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僕が石巻に来た理由

 「さぁ今日も授業を始めます」と子どもたちと向き合ったとき、仮に4列の席があったとするならば、1列に座する子どもたちは、私立高校に行かざるを得ない…のが仙台圏の高校受験における定員事情である。


 石巻圏においては、「この地域に住む受験生が、この地域の公立高校に収まる」くらいの定員数になっており、そういう意味では、仙台圏の方が(倍率が高まるという点において)条件的に厳しいと言えるだろう。


 吹けば飛ぶような小さな学習塾をやっている。始めて間もないということもあり、たくさんの生徒を抱えているわけではないが、それでもいくつかある学習塾の中から、僕のところを選んでくれた生徒がいることを、心からうれしく思う。


 塾に通う中学生たちが修学旅行へ行った。旅行から帰ってきて最初の授業の日、とある生徒がおみやげをくれた。こんなこわもての僕のために、本当にありがとう。すると彼女は、確か休み時間だったと思う、別の中学校に通う生徒たちにも、何か一声かけながらおみやげを渡していた。感心したとかと言うより、何故か少しドキッとした。


 「長年」と言えるほどでもないが、仙台圏の学習塾に勤めてきて、そういう場面を目にしたことがなかった。「学校は違うけど友達同士」というケースもあったけれど、それは小学生の頃からずっと一緒に授業を受け続けてきて…などの条件付きだったように思える。


 前述のとおり、高校受験の条件は仙台圏の方が厳しい。地域的な学力の差もあるだろう。でも、僕が「学習塾」という枠の中で見たことがなかった「小さなコミュニケーション」が、石巻で出会ったコンビニレジのおばちゃん、アパートの大家さん、生徒のお母さんや町内会のおばあちゃん、石巻かほくの方々との間にもあった。きっと僕は、これを求めて、この街にやってきたのだろう。
(鈴木 喬)

石巻かほく 2020年2月16日(日)号 つつじ野 より

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