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台湾の38歳IT大臣もコミットしている、東京都公式 新型コロナウイルス対策サイトをもっと褒めよう

この文章の目的
・東京都公式 新型コロナウイルス対策サイトそのものや、それが開発されたプロセスなどの背景の良さ、面白さを、エンジニアじゃない人に伝えたい。
・それにより、エンジニアの素晴らしさ、コンピュータの素晴らしさを感じて、「自分には何ができるだろう?」と考える人が増えてほしい。
GitHub上に公開された「東京都公式 新型コロナウイルス対策サイト」は危機が生んだ日本の奇跡ほか、先行する良い文章はあるけど、僕の文章は中国とか政治とかに関心ある人も読むだろうから、これまでそうしたものを読んだことがない人に届くと嬉しい。

きちんとした情報を早くわかりやすく出すことの難しさ

今回の新型コロナウィルス(正式らしいCOVID-19で呼びたいが、ここではサイト名と合わせて新型コロナウィルスとする)のように、刻々と状況が変化し、デマがパニックを起こすような事態では、
-信頼できる組織が
-迅速に
-わかりやすく
情報を出すことが求められる。実際は難しい。信頼できる組織には多くの承認プロセスがあって動きが鈍い。また、コンピュータやスマホの画面に表示されるわかりやすさは、情報を出す人が自分でシステムを作り、デザインをやらないと難しい。たとえば中国政府はデータを出すところまではできたが、サイトは作れなかった。そこで、Wechatを運営するテンセントほか、大企業がわかりやすいサービスを出した。それはすばらしい、褒めるべきことだ。直接一般庶民に届いて、わかりやすくてすぐ更新されるWebは、ニュース番組や新聞よりもはるかにすばらしい。

東京都はきちんとしたサイトを作った

東京都公式 新型コロナウイルス対策サイトは3/4にリリースされた。制作の音頭を取ったCode for Japan関さんのツイートを見ると、3/1あたりに開発を始めたようだ。

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このサイトは充分にわかりやすい。情報も頻繁に、少なくともテレビやニュースメディアよりも早く更新される。短期間に作ったもので、FacebookやGoogleみたいなものと比べられるようなものではないが、社会の役に立つすばらしいサービスだ。

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東京都のサイトは誰がどうやって作ったか

このサイトはCode for JapanというプログラマたちのNPO団体が発起人となって、それぞれボランティアのプログラマたちが、オンライン上で協力して作った。
このサイトのプログラムはGithub上で公開されている。Githubというのはプログラムの置き場で、エンジニアたちが共同作業するために使うサービスだ。wikipediaなどとちょっと似ているが、一つのシステムをみんなで協力して作るためのサービスだ。
A.「僕が英語版への変換機能をつけてみた。変換は機械翻訳だ」
B.「俺はそれを改良して、もう少し自然な翻訳をいくつかのページに追加した。自分の翻訳が間に合っていないところに、A.の機械翻訳が出るようにしている」
C.「スペルミスをなおしたよ」
のように、それぞれが協力作業をすることを助ける。たとえばそうした修正の際にバージョン番号を付加してくれる。

こういう協力には、
「どのようにプログラムができているかぜんぶ公開されている」(でないと原因の発見も修正もできない)
「その成果や成果物に対して、独占しない」(でなければ、見返りの分配や貢献のカウント方法、責任の所在などについて先に話さないと問題解決にかかれない)
という仕組みが必要だ。そういう仕組みがオープンソースだ。このサイトはオープンソース(MITライセンス)でつくられている。どのように要望がまとめられたり、修正がなされているかも、すべて公開され、誰でも参加(プログラマじゃない人も、たとえば、誤字脱字を直すとか)できる。
多くの人が未経験でも参加できるように、貢献の仕方サイト構築にあたっての行動原則もわかりやすくまとめられている。

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プログラム本体と同じぐらい大事な、そうしたルール作りや文章の洗練さなどは、Code for JapanというプログラマたちのNPO団体が、これまで活動してきた経験が反映されている。

オープンソースとはどういうことか

このサイトには誰もが協力できる。たとえば、多言語対応のうちの繁体字中国語は、よくメディアに載る台湾の38歳のIT大臣オードリー・タンが修正してくれている。

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日本にはこんな大臣はいないけど、この大臣が自ら書いてくれたプログラムが組み込まれたシステムが今も走っている。外国の大臣がちょっと協力してくれる、そんなコラボレーションは、オープンソースでなければありえない。
また、このサイトのコードは、他の自治体向けに提供が始まった。
東京都と同じフォーマットでデータを公開してくれれば、他の自治体も同じサイトを、プログラマなしで作ることができる。

東京都はどこがえらいか

こういうオープンソースの面白い仕組みは、世界のどこにでもある。難しいのは、既存のビジネスや社会の仕組みと「ちがう」ことだ。お役所は、こういう組織(かどうかも定義しづらいもの)と一緒にやりづらい。見積もりも出ない。契約期間などもよくわからない。入札みたいな仕組みも馴染まない。ほとんどの社会の仕組みは、関わる人であれ契約期間であれ、「何かを区切る」「何かを限定する」ことで成立している。だから情報が少ないが権限はある人が判断して失敗する間違いがよく起こる。オープンソースは真逆だ。
Code for Japanと東京都の間でどういうコミュニケーションが行われたのか、僕はよくわからないけど、Code for Japanと長くコラボレーションをして信頼関係を築いてきたのはえらいし、このサイトを「公式」としたのもえらい。

ハッカーは正しいことを雑にやる。スーツどもは間違ったことを綿密にやる。

僕自身は、オープンソースのやりかたが、それまでの社会の仕組みと「ちがう」ことを大事だと思っている。オープンソースのやり方に、課題があったらそれを自分で解決するやり方に、課題をオープンにして誰でもコミットできるやり方に、それまでの社会が合わせてくるほうが、世の中は良くなると思っている。世の中にはまだまだ伸びしろがあるのだ。
そして、ものを作る人や、「どんなものをどうやって作っているか」に興味を持つ人が増えれば増えるほど、その社会は良くなると思っている。
自分自身はこのプロジェクトにかかわってない(Code for Japan関さんをはじめ、関係者に何人か旧知の人たちはいる)し、公開から数日遅れていま慌てて気づいた程度の情報感度なので、間違いも含まれているかもしれないが、サイトと作った過程を今みて、自分も何かやりたくなってこの記事を書きました。

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