小規模新刊書店の7つの経営手段
もうすぐ「ページ薬局」がオープンして1周年を迎えようとしています。
想定していたよりも本が売れた月もありましたが、実際に本屋を始めてみて売上を伸ばす難しさ、薄利による厳しさを実感しています。
自分でいうのも何ですが、開局してから1年弱で色んなメディアに取り上げていただきました。
テレビが2社、新聞が5社、ラジオが1社、そしてネット媒体や業界紙、地域の情報誌を含めるとその数20以上です。
大変ありがたいことなのですが、これだけ取り上げていただいても平均すると1日に数冊程度しか本は売れていません。
それにはコロナウイルスの影響もあるかもしれませんし、そもそも薬局だからというのもあるかもしれません。
本の薄利さについては以前にも記事を書きましたので良ければこちらもご覧ください。
つまり、1日数冊程度では人件費どころか光熱費の足しになるかならないかぐらいで、本屋を成り立たせそうと思えば相当数の本を売らなくてはなりません。
大手の書店ですら閉店を余儀なくされている近年の業界事情を鑑みると、小さな書店で新刊書籍を置いてあるだけでは成立しにくいと思います。
では小さなお店を持続させるためにどんなことをすれば良いのでしょうか?
前に記事にもしたように本を置くだけではなく、お客さんとコミュニケーションを取り、好みに合わせて本を紹介できたりするのも一つかとは思います。
しかし、コミュニケーションを取るとはいっても抽象的だとも思えてきました。
書店経営を持続可能なものにするならもっと具体的な方法が必要なのではないかと。
そこで自分が足を運んだ本屋さんや本やネットを通じて知り得た情報をもとに、成功事例とも言われる書店の方々が何をしているのか一旦整理をしてみることにしました。
内沼晋太郎さんの「これからの本屋読本」によると
本屋開業を志すなら読んでおいて損はない「これからの本屋読本」。
この本の中で著者、内沼晋太郎さんは生計を立てていくのに2つの方針を推奨されています。
ぼくの考えでは、それで生計を立てていこうと思えば、取るべき方針は「ダウンサイジング」と「掛け算」だ。また、独立して生計を立てなくても、本屋として生きていくことはできる。そのための方針は、「本業に取り込む」か「本業から切り離す」ことだ。
*https://note.com/numa/n/ne0ecbacf6630?magazine_key=m0463a307728e より引用
ダウンサイジングとは簡単にいうと、規模を小さくするというもの。
そして掛け算が、何か違う業種やサービスを掛け合わせるというものを指しています。
まさに薬局×本屋「ページ薬局」は掛け算でもありますし、1000冊程度の在庫はダウンサイジングしたものだともいえるでしょう。
他にも本屋×カフェといった今や王道にもなりつつある組み合わせ然り、本屋×〇〇といった掛け算自体も珍しくはありません。
古くからあるものでいえば文房具などの物販も掛け算の一つに含まれるかと思います。
そうなれば成功事例の色んな本屋さんがダウンサイジング、掛け算の2つの方針に包括されるのかもしれません。
この方針を否定するつもりもなく、今「これからの本屋読本」を読み返しても頷くことしかないのですが、書籍に書いてあることも含め、自分なりに本屋さんが行っている経営手段を7つピックアップしてみました。
その①外商
外商とは売り場ではなく、お客さんのところに行って直接販売することとの意味があります。
本屋にとっては図書館や学校が大きな取引先です。
その他、雑誌を置く美容室や病院、パチンコ店なども本屋の取引先として挙げられます。
昨年にある繋がりで図書館と取引をさせてもらいましたが、一度に何百冊の本の注文はありがたいとしか言いようがありません。
とある書店経営者によれば、今はシャッターを常に降ろして店頭では販売を一切行っておらず、学校の教科書販売や図書館だけの売上で成り立たせている本屋があるとも聞きました。
「だったら営業をかけて外商先をいっぱい作ったらいいじゃん!」
こう思われたかもしれませんが、学校や図書館と取引している本屋さんは長い付き合いがあってのことです。
入札の機会が設けられても相当な値引きをしなければ入り込みにくいとも取次から聞いたこともあります。
特別な繋がりや引き継げるチャンスがない限り大口先は難しいかもしれませんが、外商がある程度固定の売上をもたらしてくれることを踏まえると小さなところの開拓や既存先からの切り替えも有効だと思います。
その②直取引や買い切りによる粗利率改善
「これからの本屋読本」にも書かれている内容ですが、仲介している取次を通さないようにすることでその手間賃を省き、粗利率を改善するという手段です。
具体的には京都の有名店、「誠光社」さんのHPに直取引に応じてくれる出版社さんが掲載されています。
また、出版業界では40%前後と高い返品率が問題視もされています。
