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2022年上半期注目の新人アーティスト25選 | abstract pop

2022年も早くも半年が経過しようとしているということに驚きを隠せない。年々時の加速度が増してくるこの謎の現象。どうやら〈ジャネーの法則〉というらしい。「主観的に記憶される年月の長さは年少者にはより長く、年長者にはより短く感じられる」という説らしい。全く説とは関係ないけど、毎年ディグればディグるほどたくさんの素晴らしい音楽に出会えるし、音楽の幅が年々広がっているな〜と気がします。
そんなどうでもいい話は置いておいて、毎年SNSでは恒例の上半期ベストをちらほら見かける時期になりましたが、音楽ブログ「abstract pop」では今年の上半期のリリースで注目の新人アーティストを25組を紹介しようかな〜と思います。かなり独断と偏見ですが、みなさんのディグにお役に立てたら嬉しいです。選んではみたものの、UK周辺の新人アーティストが多めになってしまいましたね。

Slaters

NY拠点に活動するプロデューサーAlex Craigと作曲家のAl Carlsonによるデュオ、Slatersがデビューアルバム『Everything All At Once Again』をFader Labelからリリース。彼らはRoy Blairの『GRAFFITI』のプロデュースをしたり、ClaudやJelani Aryehの楽曲なども手がけていたり、この界隈ではかなり知れた2人組です。なんだかんだTwitterで投稿したら話題になって、Spotifyの関連アーティストが日本人ばかりになってしまって驚いてますが…(笑)。
全体的なビートのプロダクションがしっかりとしていて、ハウスやテクノ、ダブステップ、レイブなどの多彩でダンサブルなビートに、ヒップホップ的なサンプリングアレンジや、IDM/アンビエント的なアブストラクトなサウンドを編み込んだ、ウィットに富んだ作品となっています。
サウンド・プロダクションは完璧に今のシーンの音なのに、どこか忘れかけた90年代のノスタルジアなダンスフロの匂いが仄かに香る音作りが凄すぎる。冗談抜きでアルバム全編いいです。まだ無名な彼らですが、何かのきっかけで引っ張りだこになること間違い無し。


Miso Extra

日本にもルーツを持つロンドン拠点に活動するアーティスト、Miso ExtraがとうとうデビューEP『Great Taste』をリリース。Arlo Parksのマネジメントを行うBeatnik Creativeから発表しています。彼女は各音楽メディアからも注目されていて、最近よくいろんな場所で見かけるようになりました。作品にはNiNE8コレクティヴにも所属する、Nayana IZがフィーチャリングで参加しています。
"Misoverse"と呼んでいる日本語と英語を駆使した斬新な歌詞に、ピッチアップやピッチダウンさせた歌声が行き来する、とても奇妙な世界観を作り出しています。気怠げで囁くようなフロウも非常に独特で、それに重なり合うようにオールドスクール的なトラックから、R&Bやファンクを織り交ぜたグルーヴィーな曲、メランコリックなエレクトロポップの曲など、アブストラクトなトラックもまた素晴らしいですね。ASMR的な音色の仕上がりも特徴的ですし、これからの活躍も非常に楽しみです。


Saya Gray

〈Dirty Hit〉 からいつも最高な新人アーティストしか出てこないよね。トロントから彗星の如く現れた次世代を担う、日本とカナダをルーツに持つSSW/プロデューサー/マルチ奏者、Saya Grayがデビュー作『19 MASTERS』をリリース。彼女は今までにさまざまなアーティストのサポートや、Willow SmithやDaniel Caesarの音楽監督としての活動を経て、今回のソロとして動き始めたそう。
今作は彼女自身の精神面での苦悩や、音楽業界の中に存在する有害性を作品の中に込めたとのこと。また今作自体、冒頭や作品の中の日本語のナレーションは彼女の母親、ギターは兄、トランペットは父親という家族総出での作品協力のもと制作しつつ、そのほかは全て彼女が手がけています。
音楽性自体はインディー、R&Bやソウル、ジャズ、ヒップホップ、アンビエント、ニューエイジなど、さまざまなジャンルを折り重ねた実験的な面を持ちつつも、しっかりとポップなサウンドに仕上げています。また音像は非常にローファイな質感で、それこそベッドルーム・ポップ的な部分も感じられます。全体的にアコースティックな響きが多く、ナチュラルかつミニマルにまとめ上げているのも彼女の才能かと。インタールードも含め、たっぷり19曲収録の作品ですが、1曲目から最後まで壮大な音楽の旅に出るような、没入感たっぷりな作品で最高です。


