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遊歩と野宿

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関西近郊の山々を中心に、歩いて旅した遊歩の記録。
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#ハイキング

小野アルプス

 冬の空気に注がれる、日の光が暖かだった。  自転車を鴨池公園駐車場にとめ、男池、女池をぐるりとまわる。獣よけのゲートをくぐり紅山と惣山の谷間をゆくと、その先が登山口だ。休日ながら人の気配は感じない。木々の隙間から光が差し、森が爽やかに照らされていた。  アルプスと名付けられてこそいるが、兵庫県小野市に連なる小野アルプスは、日本一低いアルプスとして知られている。最高峰の惣山、通称”小野富士”でさえ、標高はわずか198.9mだ。白雲谷温泉ゆぴかから福甸峠までの約8kmの間に

京都一周トレイル®をゆく #5|拝啓、歩く旅を愛する全ての人へ

「川口さん、ホタルはよかったですね。いやぁ、よかった」  一夜明け、トレイルを再び歩き出してもY内青年はホタルの感動をしきりに口にしました。ぼくだって、野生のホタルを目にしたのは子供の頃以来のこと。それに、ホタルをお目当てにしていたわけではありません。ほんの偶然に巡り会えたのですから、やはり感動はひとしおだったのです。  今日も嵐山を目指して京都一周トレイル®を歩きます。トレイル標識の94番で、ついに北山西部を歩き切りました。ここから先は最後のルート、西山コースを歩きます

京都一周トレイル®をゆく #4|拝啓、歩く旅を愛する全ての人へ

 山の家はせがわから美しい林道を歩き、京見山荘に着くころには午後2時を回っていました。そろそろ今日の幕営地を考えなければなりません。この先にある沢ノ池か、さらに先の高雄までゆくか、悩ましいところです。  が、見上げると西の空が曇に覆われ見通しが利きません。どんよりとした曇の合間から、雷の音が聞こえてきました。  まずい、ひと雨くるぞ。  気圧低下を知らせるアラートが、登山時計からしきりに鳴ります。  どこかで雨具を用意しようか、と立ち止まったそのとき、轟音とともに大き

京都一周トレイル®をゆく #3|拝啓、歩く旅を愛する全ての人へ

 今、京都一周トレイル®を歩いています。  まだ6月の梅雨時だというのに、いったいこの暑さはどうしたことでしょう。気温30度を超える中、樹林帯のトレイルは暑さと湿気でまるで蒸し風呂のような環境です。  叡山電車二ノ瀬駅を出発し、夜泣峠を経て最初の山、向山へ到着しました。すでに速乾ウエアの機能が追いつかないほどの汗をかいています。ここが本当のサウナなら大汗をかいても冷たいシャワーやビールの楽しみがあるのですが、そんなものがあるはずもありません。まったく、この先の旅程が思いや

摂津峡|大阪北摂エリアの、古くから親しまれる景勝地

 アジサイの咲く道をマス釣り場へと進み、摂津峡大橋を渡る。渓谷に足を踏み入れると、沢と岩が織りなす涼やかな世界が広がっていた。  うだるような暑さの中、木陰に入るとすっと汗が和らぐ。沢の水は冷たくて、地上を吹く生暖かい風も、渓谷を吹き抜けるころには爽やかな風へと変わってゆく。あたりには沢のせせらぎしか聞こえない。  摂津峡は大阪府高槻市に流れる芥川の、中上流域に位置する。江戸時代から摂津峡と呼ばれ、アユやカジカが生息するこの美しい渓谷は、大阪・北摂エリアの景勝地として古く

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涼を求めて。赤目四十八滝