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Kara Jackson 鮮烈なデビュー作 / 味わい深い生音の奥に潜む、詩情豊かな"愛"を綴った1作

いつも「最高」とか「素晴らしい」とか使いすぎている本ブログですが、今回は本当に「最高」かつ、雷に打たれたような衝撃作を発表したアーティストを今回取り上げようかと思います。
おそらく音楽好きの皆さんもいろんな音楽を聴いていると、時にドカンと脳天に衝撃が走るような、今後30年後でも名作になり得るくらいのアーティストの作品に出会うことがありますよね。音楽性や歌声、そのアーティストが纏うカリスマ性、発信するメッセージ性など、それは多岐に渡るかと思います。今回の「雷に打たれた」というくらい驚きだったのは、歌声とそのアーティストがまとうカリスマ性です。個人的にはMoses Sumneyの2016年のEP『Lamentations』に出会った以来のものかもしれません。
そんなアーティストは、イリノイ州のオークパークという、シカゴから少し離れた町で生まれ育ったシンガー・ソングライター。Kara Jacksonのデビューアルバム『Why Does The Earth Give Us People To Love?』について記してみます。

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今作はJai PaulやMorMor、Orion Sunなどを擁するレーベル〈September〉からのリリースとなります。今作はシカゴ周辺の天才たちが集結したようなアルバムで、Sen MorimotoやKAINA、NNAMDÏがプロデュースやレコーディングで参加、そのほかNick Levine(a.k.a. Jodi / ex: Pinegroveのメンバー)やMacie Stewart、ELSZといった錚々たるアーティストが同じくレコーディングに参加しています。
そんな今作は2020年のコロナ禍という中で制作され、主に彼女の幼少期からのベッドルームで録音したとのことで、全体的にローファイで温かみを持った質感に仕上がっています。それを象徴するかのようにM1「recognaized」はカセットテープを入れる音からスタートします。ピアノと彼女の歌声というシンプルなもの。

M2「no fun/party」からKara Jacksonの本領発揮といったところでしょうか。アコースティック・ギターの深く沁み渡るようなアルペジオと濃密なストリングスという非常にシンプルなもの。そこに伸びやかでソウルフル、唯一無二な彼女の歌声が加わるだけで、一瞬にして音世界がガラリと変わる。そのくらいインパクトのある神々しい美声が身体を覆っていくよう。
Kara Jacksonはもともと"言葉"が非常に大好きだったようで、高校では"スポークン・ワード"のクラブや"スラム・ポエトリー"の会などに参加するようになったそう。そこからアメリカで開催された第3回目の”US National Youth Poet Laureate”を受賞する実績を持つほどで、彼女は音楽家だけでなく詩人としての側面も持っています。この曲では"愛"について語られているそうで、"愛と破壊の間の緊張感"というのを彼女の詩情豊かな描写で綴られていきます。

彼女が紡ぐ詩は率直でいて無邪気、だけどウィットに富んだものであるのは、本作のタイトルから見ても明らかでしょう。『Why Does The Earth Give Us People To Love?』、直訳すると「なぜ大地(or神)は人類に愛という感情を与えたのでしょうか?」。あまりにも真っ直ぐなタイトルでわかりやすいですよね。音楽において"愛"を題材にするものは星の数ほどあるはずです。なぜこのようなタイトルをつけたのかについて、彼女は以下のように語っています。

「私は人間に対する好奇心があり、なぜ私たちはそのような行動をとるのか、そしてなぜ私たちはそのように行動し、なぜ、個人主義文化として知られ、育まれてきたにもかかわらず、愛を求める強い欲求があるのか、ということです。人々は愛を求め、互いに寄り添いたいと願っています。"自分は世界一の人間だ"と思っていても、結局のところそういう人間でさえも、時には別の人間を求めることがあります。どんなに自立した猛者でも、誰かを愛したいと思うのです。・・・・時には不滅のような感じがするかもしれませんが、愛に関する疑問があり、それが私たちを人間たらしめるものであるということは、常にもろさが伴います。重い問題ではありますが、私は普段から重い問題に取り組んでいる人間なので、その重みにあまり心配していませんでした。私にとってこのタイトルにしたことは自然なことでした」

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全曲が彼女の人間への好奇心、そして"愛"とはなんなのかについて綴られています。それについて追い求めていく過程で、自身も深く知るようになり、自分自身も愛するようになり、自分の音楽の表現などにも自信を持てるようになったそう。そんなリリックとともに、ブルースやフォーク、ソウル、アンビエントなどを絡めた、クラシカルで味わい深いサウンドがじっくりと寄り添うよう。最初から最後まで通して、彼女の表情豊かな神秘的な美声は心に平穏を与えてくれるようで、圧倒されました。個人的にはここから何十年後も2020年代の名盤として語り継がれていくことは間違いない1作だと思っています。最後に彼女がインタビューで語っていたことをもうひとつ引用したいと思います。私はこの一言含めて、このアルバムで心がとても救われたような気がしました。

このアルバムでは、"自分には価値がない"と思っている人がいても、"その人があなたの価値を最終的に決めるわけではない"ということを訴えているように感じます。そのように、価値とは非常に主観的なものなのだと思います。私も自分が役に立つかどうかは、誰と話すかによって大きく異なります。愛されるために何かしなければならないとは思いたくありません。何もしなくても、人の役に立っていることがあるような気がするんです。このアルバムを人に提供することでさえ、文字通り誰かの命を救うほどではないかもしれないけれど、曲を作るという小さな仕草でも、十分に役に立っているんだと。

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