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ラーメンアーカイブ人形町大勝軒11

~ 唯一の現役 浅草橋大勝軒 ~

浅草橋は1946年創業。本町や横山町などのレジェンド店たちが戦前であるのに対して、戦後誕生した大勝軒だ。味の面で総本家から受け継いだ戦前系のノーブルな部分と、戦後系の逞しさが同居し、その理想的なコントラストを描く貴重な店である。そういう意味では人形町大勝軒系の入門編に相応しいと思えるが、すでに歴史、味ともに継承する店はほぼなくなり、関係者も、口を揃えて唯一の系譜店と言う。この系譜を味わうなら選択の余地なく、この店となる。

伝統のシュウマイ

~ 浅草橋は大勝軒を結ぶ橋 ~

浅草橋という土地は、人形町大勝軒を考える上で象徴的な地域であるともいえる。江戸時代、街道の起点であった日本橋から、浅草橋を経て、浅草へと至るルートは市民にとって大切な橋であった。

浅草の出会いからはじまった大勝軒は、日本橋芳町(人形町)に渡りその後100年以上の歴史をつむいできた。その架け橋となる浅草橋に現存する唯一の直系のお店が残る。

また、浅草橋から東に向かったところにかかる橋は柳橋。現柳橋一丁目、二丁目のあたりは江戸時代花街として栄えたエリアで柳橋花街として知られる。この系譜になぞらえてこのお店を呼ぶのであれば、浅草橋よりも柳橋のお店と呼ぶのがふさわしいのかもしれない。

夜は複数人で宴席を催すこともある

~ 人形町大勝軒系を食べるなら浅草橋へ ~

浅草橋大勝軒の魅力は、もちろん後述する味や多彩なメニューなのだが、もうひとつ大切な要素は、代を重ねてたくましく営業しているところだ。家族経営、そして、3代を続く結束力。現代日式中華、ラーメン屋のひとつの理想である。店が代を重ねれば、来るお客さんも代を重ねる。お店と地域が歩調を合わせ持続可能なオアシスを維持していく。

うま煮そば

地下で打たれている自家製麺は白ぽくなめらか。伝統的で出自をもっとも感じさせる要素になっている。汁そばとしても楽しむのもいいが、焼きそば(軟)で麺を味わうのも一興だ。(おそらく人形町同様)蒸しが入って甘みと食感を引き出してから調理される麺。これが抜群に旨い。この小麦の麺の旨さを知ると麺類はまた更に楽しくなる。ラーメンというより広東料理のそれだが、現代に至る麺の有り様のグラデーションを味わいたい。

焼きそば(軟)

麺類では、オーソドックスなラーメンやワンタンメンとともに、人気のしいたけそばや肉玉そばなどのあんかけメニューが人気が高い。スープはクリアに炊かれ、油脂分やときに旨さともなるよどみなどを排したものだ。このあたりの上湯を思わせるスープは、広東料理の延長線上にあったお店らしさでもあるが、そこに彩りと旨味を加えるのはこうした「タネ」の仕掛けを利用する。

肉玉そば

~ 名物メニューしいたけそば ~

とりわけ人気が高いのがしいたけそば。しいたけが持つ旨味が塩ベースの餡に溶け込み、また、それがスープと溶け合うことでウマミという刺激に満たされる日常を送る現代人にも訴えるメニューとなっている。ちなみに、裏メニューとして「しいたけダブル」を頼むことも可能である。

このしいたけそばも、肉玉などもそうだが、人形町大勝軒系は餡は塩ベースであることが多い。巷の中華料理店で広東麺というメニューは醤油餡のあんかけラーメンを指すことがほとんどだが、そういった意味では、大勝軒は日式の大衆中華料理の創世記から歴史を持ちながら、独自性を打ち出していたということになる。この塩ベースの餡のメニューは是非食べておきたい。

昼のお得なセットは庶民の味方

~ その他の人形町系大勝軒 ~

その他にも清澄白河(※ご主人が亡くなり閉店)、小岩(浅草橋大勝軒出身1995年創業)、石神井公園(武蔵関?未確認)、上溝(未確認)、妙典(閉店)があったが、小岩を除きすべて閉店している。

小岩はこの浅草大勝軒橋出身。麺は自家製ではなく製麺所から取っているという。どちらかというと戦後の街中華の色合いが強くでたお店だった。

小岩の大勝軒
より街中華の味わい

清澄白河は創業年も不明だが、ラーメンは実にこの系譜らしい上品な仕上がりでいつまでも良い鶏の余韻が後を引き、印象に残っている。より小ぢんまりとした店舗だったこともよく覚えている。

清澄白河 大勝軒(閉店)
赤いフチのチャーシューや麺に出自が伺える
画像提供:FILEのラーメンファイル

このように直系店から孫弟子までを含め、現在把握できるお店は数えるほどだ。戦後、飛躍的に店の数は増え、こうしたラーメン店のグループでも生駒軒や丸長、珍來などが戦前の数とは比較にならないほどの広がりをみせていくが、人形町大勝軒はマイペースをたもっていた。

そして、これまでに語ってきたレジェンド店とは別の直系の名店がひとつあった。同じ人形町に後年1987年に誕生した大勝軒である。

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