yunè pinku

マレーシアとアイルランドにルーツを持つロンドン拠点に活動するプロデューサー/シンガー、yunè pinkuが待望のデビューEP『Bluff』をリリース。世界の各メディアや日本からも期待されている新人アーティストとしてよく見かけるようになりましたね。そのきっかけとも言えるのが、以前この企画でも紹介したLogic1000の2021年の作品での客演がきっかけです。その他にもJoy OrbisonのBBCの番組でミックスを流したりと既にエレクトロニック・ミュージックシーンでは一目置かれた存在でした。
テクノやハウス、ダブステップ、UKガラージ、ブレイクビーツ、レイヴなどなどクラブミュージックのさまざまなビートを彼女独特のセンスで組み合わせ、淡く煌めきつつもメランコリックなサウンドに仕上げています。彼女のアンニュイな歌声も相まって、少し哀愁漂いつつ、多幸感溢れる魅惑的な作品となっています。またジャケットやビジュアルなどのデザイン性がY2Kっぽさがあるのもyunè pinkuの独創的な部分でもあります。去年からPinkPanthressやNia Archiveなど本当にUKのエレクトロニックミュージックの盛り上がりはすごい。


Nick Mono

個人的にはDominic Fikeが出てきた時以来の衝撃的な新人でした。ロンドン出身のSSW、プロデューサー、ラッパーでもあるNick MonoがデビューEP『The Sun Won't Stay After Summer』をリリース。すでにNMEなど各種メディアからも注目されているアーティストです。昨年リリースしたデビューシングル「Effy Stonem」がTikTokでバイラルヒットとなり、Loremなどに入ったりと、活動を始めてすぐに頭角を現していました。
幼い頃からMichael Jackson,やKanye West、Foo Fightersなどを聴いて育ち、ビジュアルなどにも影響受けたそうです。そのあとは自発的に Tyler, The Creatorや BROCKHAMPTON、Frank Oceanにとても影響を受けたそうで、そこからGarageBandで楽曲を制作していったとのこと。
やはり彼の音楽を聴くと近年のベッドルーム・ポップ・シーンと共振するような、前述したDominic Fike〜DijonやOmar Apolloのようなサウンドで、そこにKing Krule〜BakarといったUK土着の独自のエッセンスを加えた、彼にしか奏でることのできないような独創的な音楽に仕上げています。


Sarah Meth

サウスロンドン・シーンの中でSaint Jude周辺と同様に注目されているSSW、Sarah Methが新作EP『Leak Your Own Blues』を〈Slow Dance Recordings〉からリリース。やはりSlow Danceの目の付け所はすごいですね。
彼女の音楽は、幼少期から習っていたクラシック音楽や聖歌隊の影響が楽曲に現れており、そこにインディーやアンビエント、ゴスペルやR&Bを織り交ぜた、彼女の独特の少しメランコリックで幽玄なムードに仕上げています。まるで北欧の霞がかかった森林地帯に迷い込み、神秘的な体験をするような、そんなメルヘンな雰囲気も感じる音楽です。
またPortisheadやMassive Attackといったトリップ・ホップや、60~70年代のフォーク・リバイバル、その他Nina Simone、Tom Waitsなどに影響を受けたそうですが、他にもかなり音楽知識豊富な方だと、Fred Perryのインタビューを読むと感じますのでぜひ合わせて読んでみてください。


Willow Kayne

今年の期待の新人アーティストとして各メディアから注目を集めるブリストル出身、ロンドン拠点に活動するWillow KayneがデビューEP『Playground Antics』をリリース。
パンクやインディー・ロック、UKガラージやレイヴといったダンスミュージック、ヒップホップなど多彩な音楽ジャンルの組み合わせて鮮烈で中毒性の高いポップサウンドを生み出す彼女の音楽。そんなサウンドを得意とする彼女のルーツは、両親の影響があるようです。これまで出したMVのセンスもズバ抜けていますが、母親はMobyやThe Prodigyのビデオディレクションに関わっており(!?)、父親もかなりの音楽好きだったようでその影響でUKのダンスミュージックカルチャー、ソウル、ヒップホップなどに幼い時から触れていたとのこと。
彼女自身はTyler, The CreatorやSex Pistols、Gorillazの音楽が大好きなようで、彼女の音楽を聴くとそれぞれの片鱗を感じますよね。


