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冬の空気に注がれる、日の光が暖かだった。 自転車を鴨池公園駐車場にとめ、男池、女池をぐるりとまわる。獣よけのゲートをくぐり紅山と惣山の谷間をゆくと、その先が登山口だ。休日ながら人の気配は感じない。木々の隙間から光が差し、森が爽やかに照らされていた。 アルプスと名付けられてこそいるが、兵庫県小野市に連なる小野アルプスは、日本一低いアルプスとして知られている。最高峰の惣山、通称”小野富士”でさえ、標高はわずか198.9mだ。白雲谷温泉ゆぴかから福甸峠までの約8kmの間に
びわ湖バレーでのにぎわいが嘘のようだった。人の気配はすっかり消え去り、またひとりきりの旅が始まった。スキー場の斜面を北へ下り、キャンプ場の跡地から木戸峠へ。峠のお地蔵様に手を合わせて、比良岳、鳥谷山へと進んでゆく。 鳥谷山から南を望むと、打見山や蓬莱山がよく見える。あぁ、あんなに遠くからはるばる歩いてきたのだと、山歩きの愛好家なら誰しも経験するであろう思いを胸に、しばし眺めを楽しんだ。そして再び歩きだす。 15時をまわり、疲労がじわりとぼくに襲いかかる。ひたすら樹林
そのバス停で下車したのは、ぼくひとりだけだった。 どういう訳か、ぼくの選ぶコースはいつも人気がないらしい。もっとも、ひと気より獣の気配が濃厚な山がぼくの好みではある。静かに歩けるコースを、探し求めてはいるのだが。それにしたって日曜の、登山日和の好天の中、誰もいないバス停に降り立ったぼくはよぼどの物好きなのかもしれなかった。 今回選んだのは滋賀県・比良山系の名峰、蓬莱山(1174.3m)だ。 比良山系は琵琶湖の西にある、南北約25kmにわたる山塊だ。ちょうど比良山
朝の冷え切った空気の中で目が覚めた。 午前4時30分。昨日の真夏日がうそのように寒い。 寝袋を出て、ダウンジャケットを羽織る。 すでに太陽が昇りはじめ、テントの生地が透過光で照らされていた。 ナッツをつまみながら撤収し、5時20分にスタート。今日は比叡山から二ノ瀬までの、約20kmの道のりを歩く。6時過ぎには東山の最後の標識74番を通過し、北山東部コースに入った。 比叡山ケーブル駅から京都を眺めると、街や山が朝日に照らされてオレンジ色に輝く姿がとてもきれ
東山山頂公園から景色を眺めると、京都を囲う山々がどこまでも連なっていた。 例えば槍ヶ岳や剣岳のような、登山の対象としてのスター選手はいないけれど、信仰や生活に寄りそう素朴な山々が京都にはある。歴史の香る街道を歩き、寺社仏閣の裏山をゆく。青々とした田園風景に出合い、時には山岳修行のための険しい山道を歩く。麓に下りたら地元の名物に舌鼓を打ち、補給を終えて、また、80km以上の道のりをつないでゆく——。 これが、京都一周トレイル®の魅力だ。 公園内を進むと「こんにちは
箕面駅の改札をくぐると、数羽のツバメが忙しそうに飛び交っていた。 今年も箕面駅前に、いくつかツバメの巣ができている。 ホームがふたつの決して大きな駅ではないが、駅前にはバスのロータリーやちょっとした広場があり、コンビニやパン屋、銀行ATM、それに土産物屋が並ぶ。改札を出て目線を広場の上にある白い柱に向けると、かわいらしいツバメの巣が並んでいるのだ。その下には、段ボールでしつらえた糞の受け皿が取り付けられている。 そっと中をのぞくと、かえったばかりと思わしきヒナが
ウグイスのさえずりもだいぶこなれてきた。 平地の桜がすっかり散った今、さえずりは完成の域に達している。大切なパートナーを呼びこむためのものだ。ウグイスもきっと、練習を積むのだろう。 美しい歌声に耳を傾けながら、階段の続く尾根道を登ってゆく。 よく晴れた4月のとある日、大阪と奈良にまたがる金剛山を妻とふたりで訪れた。 金剛山の最高峰は1,125mで、葛木岳、湧出岳、大日岳の三峰からなる。関西で一二を争う人気の山といってもいいだろう。四季を通じて大勢の登山客が訪
バスの窓外に、美しく磨かれた丸太が並んでいる。朝日を浴びてきらきらと輝くそれは、京都府伝統工芸品「北山杉」だ。周山街道を細野口へと向かう道すがら、木造の製材所が日の光に照らされる様子に、僕はすっかり見とれていた。 僕たちはレクリエーションとして山に向かう。しかし京北の人々にとって、山は資源を収穫するための場であり生活の場であり、休日のための、特別な場所ではないのだろう。窓外の風景から、山と人の暮らしを、垣間見た気がした。 * トンネルを抜け、細野口バス停をスタート
写真家・星野道夫(1952-1996)の名著『旅をする木』にこんな一文がある。 第一章・「新しい旅」にしたためられた書簡風のエッセイが好きで、二十代のころから何度も読み返している。星野道夫が伝えたアラスカの広大な自然とはスケールこそ違うが、同じ理由で、四季をはっきりと、五感で感じられる日本の里山の緑が僕は大好きだ。そうして休日の早朝、『旅をする木』を読み返しながら電車に揺られ、これから向かう京都の奥地に広がる、里山の風景を思い描いている。 廃村八丁。 現在の京都