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ポールの頭の中を想像してみるの巻4。

さて、正月休みもそろそろ終了。元旦から書き始めた突発的なこの短期連載もそろそろ終わらせたいと思いつつ始めてみます。

前回の内容、『ゲットバック 』と『ドレミの歌』の比較いかがでしたか? 音楽の作り方を説明するややこしさ、楽理(音楽的知識や記号)を使って伝えられればそれは早いと、私も思っております。書店や楽器店に行けばザ・ビートルズの作曲法やコード理論についての本はかなり見つけられると思います。しかし、ビートルズ流を覚えるならば、初心はあくまでも「自分でやってみる」だと思うのです。音楽がたまらなく好きになってしまって聴いている曲を自分でも弾きたくなっちゃったりして、で、ギターなどを手にしてみる。聴いている曲に合わせて弾いていれば、数曲はなんとか弾けるようになるかもしれません(初期の楽曲はシンプルなので向いてますよね)。  聞いても分からないコードがあったら誰かに教えてもらったり、コードブックなどを見ながら基本的なコードの押さえ方などは覚えてもいいかもしれません。弾ける曲が増えてくれば嬉しいし「あれ?このコードは前に弾いた曲と同じだぞ?」と自分なりにコードの法則が見つけられるかもしれません。

自分がギターを始めた70年代でもすでに「ビートルズ全曲コードブック」などは出ておりましたし、何度聴いても分からない曲などは確認したりしました。が、ポール・マッカートニーやジョン・レノンが育った時代、聞いていたロックンロールやリズム&ブルースの楽曲のコードブックはそこになかったのではないでしょうか。おそらくクラシック系の楽譜などは存在していたと思いますが、50年代の英国リパプールの書店で「月刊・英国ギター3月号/全米ヒットチャート今月の歌本」みたいな雑誌はなかった気がします(いや、あったのか?その辺りの情報は今まで読んだことがないので、知っている人がいたらぜひ教えてくださいませ)。 

                                 「ある曲のコードの押さえ方を知っている奴がいると聞いてジョージとバスに乗って教わりに行った。B7を覚えた時は嬉しかったね」ポールの談話です。短期連載の第一回(https://note.com/takashi7/n/n99a85058f631)に書いたポイント2「楽器を弾いて歌いながら曲をつくる」。ポールやジョン、ジョージがミドルティーンのころ、音楽的な活動として最初にやっていたことは“好きな曲を楽器を弾きながら歌う”ことでした。そして、それは何度も聞いて覚えて自分で探してみること、耳こそすべて。         

【〈ギターを弾く〜和音を奏でる〉+〈歌う〜メロディを奏でる〉】後に自身の曲を作る状況になってもビートルズは似たことをしているだけなのです。最初は好きな曲を〈楽器で和音を弾いてメロディを歌う〉、それが次の段階として〈楽器で和音を弾いてメロディを歌って作る〉に変わったんですね。〜ザ・ビートルズ流の作曲法はシンガーソングライター的である〜ポイント2でも書いたことです。楽曲のコード分析を音楽的に勉強して、例えば楽譜に作曲したメロディを記載する方法とはそこが違います。和音(コード)とメロディの関係は彼らの頭の中にだけあるのです。ギターと歌の関係なんですね。だからこそ、後にポールがピアノでの作曲を覚えたとき、使う和音、生まれるメロディも大きく変化します。楽器の特性の違いが脳内で和音とメロディの関係を変化させたんですね。

「音楽知識が頭の中で鳴っている音と結びつかなかった。だから音楽の勉強はやめてしまった」ポールは語っています。

「ビートルズ流の作曲」について、何に例えるのがそれが適切なのか?いくつか考えたのですが、貯水ダムとそこにたまる水、適切な放流、そこから流れる川、その川の水で作る田圃や畑に例えてみます(正月休みにつらつらとそんな光景を思い浮かべて考えてました)。              ダムに貯まっている水源、それは彼らが聞いて弾いていた沢山のお気に入りの曲たち、です。「ゲットバック・セッション 』では、そんな楽曲デヴュー前を思い起こすような曲を思いつくままに延々と演奏しています。   (そのセッションで演奏されたカヴァーソング、そのオリジナル音源を集めてプレイリストを作った方がおりますので紹介します)https://music.apple.com/jp/playlist/get-back-session-covers/pl.u-mJy8gEEuzl136G

好きな曲を弾いて歌う、無意識に貯まってくる(和音とメロディの関係)。覚えた曲があればあるほど、その水量は当然増えてきます。ダムの貯水量を超えたときに例えば「イエスタディ」のメロディがそこから溢れだす。  メロディの貯蔵量=聞いて歌ってきた曲、そしてなおかつ「自分のお気に入りの水質(曲)」なんですね。        

『ゲットバック セッション』の目的はその名の通り“初期の自分たちのありように戻ってみる”ことです。デビュー前の曲を取り上げたり、第三回の原稿に登場した『ラヴ・ミー・ドゥ』をまた演奏したりしています。ビートルズの初期に何を意識していて曲を作っていたのか?(7thのメロディの渋さ、ブルージーな感じ)。そのセッション中にポールが即興で作った『ゲットバック』、サビの「Get Back〜(ゲッ!バッ〜ク)」のck(ク)の音がまさに7thなんですね。Aメロにも7th(ブルーノートという音です)が出てきます。連載2回目で貼った映像、ポールが目の前で作っている曲を聞いているジョージとリンゴ。最初はさほど興味がなさそうですが(ジョージはわかりやすくて欠伸なんかね)、ポールが歌うメロディが7thに行ったときに彼らの態度が変わる瞬間も映されていますね。メンバーが持ってきた曲で「これは自分の好みの歌やで!」となぜか大阪弁の気分で盛り上がるのは(7th)を含んだメロディ(正確にはスケール)なんですね。彼らが何を共有していたのかがあの場面で分かります。で、ポールはその曲をなんと和音すら出ないベースを弾きながらメロディを紡いでいます。                          そこにあるのがポール流、作曲時の意識です。    

(第5回に続きます)

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