Kumo 99

エレクトロニック・デュオ、Kumo 99が新作『Body N. Will』をリリース。彼らは、日本をルーツに持ちLAで活動するAmi Komaiと、〈Ninja Tune〉からソロアーティストShuttleの名義で出したり、元Passion Pitのメンバーという異色の経歴を持つNate Donmoyerによる2人組です。しかも彼らはApple WatchのCM楽曲にも起用されています。
そんなスーパーコンビの彼らが作り出す音楽はマジで最高の一言に尽きる。ボーカルのAmi Komaiの日本語によるアンニュイでエキゾチックなフロウに、Nate Donmoyeが作り出す様々なダンスミュージックビートに、パンクやハードコア、グリッチの要素も組み込んだ次世代のレイヴ・ミュージックを作り出しています。まるで近未来のダンスフロアにいるみたいで、UKガラージや2ステップ、ダブ・ステップ、レイヴ、ハウスなどを縦横無尽に行き来しており、楽曲によってその多彩なムードを存分に味わうことができます。


gabby start

もともとKnapsackというアーティスト名で活動。そこから名前を改め、gabby startとして2021年から活動再開。そんな新体制での待望のEP『luca』をリリース。ちなみにjacob geoffreyも作曲で「sydney」で参加。
Knapsackのときはもっとアコースティックやオーガニックな質感のベッドルーム・ポップサウンドでしたが、gabby startになってからの楽曲は、目一杯ポップな感じに振り切っているなという印象があります。インディーロックやポップパンク、ニューウェーヴ、EDMといったダンスミュージックなどあらゆるジャンルを横断した、輝かしいアンセムソングに仕上げています。やはりところどころ1975っぽい部分もあるのですが、それをベッドルーム・ポップのろ過装置に通した、まさにLaptop Rockと呼びたくなるような楽曲ばかり。そして全曲まじでエモーショナルなんすよね…。


Gretel Hänlyn

ロンドン拠点に活動するSSW、Gretel HänlynがデビューEP『Slugeye』をリリース。収録曲のM1,2,6がMura Masaがプロデュースで参加。ちなみにアーティスト名は、ドイツ人の大叔母と先祖のドッペルゲンガーという架空のストーリーにちなんで付けられたものらしい。
そんな幻想的な架空の名前のように、彼女の作り出す音楽は、幽玄でメランコリックな世界観を作り出しています。NirvanaやNick Cave、The Velvet Undergroundに影響を受けたという彼女は、ポスト・パンクやグランジ、ゴシック、アンビエントなどを巧みに組み合わせ、退廃的なムードの中に独特なオルタナティヴ・ロックサウンドを奏でています。さらに彼女の歌声は堕天使のように物悲しくも透明感のある美声で、その絶望の中にも神々しさを纏っているような声は唯一無二ですね。というのも彼女自身、10代の頃に横隔膜の筋肉を失う病気で入院したとのことで、一度は歌えなくなったそう…。そこから回復し、自分自身のボーカルスタイルを探究した結果、このような歌声になったそう。そんなストーリーも合わせて聴くとより彼女の歌声の素晴らしさがダイレクトに伝わるかもしれません。確実にスターになりますね。


Léa Sen

フランス出身でロンドン拠点に活動するプロデューサー/SSW、Léa SenがデビューEP『You Of Now, Pt .1』をリリース。2019年にロンドンに移り住んだそうですが、楽曲を発表してすぐにKwake BassやWu-Luの耳に入り、世界が広がって行ったそうです。そこから彼女は昨年のJoy Orbisonのアルバムに客演で参加したり、Nilüfer Yanyaのツアーに参加したりと、既に界隈ではかなり注目されているアーティストです。個人的にはOkay Kaya、Tirzah、ottaなどに続くような才能あふれる音楽家だと感じました。
そんな彼女の作り上げる音楽は、アンビエントやエレクトロニックミュージック、R&B、フォーク、インディーなど様々なジャンルを横断したもので、彼女の独創性あふれる音楽は驚きです。荘厳さや奥ゆかしさのある音像によってメランコリックでダークさを纏いつつも、アンニュイで優美な彼女の歌声が加わることで、一筋の光が見えるような希望も感じられるテイストに仕上げています。


