花屋である男性にぶつかり罵られるという、非常に手痛い僕の実際の体験をもとに作られました。自分の個人的な体験がどれだけ他者に響くのか、この映画を撮ることで僕は映画の持つ主観的な視点(POV)を強さを実感しました。
僕は今ここにいるみんなは、これから先、おそらくこの大学を卒業してからも一緒に映画を撮る仲間だと思っている。だから今日は、作品を通じて新たに出会うことができて本当に嬉しいです」

上映が終わると、興奮も冷めやらぬ中、後ろ髪を引かれる思いで地下鉄に飛び乗り、自宅の最寄駅のブルックラインヒルズ駅まで向かった。今日の夕方からいよいよ次男がサッカーチームの練習に参加できることになり、妻は長男の塾の体験授業の対応があるため、僕が次男をサッカーに連れて行くことになったのだ。練習は17時半から一時間と短めだが、次男は目一杯芝生の上を走り回ってサッカーを楽しんでいた。僕はモスクワ出身のお父さんと世間話をしながら、その様子を眺めていた。

帰宅すると途端に睡魔が襲ってきてすぐに横になったが、同級生がその後もエマーソンの近くで暮らすルームメイトの部屋に集まって盛り上がっていて、これからカラオケに行く、みんなタカヤを待っていると連絡が入った。僕も先ほど映画の話を途中で切り上げて帰ってきたのも名残惜しく、22時すぎの電車に乗って、再びボストン市内へと向かった。

こちらのカラオケは、日本のような個室スタイルではなく、クラブやディスコに近いかもしれない。僕も初めて訪れたのだが、店の中央にステージが設けられていて、大観衆の視線と喝采を浴びながら思い思いの歌を歌うスタイルだ。やはり芸術学部のメンバーということもあり、芝居や音楽、パフォーマンスの経験がある人も多く、その表現力、エンターテイメント力の高さに驚かされる。

果たして僕にここで歌える曲はあるだろうか。僕は久しぶりにエルビス・コステロのSheを歌った。映画「ノッティングヒルの恋人」の主題歌でもある名曲だ。僕の「Love&Hate」をサブスクで聴いて気に入ってくれたというジェリーが、その様子をビデオに撮って送ってきてくれた。

帰りがけ、同じくブルックライン方面に住むアトランタ出身のアニーとグリーンラインに乗った。ブルックラインには素晴らしい劇場があり、今月ちょうど学生のメンバーシップを受け付けているのでぜひ加入してブルックラインに住む仲間と映画を見に行こうと誘われた。僕もクーリッジコーナーシアターはかろうじて歩いていける映画館で、ハーバードフィルムアーカイブやBrattle、Kendall、Alamo Drafthouseなどの映画館と並んで、その上映作品のラインナップの素晴らしさを聞いていたのですっかり意気投合した。今日という一日を通じて、また新しい仲間との親近感が増したのを嬉しく感じた。
DAY20231006金1319-1739−1759

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