ファッション業界のサーキュラーエコノミーの取り組み
ファストファッション後、ショッピングのデジタルシフト後、の世界はサーキュラーエコノミーとクオリティオブライフ、との気づきを与えてくれた8年間の海外インスピレーショントリップ。
ここからはファストファッション後のマーケットとライフスタイルの向かう先をテーマに綴って行きたいと思います。
サステナブル経営って何?
サステナビリティ(持続可能性)やサステナブル経営という言葉が全産業のテーマになり、メディアでそのキーワードを見かけない日はないくらいですが・・・
何をもってサステナブルなのかが今一つしっくりこない方も少なくないと思います。環境のために、社会のために、企業統治をしっかり、と言っても、消費者から見たら、企業の本業と直接結びつかない、ピンとこない取り組みが多いように感じています。
そんな中、ZARAを展開するインディテックス社のアニュアルレポートを読んでいて、腹落ちしたことがあったので、ご紹介したいと思います。
同社は2005年、現CEOのパブロ・イスラ氏がナンバー2になったくらいからSustainabilityという言葉を使っていますが・・・
近年、そのサステイナブル経営の中核に置いているテーマのひとつに、Circular Economy(サーキュラーエコノミー)という言葉があります。和訳すると「循環型経済」となりますでしょうか?
ファッション商品におけるサーキュラーエコノミー(循環型経済)とは
このサーキュラーエコノミーという概念を理解する上で、
従来のリニア・エコノミー、一部の企業で取り組みが始まったリユース・エコノミー、そして、その先にある理想の状態であるサーキュラー・エコノミーの順に説明しましょう。(見出し画像の図はオランダ政府の資料 A Circular Economy in the Netherlands by 2050を元に作成しました。以後の説明も同資料を参考にしています。)
リニア・エコノミーとは、従来型の経済。新しい原材料を使って、製品化し、使用後には、廃棄をすることを前提にした流通経済です。
リユース・エコノミーとは、新しい原材料を使って、製品化し、使用後に、リサイクルできるものは、再び原材料に使って製品化を行い、出来ないものは廃棄するという流通経済です。
これに対して、
サーキュラー・エコノミーとは、
製品化にあたって、そもそもリサイクルできない原材料は使わない。使用後は、そのリサイクル可能な原材料、素材を原料にして新製品をつくる。出来るかぎり使用後のリサイクル素材を使うが、必要に応じて、足りない分だけ、やはりリサイクル可能な新しい原料を足してつくる。
ということで、使用後に廃棄を行わない流通経済のことを意味します。
図にすると、リニア・エコノミーが一方通行の直線なのに対し、サーキュラー・エコノミーでは出口が入り口に合流する、サークル状の形になるというわけです。
ZARAの10年単位のビジョン
ZARAのインディテックス社という企業は、これまでおおよそ10年ごとに経営のビジョンを掲げて来ました。
2000年代はflexibility(柔軟性)のスローガンのもと、メリハリのあるサプライチェーンの内製化を行い、ファッション業界の中でも最もその言葉の意味するところに近い本格派SPA(アパレル製造小売業)モデルのグローバル展開に磨きを掛けました。
2010年代は2013年にfully integrated store and online platform(店舗とオンラインの完全統合)というテーマを掲げ、いわゆるオムニチャネルリテイリング、あるいはOMO(online merges offline)の実現に投資を行って来ました。
2年後の2022年には全世界、全ブランドで完成するとのことです。
そして、2015年以降、その次のビジョンとして、OMOと並行して取り組み始め、これから力を入れて行くのが、Sustainability(サステナビリティ)の中のCircular Economy(循環型経済)というわけです。
ZARAが取り組むCircular Economy(循環型経済)
