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遊歩と野宿

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関西近郊の山々を中心に、歩いて旅した遊歩の記録。
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#ロングトレイル

京都一周トレイル®をゆく #5|拝啓、歩く旅を愛する全ての人へ

「川口さん、ホタルはよかったですね。いやぁ、よかった」  一夜明け、トレイルを再び歩き出してもY内青年はホタルの感動をしきりに口にしました。ぼくだって、野生のホタルを目にしたのは子供の頃以来のこと。それに、ホタルをお目当てにしていたわけではありません。ほんの偶然に巡り会えたのですから、やはり感動はひとしおだったのです。  今日も嵐山を目指して京都一周トレイル®を歩きます。トレイル標識の94番で、ついに北山西部を歩き切りました。ここから先は最後のルート、西山コースを歩きます

京都一周トレイル®をゆく #4|拝啓、歩く旅を愛する全ての人へ

 山の家はせがわから美しい林道を歩き、京見山荘に着くころには午後2時を回っていました。そろそろ今日の幕営地を考えなければなりません。この先にある沢ノ池か、さらに先の高雄までゆくか、悩ましいところです。  が、見上げると西の空が曇に覆われ見通しが利きません。どんよりとした曇の合間から、雷の音が聞こえてきました。  まずい、ひと雨くるぞ。  気圧低下を知らせるアラートが、登山時計からしきりに鳴ります。  どこかで雨具を用意しようか、と立ち止まったそのとき、轟音とともに大き

京都一周トレイル®をゆく #3|拝啓、歩く旅を愛する全ての人へ

 今、京都一周トレイル®を歩いています。  まだ6月の梅雨時だというのに、いったいこの暑さはどうしたことでしょう。気温30度を超える中、樹林帯のトレイルは暑さと湿気でまるで蒸し風呂のような環境です。  叡山電車二ノ瀬駅を出発し、夜泣峠を経て最初の山、向山へ到着しました。すでに速乾ウエアの機能が追いつかないほどの汗をかいています。ここが本当のサウナなら大汗をかいても冷たいシャワーやビールの楽しみがあるのですが、そんなものがあるはずもありません。まったく、この先の旅程が思いや

京都一周トレイル®をゆく #2|比叡山〜二ノ瀬

 朝の冷え切った空気の中で目が覚めた。  午前4時30分。昨日の真夏日がうそのように寒い。  寝袋を出て、ダウンジャケットを羽織る。  すでに太陽が昇りはじめ、テントの生地が透過光で照らされていた。  ナッツをつまみながら撤収し、5時20分にスタート。今日は比叡山から二ノ瀬までの、約20kmの道のりを歩く。6時過ぎには東山の最後の標識74番を通過し、北山東部コースに入った。  比叡山ケーブル駅から京都を眺めると、街や山が朝日に照らされてオレンジ色に輝く姿がとてもきれ

京都一周トレイル®をゆく #1|伏見稲荷〜比叡山

 東山山頂公園から景色を眺めると、京都を囲う山々がどこまでも連なっていた。  例えば槍ヶ岳や剣岳のような、登山の対象としてのスター選手はいないけれど、信仰や生活に寄りそう素朴な山々が京都にはある。歴史の香る街道を歩き、寺社仏閣の裏山をゆく。青々とした田園風景に出合い、時には山岳修行のための険しい山道を歩く。麓に下りたら地元の名物に舌鼓を打ち、補給を終えて、また、80km以上の道のりをつないでゆく——。  これが、京都一周トレイル®の魅力だ。  公園内を進むと「こんにちは