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49枚目 V.A.「THE PUNX」(1985年)/バラバラな内容だが、収録曲のクオリティがハンパないカセットブック作品

#jrock #80s #ラフィンノーズ #GAS #G .I.S.M. #ウィラード #リップクリーム #コブラ #JICC #宝島

またしても久々の更新になってしまいました。
ラフィンにウィラードときたので、両方入ってるこいつをいきましょう。

「THE PUNX」は85年3月にJICC出版(宝島社)からカセットブックという形でリリースされました。カセットテープに冊子が付いていて、書籍扱いになっているため書店でも販売できるというものです。ほかには遠藤ミチロウの「ベトナム伝説」などがリリースされました。この頃、カセットブックというスタイルは流行で、佐野元春やムーンライダーズも出していましたね。

この「THE PUNX」は、当時元気が良かったパンクやハードコア・シーンの一角を切り取ったオムニバス作品で、参加しているのはラフィン・ノーズ、GAS、GISM、ウィラード、リップ・クリーム、コブラの6バンド。とにかく、どのバンドもいい時期で、その勢いがどのトラックにも現れています。ほんとに名曲、名演ばかりです。

ラフィン・ノーズは、彼らの代名詞である「GET THE GLORY」の新録盤を出したばかりで、この後には傑作「NEVER TRUST WOMEN」をリリースし、そのままメジャーへなだれ込むというタイミング。メジャーデビューアルバムに「1999」と改題されて(パンクバンドなのに情けない…)収録された「戦争反対」と、ハードコア時代の名残を感じさせるノイジーな「HELL HOME」という対極的な2曲を収録。

広島のパンクバンド、GASは、ハードコアからロックンロールタイプのパンクへの移行期で、この後にGASTUNKのTATSUが参加したシングル「SWEET EMOTION」をリリースするのですが、ここでの2曲もすでにハードコアから脱しはじめています。ロックンロールの躍動感とハードさのバランスが丁度良く、女性ヴォーカルのNARUMIさんの歌も生き生きしています。これを聴くと、そもそも、NARUMIさんはハードコアをやりたかったわけじゃなかったのかもね。「WORLD PEACE」は名曲でしょう。

GISMはどこに行ってもGISMなのですが、ヘヴィなメタルコアというサウンドは、世界的にみてもかなり早かったはずです。横山SAKEVIの歪みまくったヴォーカルが異様にデカく、リズム隊の音が小さめというミックスバランスもいつもの通り。「SHOOT TO KILL」はまさに名曲。そして、「G.I.S.M」はなんと左右のチャンネルで別々の曲が流れている(オムニバス「OUTSIDER」収録の「原水禁」のスタジオヴァージョンが聴ける)というわけわからん仕様です。

ウィラードはまさに人気絶頂の頃。この後、JICCが立ち上げるレーベル、キャプテン・レコードの第1弾として、名作「GOOD EVENING WONDERFUL FIEND」(前回レビューしたやつです)をリリースします。ここに収録された「THE END」と「STINKY VICE」はどちらもバンドの代表曲ですが、どちらもヴァージョン違い。酔っ払ったまま録音したらしいです。

リップ・クリームはカムズを脱退したNAOKIとMINORUがこの前年に結成したばかり。既に音源はいくつかリリースしていましたが、メンバーが固まり、活動に勢いが出てくる頃で、この翌年、名作フルアルバム「Kill Ugly Pop」をリリースします。メタル的な展開力と気合い一発で地を這うように突進するハードコアで、問答無用にカッコいい。燃える。ギターソロがあるのはメタルの影響でしょう。

コブラは、NAOKIが脱退し(後にラフィン・ノーズに加入)、後にガーリック・ボーイズに加入するLARRYがギターを担当していた時期の録音。少しキャッチーなOiパンクで、メジャー以降の妙にポップなサウンドと比べてはいけないとは思いつつ、この頃のガッツのある音は、勢いに乗ったいい時期の作品であることがわかります。「WORST SONG」はハードコア寄りかな。

という6バンドなのですが、見事に個性がバラバラ。80年代はハードコア系のオムニバスの名作が数多くリリースされた時代ですが、その中でもこれだけクオリティの高い楽曲が揃いつつも、方向性がバラバラな作品も珍しい気がします。いや、サウンド的にもっとバラバラなコンピはたくさんあるのですが、この寄せ集め感というか、何かの一部を切り取ったという共通する感覚があまり感じられない気がするのです。オムニバス作品ですから、そんなところまで気にする必要はないのかもしれませんが、せっかくカセットブックという企画色の強いメディアでリリースしたのですから、もう一つなにかほしかったなという気もします。それでも、キャプテン・レコードのあまりにも節操のないラインナップと比べればマシですし、当時、サブカル雑誌だった「宝島」とのとっちらかった感覚がそのまま反映されていると考えれば、それはそれで面白いとも思います。

それにしても、この作品、いまだに再発されたことがありません。中古で入手しても、カセットじゃ聴けない人も多いだろうし、CD化くらいしてもいいと思うんですけど。

【収録曲】

Side A
1. 戦争反対/LAUGHIN' NOSE
2. HELL HOME/LAUGHIN' NOSE
3. WORLD PEACE/GAS
4. 邪悪の世界/GAS
5. SHOOT TO KILL (FOR EPILEPTIC SOLDIER)/G.I.S.M.
6. G.I.S.M./G.I.S.M.

Side B
1. THE END/THE WILLARD
2. STINKY VICE/THE WILLARD
3. PRINCE OF INNOCENCE/LIP CREAM
4. BANDIT/LIP CREAM
5. WORRIOR'S ROCK/COBRA
6. WORST SONG/COBRA




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