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小噺Ⅷ:出会いの前日

竈門神社の境内はいつも筑後ちゃんのちょっとしたドジっぷりで、神々や筑後ちゃんを視ることができる少数の参拝者たちの笑顔で賑わっていた。おねい肌の玉依姫命から「またかい?」という楽し気なため息をもらっていた(筑後のことが、可愛くて仕方がないという様子の玉依姫命であった)。

筑後ちゃんはそんな自分の性格を気にしているわけではなく、筑後地域を護るべく、日々努力をしながら楽しく過ごしていた。

そんなある日、筑後ちゃんが境内で掃除をしていると、突如鮮やかな金封が目の前に降ってきた。筑後ちゃんが驚きの表情で封筒を拾い上げると、差出人はおばあちゃんの名、八女津媛神。興奮しながら封を切り、手紙を広げると、そこには大きなニュースが!

「木花咲耶姫様が、あの櫻ちゃんを我々の元に預けてくださるなんて!」と、筑後ちゃんは声を上げて読んだ。玉依姫命はその声を聞いて、1番好きなお供え物のドクターペッパーを嗜んでいたが、『ぶっ!』と液体を噴き出しそうにしながら、「えっ、まさか!? あの有名な神使の櫻ちゃんって、伝説の酒呑童子退治で名を馳せた?」と筑後ちゃんに尋ねる。

翌朝、櫻ちゃんの登場を心待ちにしていた筑後ちゃんは、早起きして境内を探し回っていた。そして、鳥居の前で、美しい光を放つ櫻ちゃんを発見。筑後ちゃんはその場で、櫻ちゃんに駆け寄り、嬉しげに彼女を撫で回した。

玉依姫命がその様子を見つけると、ふたりのすでに親しげな関係に驚きつつも、櫻ちゃんの可愛い魅力やその神威にすっかり引き込まれる。…しかし、心の中では「これからのご飯代、どれくらい必要なのかしら…」と優しい笑みを浮かべた。

ちょうどその時、櫻ちゃんが玉依姫命の足元へとゆっくりと近寄り、その大きな瞳で姫を見上げる。そして、姫の足元でくるりと丸くなり、甘噛みしながら玉依姫命の袖を軽く引っ張るような仕草を見せた。

玉依姫命はその甘えん坊な櫻ちゃんの様子に、心の底から温かい気持ちが湧き上がるのを感じる。彼女は優しく櫻ちゃんの頭を撫でながら、「ふふ、あなたもわがままね」と微笑んで言った。

その瞬間、竈門神社の境内は、二人の神々と櫻ちゃんの和やかな笑顔で、ほのぼのとした空気に包まれていた。

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