つまり買い切ることで返品分の配送コストを抑えられるため、その分仕入れ率も良くなるという仕組みです。
本屋開業志望の方にこれまたオススメの本、「夢の猫本屋ができるまで」にも直取引についての記載があります。
(略)旧知の「本は人生のおやつです!!」(大阪市北区)の店主坂上友紀さんに聞いてみる。オープンして八年の古本屋さんだが、直接取引に積極的でない大手出版社の新刊も並んでいる。
「必死で頼みこみ、直取がOKになったこともありましたよ」
多くの出版社が集まってブースを設け、書店と話す「大商談会」というのが開かれているそうだ。そこへ臆せず出向き、「この本をうちで売らせてほしい」と熱く掛け合う。
*本書124ページより引用
ただこれにはメリットばかりではありません。
返本率が高いというのはそれだけ返品しやすいとも言えます。
買い切りは返せないことを意味するため、在庫の面でリスクにもなり兼ねません。
自分の店では買い切ってまで置く自信は正直ありませんが、レギュラーでずっと置いておきたい本や入れ込んで売りたい本などは直取引で買い切るのも一つだと思います。
その③イベント運営
参加費を取る取らないにかかわらず、イベントを行っている本屋さんはSNSでも見かけます。
昨年からコロナウイルスの影響で随分減ってはいると思いますが、大小構わず書店のイベントを掲載しているサイト「本屋で.com」を見ればチラホラと開催されているのがわかります。
イベント運営は参加費を取ればその分収益も期待できますし、参加費を取らずとも本の販促活動にはなります。
コロナ前に何度かイベントに参加させていただいた「隆祥館書店」さんではオンライン配信で著者との対談イベントも開催されています。
上記URLにはイベントの詳細が示してあり、
● 費用 ①:3,560円
(内訳:参加費1,300円+「ヴォドニークの水の館」1,760円+ 送料及び手数料500円)
●費用 ② : 3,120円
(内訳:参加費1,300円+「ともだちいっしゅうかん」1, 320円+送料及び手数料500円)
●費用 ③:4,880円
(参加費1300円+「ヴォドニークの水の館」1,760円+「ともだ ちいっしゅうかん」1,320円+送料及び手数料500円)
と本の販売をイベント参加とセットにしているのがわかります。
これには著者の方にいくらか謝礼を包んでいるケースもあれば、無償で引き受けてもらえることもあるそうです。
一方で著者の方をお招きするのに満足に集客ができていない、と頭を悩ませることもあると聞きましたのでイベント開催も一長一短かと思います。
絵本の読み聞かせや読書会だと自店舗のスタッフで完結するのでイベントの一歩目としてはちょうどいいのではないでしょうか。
その④古本とのミックス
新刊オンリーで本屋を開業しようとしても、ある程度の売上が見込めなければ取次が口座を開いてくれません。
地域や担当者によっても話は違うと思いますが、うちの場合だと直接口座を開くには月商で50万円ぐらいは最低でも必要だと言われました。
1冊1000円と仮定すると月に500冊、営業日を20日とすると1日25冊はまだまだ気の遠くなる数字です。
そこで小ロットの取引を行っている「Foyer」(ホワイエ)を利用したり、先ほど述べたような一部買い切りや直取引によって新刊書籍を仕入れるのですが、在庫ボリュームを増やしたり粗利率を上げることを狙ってか、古本を併せて置く本屋さんもあります。
何も利益の面だけではなく、店主がそもそも古本も好きといった趣向もあるとは思います。
古本屋に一度でも蔵書を売りに行ったことのある方なら、売値に満足したというよりガッカリした人のほうが圧倒的に多いと思います。
本の定価よりかなり安く買い取られるのが一般的です。
そのため、本屋さんにとっては新刊書籍に比べると利益率の高さは言うまでもありません。
本屋を始めたいと相談した際、「古本は置かないの?」と色んな方からアドバイスを受けました。
古物商の許可が必要ではありますが、新刊書籍を扱う本屋さんをしたいのであれば古本とのミックスが現実的なのかもしれません。
その⑤品揃えに特徴を持たせる
何でも揃っている、と品揃えで大規模書店やネット販売と競うのではなく、別の路線をいくイメージです。
「本屋ですが、ベストセラーは置いてません。」
こう謳うのは昨年大阪天王寺の「スタンダードブックストア」さん。
本屋×飲食店の掛け算の業態でもあるこちらのお店は1階が飲食、2階が本屋といった造りになっています。
「本屋なのにベストセラーを置かないなんて…」
疑問に思った方もおられるかもしれませんが、こうすることである種差別化ができているわけです。
「スタンダードブックストア」さんにはファンも多く、移転に際したクラウドファンディングでは目標500万円を大きく上回る、800万円以上もの資金調達に成功しました。
