勝尾寺南山

 静かな山の中は、落葉を踏みしめる音と野鳥の鳴き声しか聞こえなかった。

 この日、今季一番の寒さを記録し、トレイルもすっかり冬めいてきた。低山のベストシーズンの到来である。肌をなでる風は冷たく、しかし登り坂をゆく体の芯はホカホカと温かかった。

 白島から水神社へ、そこから谷山尾根で勝尾寺南山を目指す。観光客がゆきかう箕面大滝周辺と違い、谷山尾根は静かなものだ。地図にはないルートもあり、ちょっとした冒険気分を味わえる、ぼくのお気に入りのトレイルだ。

 トレイル標識〈みのおG-5〉から勝尾寺南山へ。山頂は南の展望が開けており、箕面や千里の街並みの遠くに、あべのハルカスを望む。

 空は、分厚く重たい曇におおわれていたが、その隙間から光が差してきた。低く黄金色に輝く光が、視界のはるか奥にそびえる金剛・葛城山脈の輪郭を照らす。

 初冬の午後の、美しい光——。

 陽光に包まれた日だまりは、とても暖かかった。

 初老の3名のハイカーと出会う。「こんにちは」とあいさつをかわすと、彼らは山頂のベンチに腰かけ、ぼくと同じ景色を見ながら語り合っていた。その後ろ姿は、まるで30年後の自分を眺めているようだった。

 箕面川に沿う滝道へ下ると、紅葉の見頃とあって大勢の観光客でにぎわっている。川のせせらぎと、草木の緑に紅葉がよく映える。その情景をゆっくりと味わうように、人々がゆきかう。

 ぼくもその中にまじり、のんびりと駅へと向かった。

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