最新のアニュアルレポートに基づいて、同社がこのビジョンに基づいて、どんな取り組みを行っているかをまとめてみました。
〇同社の700人を超える全ブランドのデザイナーおよび、本社、主要国のヘッドクオーターの社員、計10,000人がサーキュラーエコノミー(循環型経済)のための教育プログラムを済ませた。
〇デザイナーたちは、サーキュラーエコノミーの発想に基づいて、素材選定を始めた。
〇製品のリユースやリサイクル素材の開発のため、自社商品に限らず、ファッション商品の不要品回収を世界的に強化している。
〇同社が寄付を行う雇用創出プログラムのパートナーである慈善団体のカリタスと組んで、同社の店頭はもちろん、スペイン国内の街角に数千もの不要ファッション商品回収ボックスを設置した。
〇スペイン国内や世界の主要都市では、EC宅配の帰り便を利用し、宅配事業者が届けた後、手ぶらで帰らず、顧客の自宅にある不要品を回収している(日本はまだ)。
〇回収した不要品は同社が投資をしたスペイン3か所の仕分け倉庫で①リユース、リメイク販売用、②国内外への寄付用、③アップサイクルのためのリサイクル素材用④その他 に仕分けを行う。
〇リユース、リメイク品はカリタス傘下の国内リユースショップで販売
〇アップサイクルに使える素材(主に綿、麻)の古着は、破砕して自社工場で出た裁断くずと共に、リサイクル素材を製造するレンチング社(オーストリア)に供給。そこでアップサイクルされた新素材(リフィブラ)を買い戻して、その素材で自社製品をつくっている。
〇アップサイクル素材の開発は業界でも、まだ発展途上のため、回収した古着を再生素材にするイノベーション(先端技術)を研究するスペインの大学や研究機関を支援するために、米MITと共同ファンドを立ち上げた。
などの取り組みが紹介されています。
ちなみに、同社の中で、サーキュラーエコノミーの発想に基づく、リサイクル、環境に優しい素材を用いたJoin Lifeのタグのついた商品群は、全商品に占める割合が2019年で20%(実績)、2020年で25%を占めているだろうということです。
プロダクトのライフサイクルに沿って、顧客を巻き込んで取り組むわかりやすい事例
サステナブルを語るにあたって、どんな環境に優しい素材を使うか?というものづくりの局面だけでなく、プロダクトのライフサイクル(回収→仕分け→再利用)に沿って語った方が、顧客も巻き込むことも出来、循環型経済=サーキュラーエコノミーは理解しやすくなる、と同社の取り組みは教えてくれています。
ファッション業界のモノづくりはどう変わるのか?
そんな同社のレポートを読んでいて、10年以上先にあるファッション業界のモノづくりの未来を想像していました。
〇 デザイン(コンテンツ)はもちろん、その時々の最新ファッショントレンド
〇 原材料として使う素材はすべてリサイクル素材(ボタン、裏地も含む)
〇 リサイクル素材以外の新しい天然素材、合繊素材の新規素材調達には、国際的な年間利用枠が設定され、利用規制がかかっていて、企業はその範囲で素材調達をして、モノづくりをしなければならない。
もし、将来、そんな社会が到来するとしたら?・・・・
ZARAのインディテックス社は業界の中でも、いち早く、DX(デジタルトランスフォーメーション)のビジョンをまもなく完成させ・・・
すでにその先にある10~20年後の未来のファッション企業の「ありかた」に向けて動き出しているのだな、と感じます。
サーキュラーエコノミーのゴールは2050年
このサーキュラー・エコノミーの実現は、既出のオランダ政府の資料によれば、25年がかり、ゴールは2050年になるだろうと言われています。
しかし、そんな先の未来も見越して、ビジョンを描いて、信念をもって早くから準備を進めた企業が、その時になれば、業界の中で優位になることは間違いないでしょう。
これからの時代のキーワードになるであろう「サーキュラー・エコノミー」。
それに対して、いち早く取り組み、業界の先進企業のひとつとなっているZARAのインディテックス社のビジョンや動向やを見ていると、ファッション業界全体が進むべき道が見えて来そうです。