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キノコが好きでたまらない
息子の大好物、それはキノコである。
キノコであれば、大概のものはウマいと言って食べ、一緒に買い物に行けばどんどこどんどこキノコをかごに入れる、生粋のキノコ好きである。
シイタケ、エリンギ、シメジにエノキ、マッシュルームになめこ、マイタケに…最近ではポルチーニなどなど、とにもかくにもキノコが好きで好きでたまらないらしい。
「焼きシイタケが一番おいしい。」
バーベキューに行っては、肉をガツガツと食らう娘と旦那の横でせっせとキノコを焼いて食べ、時折肉を食べつつも、最後は取っておいたとっておきのキノコを食べて締めるという徹底ぶりである。
「おいしい所は、まとめて食べたい。」
焼き立てパンバイキングに行っては、キノコシチューパンのキノコ部分を大事にとっておき、最後にまとめて口に頬張って至福の時を噛みしめるというありさまである。
みっともないからやめなさいと言いつつ、まだ小学生だし、そういう遊び食べの時期を堪能させて差し上げたいという気持ちも相まって、なかなか厳しく言えないまま、なあなあに過ごしていたわけなんですけれども。
いよいよ高学年になって、さすがにまずかろうという事でこの所割と口うるさく食事マナーを進言するようになりましてですね。地味に、キノコのうま味に飢えている?のか、満足できる食し方を制されてストレスが溜まっているのか、やけにキノコを食べたがる人が、おりましてですね。
「ねえねえ、今日晩御飯何が食べたい?買い物行った方がいいかなあ!」
夕方四時、微妙に食材があるので、買い物に行くか行かないか迷った私は、宿題をしている息子に声をかけた。
「今日はキノコが、食べたい。」
案の定だよ!絶対キノコって言うと思ったんだけどね、一応念のために聞いてみたっていうか。
……うーん、キノコは昨日全部使っちゃったんだよね、マイタケとしめじ、エリンギたっぷりの和風キノコパスタ、息子の分はほぼキノコだったんだけどさ。ぶっちゃけ、キノコを買いに行くかどうかで、迷っていたりするのだな。
毎日のおかずに、必ずキノコメニューが入っているのが我が家の常なのだ。みそ汁しかり副菜しかり、メインしかり、どこかにキノコの姿が必ず窺える、そういう食卓を我が家は毎日囲んでいるのである。
「じゃあ、今日は干ししいたけが古くなってきてるから、全部使って一掃しようか……。」
先月、スーパーの在庫一掃半額セールでゲットした一パック1000円、値下げ後500円のお徳用干しシイタケ、お値段が張るだけあって実にうまそうな丸っこい肉厚のフォルムでさ、もったいなくてお吸い物の出汁とかおぼろ豆腐の餡とかちびちび使ってたらですね、賞味期限が明日に迫ってしまってですね。……いい機会だ、一気に全部使ってしまおう。そしたら買い物に行かなくても済むぞ……。生キノコではないけれども、はたして、息子の判断は、いかに?
「いいねえ。」
干してあってもキノコはキノコ、大丈夫そうだ。よーし、じゃあ、今日はこのキノコをメインに…いや、ちょっと待て!
含め煮にしたらめちゃめちゃおいしそうなんだけど、旦那と娘はあんまりキノコ好きじゃないんだよね。メインに持って行くとブーブー言われそうだ、よし、キノコたっぷりたまご丼にしよう。
うちのたまご丼はですね、玉ねぎではなくて長ネギをたっぷり使うのだな。そうだ、旦那が近所で貰って来た貧弱なネギ全部使っちゃお。
そうと決まったらさっそく干しシイタケを戻そう…ホントは前日から水につけて冷蔵庫の中に入れとくとおいしいんだけどね、まあ、今日は手早く調理させていただきましょうか。たっぷりの水に干ししいたけを全部いれて、レンジのボタンを押す……。
「じゃあね、君宿題終わったらご飯炊いてくださる。そのあとジャガイモ潰すの手伝ってね。」
「はい。」
キッチンに戻って、本日の晩御飯のメニューを模索しつつ、食材を用意……、たまご丼に合いそうなおかず、何にしようかしらん。
