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「キリング・フィールド」とベトナム軍戦車隊長

私がベトナムに来て間もないころ、ベトナム南部・ホーチミン市に住んで、ある日本製品の輸入販売の仕事をしていましたが、仕事でベトナム北部・ハノイへ販路開拓の営業に行くことになりました。ハノイで商品を取り扱ってくれそうな販売店を訪ね歩いたり、ハノイの監督官庁や業界団体に挨拶に行ったりといった営業活動です。

ハノイのある営業先に行った際に、昼間は会社の事務所で商品説明などを行って、夜は営業先の皆さんと一緒に食事をすることになりました。食事会場は、カラオケ・セットのあるベトナム・レストランです。ベトナムでは、普通のレストランでもカラオケ・セットがよく備えてあります。宴がたけなわになったころ、営業先の社長の年配の男性が、カラオケを歌いだしました。

まず、歌ったのは、「Năm anh em trên một chiếc xe tăng(1台の戦車に乗った5人の兄弟)」という定番のカラオケ・ソングです。そのあとも、この社長はマイクを放さず続けて何曲もベトナムの軍歌を続けて歌いました。営業先の社員たちは、「ああ、またか」という顔で聴いています。この社長はカラオケでいつも軍歌を歌っていたのでしょう。私は、ベトナムの軍歌を聞くのは初めてだったので、興味深く聞いていました。ベトナム南部では、軍歌を歌う人が少ないように思います。

Năm anh em trên một chiếc xe tang (YOUTUBEで検索してみてください)

この社長は、歌い終わると「おれは、昔、戦車隊長だったんだ。カンボジアにも行ったことがある。」と私に言いました。この社長からご自身の軍歴について詳しく聞くことができませんでしたが、年齢などから考えてベトナム軍のカンボジア侵攻に従軍されたのだと思います。

ベトナムで戦争が行われていたころ、カンボジアでも戦争が行われていましたが、1975年に中国の全面的な支援を受けたクメール・ルージュ(ポル・ポト派)がカンボジア全土を制圧しました。しかし、政権掌握後にポル・ポト派が行ったのは大虐殺です。毛沢東思想に基づく独自の共産化により、カンボジアの1975年当時の人口(約780万人)の約4分の1に相当する150~200万人が大虐殺の犠牲になりました。(ウィキペディアによる)
カンボジアには、キリング・フィールドと呼ばれる虐殺現場がたくさんあり、その中の一つが博物館になっていて観光客でも入場できます。それはプノンペンにあるトゥールスレン虐殺博物館で、私も行ったことがありますが、本物の頭がい骨が山積みにされており、眼を背けたくなります。鬼気迫る展示です。

カンボジアとは、それ以前より仲の悪かったベトナムは、1979年1月にカンボジアに侵攻しカンボジアの首都のプノンペンを制圧、ポル=ポト政権を倒してヘン=サムリン政権を樹立します。侵攻当時は、カンボジアでポル・ポト派が行っていた大虐殺が西側世界にまったく報道されていなかったため、ベトナム軍のカンボジア侵攻は、「アメリカに侵略された社会主義国ベトナムが弱小の社会主義国カンボジアを侵略した」として国際社会から強い非難を受けました。しかし、ベトナム軍の侵攻により多くの人命が救われたのは疑いがありません。

その上、カンボジアのポル=ポト政権と友好関係にあった中国が、「ベトナムのカンボジア侵攻に対して懲罰を与える」として、中国がベトナムに侵攻して中越戦争となりますが、ここでもベトナムは中国軍の撃退に成功します。しかし、引き続く戦争と社会主義に基づく経済政策によりベトナムも行き詰まり、1986年にドイモイ(「刷新」の意味)政策を開始し、1989年にベトナム軍はやっとカンボジアから撤退し、ベトナムの長い戦争がようやく終わることになります。

ポル・ポト派の大虐殺をテーマにした映画が、何本も作られています。

「クーデター(原題はNo Escape)」2015年公開 アメリカ映画 
カンボジアでは公開が禁止されている
https://www.youtube.com/watch?v=h6U3j93FMUI

「シアター・プノンペン」2014年製作 カンボジア映画
https://www.youtube.com/watch?v=_DBNJ5fB4_g

「消えた画  クメール・ルージュの真実」フランス映画
https://www.youtube.com/watch?v=QM0ikZvxIjA&t=0s

私が特にお勧めするのは、「キリング・フィールド」(The Killing Fields)という古い映画です。

『キリング・フィールド』(The Killing Fields)
1985年のアカデミー賞で助演男優賞・編集賞・撮影賞の3部門受賞

カンボジア大虐殺については、調べれば調べるほど、ポル・ポト派およびそれを支持した外国勢力に対する怒りが湧いてきます。

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