Amie Blu

サウスロンドンからは本当に次々と新たな才能が出続けるにも驚きなのですが、そこから素晴らしいR&B系の新人アーティストを紹介しようかと。フランス出身でロンドンで育った、現在19歳のSSW、Amie BluがデビューEP『5 For U』をリリース。
その歳とは思えない落ち着きがあり、かつ成熟したソウルフルな歌声に一聴しただけで心奪われるかと思います。その天賦の才も感じる流麗で妖艶な美声に、クラシックなソウルから現代的なオルタナティヴ・R&Bをブレンドさせ、そこにジャズなどのエッセンスも加えた、ドラマティックで陶酔的なサウンドが最高ですね。


wylie hopkins

wylie hopkinsは、あまり情報はないアーティストで拠点など不明ですが、Porter Robinsonのプレイリスト「cherished music」にセレクトされたり、彼の開催したフェス「Second Sky Festival」にも出演したWavedashの作品の曲「Don't Fight It」で客演で参加したり、各所から注目されているアーティストです。そんな彼がデビューEP『On the Way Out』をリリース。
彼の奏でる音楽性は、Elliott Smith〜Alex G系譜のアメリカのSSWの柔和で郷愁を感じるサウンドに、1975のようなエモーショナルでポップなメロディーが絡み合う、繊細で美しいもの。最近のHolly Humberstone、James Ivy周辺とも共振するようなソングライティングセンスを持ったアーティストだと感じます。


Hamond

テキサスのヒューストン出身でLA拠点に置くアーティスト、Hamondがデビューアルバム『Pirate Radio』を、Pigeons & Planesのスタッフが立ち上げたレーベル〈No Matter〉からリリース。彼の音楽の原体験は、11歳ごろに姉に連れて行かれたPassion Pitのライブとのこと。そこから姉のススメでMGMTを聴き、The NeptunesやJustin Timberlakeなどのポップスやヒップホップにハマっていったらしい。もともとは祖父が交響楽団に入っていたらしく、クラッシックやジャズにも囲まれて育ったという素養もあります。
そんな音楽環境を経た彼の奏でる音楽が、エレクトロニック・ミュージックとインディーの間を漂うような興味深いものです。Vaporwaveっぽいノスタルジーな要素や、ダンスミュージック、サイケポップ、R&Bを織り交ぜた、淡く光り輝く美しい作品に仕上げています。
作品の名前にも刻まれているように、ところどころラジオっぽい世界観を醸し出していて、"どこか忘れ去られてしまったラジオ局から流れている楽曲"みたいな逃避行的な音楽性が個人的に最高なんですよね。Frank OceanやBlood Orangeみたいな部分も感じるし、Mk. geeやVegynみたいな雰囲気も感じられるんすよね。


Jeshi

イーストロンドン拠点に活動するアーティスト/ラッパー、Jeshiがデビューアルバム『Universal Credit』をリリース。客演にはObongjayarや、実の兄弟でもあるFredeaveを招いています。ロンドンの貧困地区で育った彼は、そこでのイギリスが現在置かれている現実や不平等、緊縮財政の中での生活やソーシャルメディアによって侵食される自己価値などを作品の中で表現しているとのこと。ちなみにタイトルの"Universal Credit"は、イギリスの低所得層向けの給付制度のことを指しています。今作のジャケットが、作品制作中に仕事を解雇されて、その際に彼が実際に"Universal Credit"を受け取ったときのものを表しているそうです。。
音楽的には、UKガラージ的なダンサブルなビートから、現代的な硬質なトラップビート、陶酔的なトラックまで幅広く今作で詰め込んでおり、そこに彼のアンニュイでクールなラップが乗る最高な作品に仕上げています。UKのグライムと、USラップのちょうど中間を縫うような、Jeshiの独特なフロウは、UKの中でも群を抜いており、唯一無二の存在だと感じます。


Etta Marcus

ロンドン・ブリクストン出身のSSW、Etta MarcusがデビューEP『View from the Bridge』をリリース。本作ではMatt Malteseが客演で参加しています。
まず彼女の魅力は、20歳とは思えないほど落ち着きのある美声です。少しハスキーで深みのあるアンニュイな歌声から、透明感漂う流麗な歌声まで、楽曲の展開に合わせて、その声色を変化させていく幅の広さには驚きです。音楽性もノスタルジアな雰囲気が香る、牧歌的なUSインディーのSSW系譜で、まさにJoni Mitchellから、現行のWeyse Blood〜Big Thiefまでを想起させるよう。デビューEPでこのクオリティー、今後期待の新人で間違いないです。


