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遊歩と野宿

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関西近郊の山々を中心に、歩いて旅した遊歩の記録。
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2022年6月の記事一覧

摂津峡|大阪北摂エリアの、古くから親しまれる景勝地

 アジサイの咲く道をマス釣り場へと進み、摂津峡大橋を渡る。渓谷に足を踏み入れると、沢と岩が織りなす涼やかな世界が広がっていた。  うだるような暑さの中、木陰に入るとすっと汗が和らぐ。沢の水は冷たくて、地上を吹く生暖かい風も、渓谷を吹き抜けるころには爽やかな風へと変わってゆく。あたりには沢のせせらぎしか聞こえない。  摂津峡は大阪府高槻市に流れる芥川の、中上流域に位置する。江戸時代から摂津峡と呼ばれ、アユやカジカが生息するこの美しい渓谷は、大阪・北摂エリアの景勝地として古く

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涼を求めて。赤目四十八滝

滋賀の山。比良山系・蓬莱山、展望の稜線をゆく#2

 びわ湖バレーでのにぎわいが嘘のようだった。人の気配はすっかり消え去り、またひとりきりの旅が始まった。スキー場の斜面を北へ下り、キャンプ場の跡地から木戸峠へ。峠のお地蔵様に手を合わせて、比良岳、鳥谷山へと進んでゆく。  鳥谷山から南を望むと、打見山や蓬莱山がよく見える。あぁ、あんなに遠くからはるばる歩いてきたのだと、山歩きの愛好家なら誰しも経験するであろう思いを胸に、しばし眺めを楽しんだ。そして再び歩きだす。  15時をまわり、疲労がじわりとぼくに襲いかかる。ひたすら樹林

滋賀の山。比良山系・蓬莱山、展望の稜線をゆく#1

 そのバス停で下車したのは、ぼくひとりだけだった。  どういう訳か、ぼくの選ぶコースはいつも人気がないらしい。もっとも、ひと気より獣の気配が濃厚な山がぼくの好みではある。静かに歩けるコースを、探し求めてはいるのだが。それにしたって日曜の、登山日和の好天の中、誰もいないバス停に降り立ったぼくはよぼどの物好きなのかもしれなかった。  今回選んだのは滋賀県・比良山系の名峰、蓬莱山(1174.3m)だ。  比良山系は琵琶湖の西にある、南北約25kmにわたる山塊だ。ちょうど比良山

京都一周トレイル®をゆく #2|比叡山〜二ノ瀬

 朝の冷え切った空気の中で目が覚めた。  午前4時30分。昨日の真夏日がうそのように寒い。  寝袋を出て、ダウンジャケットを羽織る。  すでに太陽が昇りはじめ、テントの生地が透過光で照らされていた。  ナッツをつまみながら撤収し、5時20分にスタート。今日は比叡山から二ノ瀬までの、約20kmの道のりを歩く。6時過ぎには東山の最後の標識74番を通過し、北山東部コースに入った。  比叡山ケーブル駅から京都を眺めると、街や山が朝日に照らされてオレンジ色に輝く姿がとてもきれ

京都一周トレイル®をゆく #1|伏見稲荷〜比叡山

 東山山頂公園から景色を眺めると、京都を囲う山々がどこまでも連なっていた。  例えば槍ヶ岳や剣岳のような、登山の対象としてのスター選手はいないけれど、信仰や生活に寄りそう素朴な山々が京都にはある。歴史の香る街道を歩き、寺社仏閣の裏山をゆく。青々とした田園風景に出合い、時には山岳修行のための険しい山道を歩く。麓に下りたら地元の名物に舌鼓を打ち、補給を終えて、また、80km以上の道のりをつないでゆく——。  これが、京都一周トレイル®の魅力だ。  公園内を進むと「こんにちは