卵六個に、旦那のネギ、干しシイタケワンパック、先週箱買いしたジャガイモ四つにお隣さんにもらった半分腐った玉ねぎ、コーン缶、そういえば旦那が調子に乗って買い込んだフランクフルトがそろそろ賞味期限だったはず、娘がバイト先で貰って来た大豆の水煮もどうにかしたいな、そういえば買い置きのパスタソースや缶詰の賞味期限チェック最近してないな、うわ、トマト缶の期限が二週間前で切れている、冷凍庫の中にはひき肉、ささみ、旦那の牛タンにベーコン、ミックスベジタブルにアイスがわんさか……。
よし、今日のメニューはシイタケたま丼、ポテトサラダフランクソテー添え、ポークビーンズにしよう。生野菜がないけど、まあ明日とんかつでも作ってせんキャベツ山盛り食べとけばいいでしょ。
「宿題終わった。」
文明の利器であっという間に艶やかなキノコへと変身した干しシイタケの皆さんを愛でつつ、戻し汁をざるで越していたら息子がやってきた。手早く米を研ぎ、炊飯器にセットしたあと私の横に立ち、あたりをキョロキョロ…食材チェック中だな。
「あ、じゃあね、シイタケの石づき取ってもらえる?」
「はい。」
息子はマイエプロンを身にまとい、やる気満々である。彼はキノコを食べるのはもちろん、調理するのも大好きなのだ。エリンギを割くのはたまらないと、エノキを輪切りする瞬間の手触りが素晴らしいと、恍惚とした表情で語る有様は…わりと小学生男子とは思えぬほど実に真剣であり、満足げであり、誇らしげに見えるのだな……。
「石づき、取った。」
「じゃあね、シイタケを食べやすい大きさに切って、この鍋の中に入れてもらっていい?」
シイタケの戻し汁と酒、醤油、みりん、砂糖の入った鍋を息子に差し出すと。
「切りたく、ない。」
どうやら、まるまるとしたシイタケをそのまま食したい模様だ。……そうだな、切らなくてもいいか。
「ああ、じゃあ、そのまま煮ようか。火にかけて、沸騰したらネギ切って入れてもらっていい?あとは味見して、卵入れて……任せる!」
「はい。」
息子の料理スキルはこのところ目覚ましい進化を遂げている。一切料理をしない娘の横で、要望を聞いてはうどんだの雑炊だのホットケーキだの作るだけでなく、師匠と仰ぐご近所さんに教えを請い、出汁の取り方やら食材の火の入れ方やら実に細かいところまで気を配り、その成果も相まって調理人としての腕がですね、天井知らずのうなぎのぼりでしてね。
「ジャガイモの火は、弱めた方がいい。」
「たまごは器で割ってから入れよう。」
「少し白だし入れてもいい。」
「トマト缶はヘタを取るといい。」
「フランクは沸騰寸前のお湯で茹でるといい。」
「ローリエないの。」
「パルメザンチーズがあった方がおいしい。」
「今度買い物一緒に行きたい。」
「新しいざる欲しい。」
無口なくせに饒舌とまではいかないものの、やけに口うるさい職人化が激しくてですね!!!適当ちょっぱや調理の専門家であるわたくし、実に肩身が狭苦しくてございますのことよ!?
「は、はい……。」
キッチンを席巻されるのも、そんなに遠くはないと思われる……。
「ただいまー!ごはんなにー!おなかすいたー!」
「ねーねー、餃子売ってたから買ってきたー!食べよう食べよう!!」
仕事帰りに娘のバイト先に立ち寄ったらしい旦那の手には、餃子がたんまりと入ったレジ袋が!!
「また食べ物を予定外にわんさか買ってくる!ごはんあるのに!!」
「だって餃子が買ってくれっていうんだもん。」
「いいじゃん、食べれる食べれる!」
「食べよう。」
今日はわりとこぢんまりしていたはずなのに、実に豪華な食卓が!ああ、今月も安定のエンゲル係数の高さよ……。
ぴー、ぴぴー!
「ご飯炊けた!でもまず餃子だな!モグモグうまー!」
「あたしどんぶりね~♪」
「ご飯盛る。」
「手を洗え!汚い服を脱げ!素手でつまんで食べるんじゃ…ない!」
怒り心頭でテーブルを拭く私が見たのは。
「これ、僕の。」
キノコだらけの、真っ黒な山盛り丼をニコニコしながら持ってきた、息子!思う存分キノコを盛ったな、こういうところが小学生!
「わあすごい、キノコばっか!あたしネギ多めがいいな!」
「お父さんは汁だくでね!キノコはいいや!」
「わかった。」
「ちょ…鍋の中、シイタケ一つもないじゃん!」
キノコなしのたまどんは、ずいぶん美味しかった、そういうお話です……。
こういう干しシイタケめちゃめちゃうまいんだよね…(*'ω'*)
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