V.C.R

メンフィス出身で現在はLAで活動するマルチ奏者/SSW、Veronica Camille Ratliffによるソロプロジェクト、V.C.Rがデビュー作『The Chronicles of a Caterpillar: The Egg』をリリース。今作は客演でSudan ArchivesとPink Siifuが参加しています。バイオリニストやゴスペルシンガー、さらには文筆家など幅広い分野で活躍する彼女は、自身の音楽を〈cinematic soul〉と掲げ音楽を制作しているとのこと。
彼女の音楽は、その標榜に掲げる音楽のように、地球の大自然の力強さが体の芯まで伝わるような、ある意味"映画"のような壮大さを感じます。そのオーガニックさを形作る音楽は、R&Bやネオソウル、ゴスペル、ポスト・クラシカル、アンビエント、さまざまな民族音楽などそれぞれの要素を繊細に編み上げ、優雅で幻想的なものへと仕上げています。さらに彼女のシルキーでソウルフルな歌声も極上で、弦楽器や管楽器などの響きもアクセントとなっていますね。


LANNDS

フロリダ拠点に活動するRania WoodardとBrian Squillaceによるシンセポップデュオ、LANNDSが昨年のリリースしたEPに何曲かプラスした『lotus deluxe』をリリース。一聴するだけで音楽的背景の多様さに驚かされます。一言で表現するなら、Tame ImpalaとWashed Outがジャムった音という感じですかね。
シューゲイザー〜ドリーム・ポップ、サイケデリック・ロックや10年代のチルウェイヴ、ファンクやソウルといったブラックミュージックの要素も織り込んだ、シンセ・ポップに仕上げています。彼らの秀逸な部分は、踊れるようなグルーヴ、かつ夢見心地なメロウな音像を同居させたサウンド作りかなと。楽曲によっては、ベッドルーム・ポップ的なアプローチもしており、決して10年代のチルウェイヴ止まりではない、現代的なアレンジも素晴らしいです。


grouptherapy.

LA拠点に活動するJadagraceとSWIM、そしてTJOnlineによるヒップホップ・コレクティヴ、grouptherapy.が新作『Truth Be Told』をリリース。最近ではRejjie Snowの最新アルバム収録の「Disco Pantz」というTinasheも客演で参加している楽曲参加して話題を呼びました。
彼らの音楽は中毒性が高くて、現代的なトラップビートからUKガラージといったダンスミュージックのビート、90's香るブーンバップビートやR&B的なもの、インディーロックまで組み合わせた、多彩なトラックが最高です。そこに矢継ぎ早で力強いラップや気怠げで力の抜けたフロウ、そして甘美でソウルフル、そして妖艶な歌声など三者三様の個々の才能が重なり合って今までにない独創的な音楽に仕上げています。個人的にはBlack Eyed Peas的なカラフルなポップセンスに、BROCKHAMPTONのような現代的なエッセンスを組み合わせたような独自性がgrouptherapy.の特徴だと感じました。


Yumi Nu

NY拠点に活動するアジアにルーツを持つモデルでありシンガーである、Yumi NuがデビューEP『hajime』をリリース。モデルとして世界的にもかなり評価されており、数多くのランウェイを歩き、アメリカと日本の『Vogue』の表紙を飾ったことでも有名です。ちなみにSteve Aokiが叔父らしい。そんな彼女が発表した今作は、他人の判断に縛られない、世代間のトラウマから癒す、堂々とした存在感を示すといった彼女が何年も考えてきたモチーフを詰め込んだものとなっているとのこと。タイトルは彼女の祖母の人生の自伝的なものを読んだときの最初のページに"Hajime"という言葉を見かけてそこから取ったそう。
音楽的にはネオ・ソウルやR&B、ベッドルーム・ポップなどを織り込んだ、滑らかで落ち着きのあるサウンドに、彼女の妖艶で透明感あふれる美声が重なり合った極上のものになっています。水面に漂うような独特な浮遊感も最高です。特に彼女の神秘的で優雅な歌声は天にも召されるようなほど美しいです。


Lutalo

USのミネソタ出身、バーモントを拠点に活動するプロデューサー/マルチ奏者、LutaloがデビューEP『Once Now, Then Again』をリリース。彼はBig ThiefのAdrianne Lenkerのツアーに同行していて、そのポスターで彼を知りました。掘り下げていくとなんと、彼はAdrianne Lenkerと親戚関係というおもしろアーティストでした。ちなみにFleet FoxesのRobinの大ファンらしい。
そんな余談は置いておいて、それより彼の作り上げる、自然豊かで柔和で温かみを帯びたサウンドは最高の癒しですね。アコースティックギターのソフトな響きと、渋くもレイドバックする彼の歌声が混じり合い、まるで優雅な森林浴している気分になる作品に仕上げています。ほどよい電子サウンドやアンビエント、パーカッションなどが加わることで、作品の良さをより引き立てています。繊細で深みのあるサウンドですが、わざとざらついた荒い質感でまとめ上げているのも個人的に大好物。


