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遊歩と野宿

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関西近郊の山々を中心に、歩いて旅した遊歩の記録。
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2022年3月の記事一覧

京都北山、やぶ山紀行|タカノス〜朝日峯〜峰山

 バスの窓外に、美しく磨かれた丸太が並んでいる。朝日を浴びてきらきらと輝くそれは、京都府伝統工芸品「北山杉」だ。周山街道を細野口へと向かう道すがら、木造の製材所が日の光に照らされる様子に、僕はすっかり見とれていた。  僕たちはレクリエーションとして山に向かう。しかし京北の人々にとって、山は資源を収穫するための場であり生活の場であり、休日のための、特別な場所ではないのだろう。窓外の風景から、山と人の暮らしを、垣間見た気がした。 *  トンネルを抜け、細野口バス停をスタート

廃村八丁、京都奥地の山々を歩く

 写真家・星野道夫(1952-1996)の名著『旅をする木』にこんな一文がある。  第一章・「新しい旅」にしたためられた書簡風のエッセイが好きで、二十代のころから何度も読み返している。星野道夫が伝えたアラスカの広大な自然とはスケールこそ違うが、同じ理由で、四季をはっきりと、五感で感じられる日本の里山の緑が僕は大好きだ。そうして休日の早朝、『旅をする木』を読み返しながら電車に揺られ、これから向かう京都の奥地に広がる、里山の風景を思い描いている。  廃村八丁。  現在の京都