別の例を挙げるなら、やはり「キャッツミャウブックス」さん。
「猫」とのキーワードをもとに、猫が題材になっている本から挿絵やストーリーにちょこっとだけ猫が登場している本まで、猫に拘りをもった品揃えをされています。
相当な読書家の方なら「スタンダードブックストア」さんに、猫好きかつ本好きの方なら「キャッツミャウブックス」さんに、一般的な本屋の商圏を越え、遠くからでもきっと足を運びたくなることでしょう。
その⑥選書やオリジナルブックカバーといった付加サービス
選書といえば北海道の「いわた書店」さんの一万円選書が有名どころかと思います。
年に1回募集をかけていて、申し込みは何と数千件にものぼるのだとか。
そこから抽選で当選者のみ選書をしてもらえるのですが、仮に月に50件こなすと単純計算で50万円の売上が見込めます。
オリジナルのブックカバーで新規顧客を獲得している本屋さんもあります。
大阪市鶴見区の「正和堂書店」さんはインスタグラムのフォロワー数8万人超え。(2021年5月時点)
上の記事にブックカバーを紹介したツイートがバズったことなども書いてありますので是非お読みください。
外商とは別に売り場以外で売上を伸ばす手段もあれば、店舗に直接足を運んでもらうような工夫を施すこともできます。
その⑦SNS運用+ネットショップの活用
「正和堂書店」さんのインスタグラムのフォロワー数は驚異的ですが、ここまで紹介させていただいた本屋さんも店舗であったり店主であったりのアカウントを作成し、何かしらのSNSを運用されています。
Twitterやインスタグラム、Facebook。
当然、これらの投稿は広報活動を担っています。
加えてネットショップを開設している本屋さんもあります。
上で紹介した「スタンダードブックストア」さん、また「これからの本屋読本」の著者内沼晋太郎さんの「本屋B&B」さんなどはBASEというサービスを用いられています。
よく比較されているのはSTORESというサービスのようで、「キャッツミャウブックス」さんなどはこちらを採用されています。
どちらを使えばいいのか?と気になった方もおられるかと思いますので参考までに。
Amazonがあるとはいえ、BASEやSTORESで本を買われるお客さんもそれだけいるということです。
先日お伺いした本屋さんではBASEを採用しておられ、詳しく話を聞くと常連さんではなく、コロナ禍もあってか今は新規のお客さんがネットショップを通じて本を買われることの方が多いとも仰られました。
てっきりお店のファンの方が使うと思い込んでいたので意外でした。
そちらの本屋さんは新刊よりも古本がメインで、文房具もいくつか置いてあるので新刊書籍だけをネットで買うというより、ほとんどが古本や文房具を併せて買われる方だとも伺いました。
SNSで本の紹介をするならネットショップに誘導し、そちらで購入いただければいうことなし。
購入いただかなくともお店を知っていただくきっかけにはなるので、これらネットショップサービスの活用も小規模書店にとってはスタンダードとなるのかもしれません。
おわりに
小規模新刊書店の経営手段として
①外商
②直取引や買い切りによる粗利率改善
③イベント運営
④古本とのミックス
⑤品揃えに特徴を持たせる
⑥選書やオリジナルブックカバーといった付加サービス
⑦SNS運用+ネットショップの活用
の7つを紹介しましたが、上手くいっていると思われる本屋さんはどれか1つを実践しているというより、いくつか組み合わせておられます。
整理してから自店舗に改めて目を向けると、買い切りはしていないし、イベントはできていない、古本も扱っていなければネットショップも開設していない、とまだまだできることもありそうだと感じました。
ある程度自由に本が入ってくるとはいえ、新刊書籍の中には大手書店との割り振り方に大きく差がある本があるのも小規模書店にとっては痛手です。
とはいえ大手書店も経営は厳しく、仮に小規模書店にベストセラー本がどしどし入ってくるようになっても(凄くありがたいのですが)全体のパイが増えるわけではありません。
そのため、業界全体で本屋さんを守ろうとするならリアル書店の価値を訴えかけたり、いかに読書をしない層を本屋さんに足を運ばせるかを考える必要もあるのではないかと思います。
入場料をとる本屋さんすら出てきた時代です。
ありえないと反発すら起きそうなビジネスモデルですが、東京の1店舗目が成功したようで、2021年3月には福岡に2店舗目がオープンしました。
到底真似できない規模ではありますが、アイデア次第でやりようがあるのかもしれないと前向きに捉え、頭を捻って考えていきたいと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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