Deyah

UKのウェールズ出身のラッパー/プロデューサー、Deyahが新作EP『HeART-Break NoTEL(THE FREESTYLES)』をリリース。彼女は2020年の「Welsh Music Prize」を受賞した実力者でもあります。個人的にネクスト・Little Simzだと思うほど才能にあふれたアーティストだと思っています。
彼女自身、幼少期から壮絶な人生を過ごし、クスリの中毒症にもなり、それを克服し、現在に至るという。彼女は今までの人生をリリックに落とし込み、現実的でありつつも希望や光を持たせたものを描いています。
そんなリリックをR&Bやネオ・ソウル、ジャズを織り交ぜた、メロウで少しメランコリックなトラックに乗せて、Deyahの低く渋いフロウで矢継ぎ早なラップが披露されます。さらに驚くべきことは、艶やかでソウルフルな歌声も彼女自身であること。この二面性を活かした唯一無二な音楽性も彼女の魅力だと感じます。


Congee

ノースロンドン拠点に活動するマルチな才能を持つクリエイター、Sam Tsangによるプロジェクト、CongeeがデビューEPをリリース。彼は今回の楽曲リリース以前からFred again..やSigridと制作を共にしたり、その他GriffやLucy Blue、Finn Askewとも友達的な付き合いだそうです。
彼の作り上げる音楽は、トロピカルかつファンキーなサイケポップな音楽を奏でていて、そこに少し気怠げでゆるいフロウのラップや、メロウで芯の強い親しみやすい歌声が絡み合うような楽曲です。
彼の母親は、中国で生まれ育ち、英語もわからないまま英国に移民。彼自身はイギリスで生まれ育ち、母国語は英語、母は中国語で、その言語の壁もありつつ、ときどき母親の口から「Be Alright」と聞くだけで安心すると彼は語ってまして、M2はその家族の絆や移民としての世代間の感覚などを表現したそうです。


For Breakfast

UKの新たな音楽シーンの道を切り拓いたblack midiやBlack Country, New Roadといったバンドが現れて以降、エクスペリメンタルな志を持つバンドが多く現れています。それこそ今年アルバムが話題となったcarolineやdeathcrashもそうかと思います。
そんな中でロンドンから7人組のバンド、For Breakfastが頭角を表し始めつつあります。彼らは先日新作EP『Trapped in the Big Room』をリリース。濃密で洗練された4曲で、彼らのすざましさを体感するのにうってつけ。
ポスト・ロックやサイケデリック、ノイズ、ジャズ、エレクトロなどを融合させた、カオティックな音楽性には驚きです。また楽曲の展開の緩急も素晴らしく、一聴すると散漫しているように聴こえますが、ハードな部分と緩やかな部分の計算された作りが本当にかっこいい。ブルートやサックスといった管楽器もアクセントとなっていて、彼らのバンドサウンドには欠かせない存在ですね。幽玄な奥ゆかしさもあるのに、その中でメラメラと燃えるマグマが常に爆発しているような。これはライブを見たいぞ〜


ceol baer

最後に紹介するのは、正直全くアーティスト情報ないのですが、おそらくアメリカのLAあたりで活動するSSW、ceol baerのデビューEP『R.T.T.S.』最高でした。プロデュースはなんとspill tabとのこと。
まず記名性のあるスモーキーで妖艶な美声に耳を奪われてしまいますね。そこにアフリカ音楽や民族音楽的なエキゾチックなサウンドやジャズ、ボサノヴァ、ソウルなどを織り交ぜたニューエイジ的な音像に仕上げています。
最近であれば、Arooj AftabやHope Tala、Laufeyとも通じるようなやばいアーティストだと思います。


いかがだったでしょうか?かなりボリューミーになってしまってしまいましたが、個人的にはかなり新進気鋭なアーティストをセレクトしたつもりです。今回セレクトしたアーティストの楽曲は下記のプレイリストにまとめてあります〜いいと思ってくださいましたら、ぜひこの記事シェアしてくれたら嬉しいです〜。


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