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日本におけるアパレルのサーキュラーエコノミーの取り組みと課題

前回ご紹介した欧州、ZARAのファッション商品のサーキュラーエコノミーの取り組みに続いて、

今回は日本企業のファッション業界のサーキュラーエコノミーの取り組み事例をご紹介しながら、

現状と課題と感じることを少しまとめてみたいと思います。
(見出し画像は2019年夏に訪問したヘルシンキのリサイクルセンターの画像です)

以前から、お付き合いさせていただいている業界の勉強会組織、FashionStudiesさんの篠原さんからご案内を頂き、

さすてなぶるファッション® オンライン ♯02
衣服リサイクル 基礎編 #02 リサイクル素材をどうマーケットに浸透させていくか 

の公開動画を視聴させていただきました。(リンク先に3本の動画があります)

内容は伊藤忠商事が取り組む、不要になった服や繊維素材を回収し、アパレル用の繊維素材にリサイクルするプロジェクト「RENU(レニュー)」についてと、そのプロジェクトに参加するH&Mの取り組みについて、そして、繊維素材のリサイクルの現在と今後の課題についてでした。

僕が認識する限り、この伊藤忠商事のRENUプロジェクトは日本企業が取り組む、ファッション業界のサーキュラーエコノミー事例の中では、最も先進的なもののひとつに挙げることができると思います。

ポリエステル製の古着や裁断くずをアパレル製品に再生するRENU(レニュー)プロジェクト

僕が、このオンラインセミナーから理解したところを簡単にまとめると、

・従来から、ペットボトルなどの非繊維原料を繊維素材にリサイクルして、アパレル製品化をする試みはあったが、RENUは古着や不要になった素材から新しい繊維素材やアパレル製品にリサイクルする試みである。

・同社は、まずは、アパレル素材で最も使われている原料のひとつである、ポリエステル素材から取り組んでいる。

・主に、中国で回収した古着、裁断くず、残反、を中国内で粉砕、分解して、薬品を使って、精度の高いポリエステル原料(チップ)に再生し、それをもとに、他国(ベトナムなど)も含めてアジアでポリエステル生地を製造し、アパレルおよびスポーツ衣料としている。

・従来のペットボトル原料だと、原色を抜くのに手間がかかったり、希望の色を再現する上で制限があるが、当プロジェクトはバージンポリエステル原料(従来のポリエステル原料)と同様の染めやすさ、発色が可能になる。

・バージンポリエステル製造には石油が必要となるが、当プロジェクトでは、すでにポリエステルになっているものが原料のため、石油を使う必要がない。

・従来のペットボトルからのアパレル製品化のリサイクルは1回のみ、その後は、廃棄の対象にならざるを得ないが、このプロジェクト(回収→リサイクル→製品化→使用後→回収→リサイクル)の流れに乗せれば、永遠に繊維製品を繊維製品に再生できる。

とのことです。

実際、日本でも、既にH&M、GU、グローバルワーク、デサントなどがRENUの素材を使ったアパレルの製品化と販売を行っているようです。

古着を回収して、再生素材をつくり、アパレル製品にする上での課題

この、古着や裁断くずや残反(使われなかった余り生地)をアパレル製品、繊維製品にリサイクルする課題としては、

ひとつは、コストが挙げられます。伊藤忠の方も通常のポリエステル素材よりは、生地値は高め、とおっしゃっています。

これは、現在、業界でも議論が重ねられていますが、

大手、特に上場企業はESG、エンドユーザーへのアピールも含めて、サステナブルなモノづくりが喫緊の課題になっているので・・・多少、コストが高くても、企業姿勢としては、取り組むかも知れませんが、

一方、エンドユーザーである消費者は、ファッション商品は、おしゃれであること、リーズナブル価格であることが前提にありますので、環境配慮への理解あるエンドユーザーが増えているとは言え・・・価格転嫁されたら、当然、販売(購入)に支障が出ますし、また、それが理由で売れ残り在庫を残してしまう原因になってしまっては、もともこもありません。

伊藤忠の方は、「エンドユーザーがRENUだから買ったのではなく、たまたま、購入を決めた商品の素材がRENUだった」というビジョンを理想としています。

立ちはだかる古着の国際間移動の壁

もうひとつは、古着の回収から再生素材にする上での国際規制です。

今回のオンラインセッションの質疑応答部分で触れていますが、バーゼル条約という国際協定があって、廃棄物のひとつである古着の国際間移動は法律で制限されています。

古着や裁断くずや残反を回収した国または地域で、せめて、繊維原料、ポリエステルの場合、チップにまでする加工を施した上でないと、海外に持ち出せないということになります。(日本の古着を中国に持って行って加工はNGと理解。)

つまり、回収とリサイクルテクノロジーは同じ国または、経済圏の中で完結しなければならない、ということになります。

整理すると、

1)現状は割高となるリサイクル後の生地と製品コスト

2)回収とリサイクル素材(原料)にするまでのテクノロジーをおよび加工を現地で完結させなければならない

この2つが、今回のRENUに限らず、繊維製品のサーキュラーエコノミー型リサイクルの世界的な拡大に向けての課題になるようです。

欧州のZARAの事例との比較

以上を理解した上で、あらためて、前回、ご紹介した、インディテックス(ZARA)のサーキュラーエコノミーの取り組みがこの2点を上手く、解決している試みであることに気が付きました。

つまり、スペイン国内(店頭と街頭)で古着を回収したり、自ら裁断工場を持って、多くの製品用の生地の裁断をスペインの自社工場で行っているインディテックスは、自ら、原料となる古着や自社裁断工場から出る裁断くずや残反を供給することができます。

これらリサイクル素材の原料になるものを、製造する欧州レンチング社(本社オーストリア)に供給できるため、再生された素材を安価に買い戻せるのではないか?(あくまでも、筆者の憶測です。)

次に、古着や廃材の回収からリサイクル素材製造までがEU圏内(スペインとオーストリア)で完結するので、バーゼル条約には抵触しない。

それゆえに、買い上げたリサイクル素材を使って、つくられたZARAの製品コレクション「JOIN LIFE」は従来のZARAの製品とコストも販売価格も変わらない、あるいはユーザーに高いと思わせる価格設定にすることなく販売できる、という所以なのではないか、ということです。

サーキュラーエコノミー(循環型経済)はアパレル業界が未来に向けて避けて通れない課題。

伊藤忠は再生ポリエステルに続いて、再生ナイロン素材最プライヤー大手の伊アクアフィル社ともアジア戦略で業務提携をしたというニュースが入って来ました。

今後、日本においても、国内で回収された古着から始まるアパレル製品のサーキュラーエコノミーに向けてのテクノロジーが進むことを期待したいと思います。

ファッション・アパレル用の繊維素材・繊維製品のリサイクルに関しての現状を知る上での基礎知識が得られ、問題意識も整理できますので、関心のある方は上記リンク先のfashionstudiesさんの動画の視聴をおススメします。


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